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  • 連載 価値を創るホテリエ 第六回 ホテリエの『戦略的思考』その2
価値を創るホテリエ 第5回 連載6 価値を創るホテリエ

2018年08月22日(水)
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本連載では前号に引き続きホテルマンの『戦略的思考』についてお話ししたいと思います。

競争優位を見出して勝負のポイントを定めたら、
①その戦略を全員で共有して、②おのおのの部門ごとにそれをいかに具体策とするか、を検討し、③実行、しなければなりません。

先の自らの例で言えば、実際の口コミの画面などをそのまま引用して、自分たちのホテルの強みを分かってもらうための資料をパワーポイントで作成し、数回に分けて全従業員を対象に説明会を実施。目指すべきゴールと、そこに至るための新たな戦略の説明を行ない、それを実行することで競合優位を確立し、全員の処遇の改善を図ることを、できるだけ具体的に、わかりやすく説明し、協力をお願いしました。

その中では、生のお客さまのコメントはもちろん、自ら実際に自ホテルのレストランと競合先のレストランを食べ比べ、メニューと価格を比較・分析して、いかに当方に優位があるか、それを前面に出せば勝てるかを、全員が納得・理解できるように説明しました。
本連載では前号に引き続きホテルマンの『戦略的思考』についてお話ししたいと思います。

競争優位を見出して勝負のポイントを定めたら、①その戦略を全員で共有して、②おのおのの部門ごとにそれをいかに具体策とするか、を検討し、③実行、しなければなりません。

先の自らの例で言えば、実際の口コミの画面などをそのまま引用して、自分たちのホテルの強みを分かってもらうための資料をパワーポイントで作成し、数回に分けて全従業員を対象に説明会を実施。目指すべきゴールと、そこに至るための新たな戦略の説明を行ない、それを実行することで競合優位を確立し、全員の処遇の改善を図ることを、できるだけ具体的に、わかりやすく説明し、協力をお願いしました。

その中では、生のお客さまのコメントはもちろん、自ら実際に自ホテルのレストランと競合先のレストランを食べ比べ、メニューと価格を比較・分析して、いかに当方に優位があるか、それを前面に出せば勝てるかを、全員が納得・理解できるように説明しました。

(資料編:スライド3:献立表の比較分析)
(資料編:スライド3:献立表の比較分析)

そしてホームページはもちろん、すべての印刷物や発信機会をとらえて、「おいしくて居心地の良いホテル」をアピールし続けたのはもちろん、その強みを確固たるものにするための施策と、各部門がそれをどう実際の販売促進に生かすか、の具体化に努めました。

先ず実行したのが朝食のさらなるブラッシュアップでした。当時「朝食」は口コミの評価は高かったものの、宿泊のお客さまの中で朝食を食べる方の比率(=摂食率)は6割弱で、まだ改善の余地が多くありましたし、逆に「朝食を食べたいからこのホテルに泊まる」という、宿泊利用者を増やすための“武器”とする程のバージョンアップが必要でした。

このホテルで朝食を提供していたのは1階にあるオールデイダイニグで、洋食調理が担当していました。ただ、このホテルには折角地元のお客さまに根強い人気の和食・中華のレストランがそろっているので、両方の料理長に協力をお願いして、和食からは「大根と豚の角煮」や「肉じゃが」「すき焼き煮」などの“ごはんのおかず”を日替わりで、中華からは薬膳中華粥を毎朝提供してもらうこととし、おのおのの料理長の顔写真の入った紹介プレートと共に供しました。

さらにおいしい朝食には不可欠な「美味しい焼き立てパン」を毎朝提供するため、口コミに「自家製の焼き立てパンがおいしい」という複数の方のコメントがあった競合ホテルから、ベーカーシェフに来ていただき、当該ホテルの商品開発と若手パン職人の育成をお願いしました。
こうした具体的な取り組みを一つ一つ進めていくと、口コミの評価も上昇し、それに刺激を受けたサービスや企画のスタッフから、「地元の漁港であがるしらすと産みたての地卵でご当地の名前を冠した名物丼にする“食べ方の提案”をしては…」「豆乳を温めて、できたて豆腐を作っては…」などのアイデアが出るようになりました。

朝食はホテルに宿泊したお客さまが出発前に利用され、最も印象に残りやすく、ホテルの評価を左右する大事な要素ですから、この評価を上げることは、単に朝食の摂食率を上げるだけにとどまらず、宿泊の稼働率を上げることにもつながり、宿泊部門にとってはこの戦略が極めて有効であった、ということが言えると考えています。
 
最もこの戦略の効果が出たのが宴会部門でした。私はこのホテルの財産である「おいしい料理」とそれを作る各々の料理長を広く世間に知ってもらうために、各料理長を厨房の奥から引っ張り出して“スター”として、いろいろな形で前面に登場してもらう工夫を行なうとともに、当初の2年間は「おいしいホテル」を認知してもらうために、各レストランの原価率を通常よりもやや緩めて、「レストランはホテルの広告塔」と位置付け、レストランで食事をした人が、「宴会・婚礼をするなら美味しいホテルで」と思ってくれるよう、原価率のはみ出た部分は広告宣伝費と位置付けました。

おかげ様で接待で和食レストランを頻繁にご利用いただく法人のお客様が、宴会でも当ホテルをご指名いただく機会が増え、徐々にその効果が表れていきました。さらに、「おいしいホテル」を唱え続け、認知度が上がっていくにつれて、セールスのメンバーたちも「同じご予算でやるなら、ぜひご参加の皆さまに喜んで頂ける、料理の美味しい当ホテルで」と、自信を持って販売することができるようになり、その効果も大きかったと考えています。

婚礼部門でも、シェアを奪われていたハウスウェディングを念頭に、彼らに絶対できないことを提案しよう、と考え、「二人が選んだオリジナルメニューでおいしい披露宴」をコンセプトに、和洋中どれをどう選んで組み合わせても良い、当該ホテルだからできるプランをウリにしました。

(資料編:スライド4)
(資料編:スライド4)

7・8月の夏の2カ月間、洋食レストランでどんなイベントを行なうか、レストラン企画会議をオブザーブしていた時のことです。
向かいにある最大手競合先は、この時期毎年テラスを使ったビアガーデンを開きますが、その年はさらに飲み放題のビールをグレードアップして、プレミアムビールにする、との情報が伝わっていました。

地元の鉄道会社を親会社とする別の競合先は、こちらも毎年駅に隣接する同系列のデパートの屋上でビアガーデンを運営しており、今年も同様の企画を行なうとのこと。そこで当ホテルはどんな企画でこれに対抗するか、というのがメインの議題でした。

出席していた企画担当者やレストランの調理・サービススタッフからは、やはり夏のビールは外せないが、会場の雰囲気やメインの料理を工夫して違いを出す、という観点からさまざまな意見が出され、「沖縄フェア」を企画して、沖縄料理をメインにオリオンビールを飲んでもらう、という案に落ち着きそうな気配でした。

現場の人たちの意見を尊重して進めるのが、私が基本としてきたやり方ではありましたが、このときばかりは、出席しているスタッフに戦略的思考を理解してもらいたくて、あえて異を唱えました。

一番ブランド力のある競合先が、トップブランドのプレミアムビールで勝負してきている以上、そこにどんな企画をぶつけてみても、「どれだけ負け差を縮められるか」という程度の“敗者の戦略”にしかなりません。二つの競合先がビアガーデンで勝負するのであれば、その同じ土俵に上がるべきではない、というのが私の考えで、これは「混雑している海ではなく、人のいない青い海を見つけて泳ごう」、という“ブルーオーシャン戦略”の考え方です。つまり、両競合先はビアガーデンを夏の2カ月間の柱に据えるのですから、会社帰りのサラリーマンやOLなど、ビールを飲む人たちをメインターゲットとした訳です。であれば、ウチはこの2社とはまったく異なる“子ども”をメインターゲットにして、「ホテルの楽しい夏休み」にしよう、という提案をしました。子どもの喜ぶバーベキュー料理に、綿あめやラムネ、セルロイドのお面やヨーヨー釣り、風船ゲームなどの趣向を用意して、サービススタッフは祭りのハッピを着て、お子さんには花火セットをお土産にすることにしました。

「子どもをターゲット」と言っても、子どもだけでホテルに食事に来る訳はなく、当然大人が連れてくる(…むしろ子どもが大人を連れてくる)ことになります。
夏休みに子どもが「行きたい」と言えば、親は連れて行きたい、と思ってくれる、ましてや孫にねだられたおじいちゃん、おばあちゃんはさらにその傾向が強いものです。
そして自分が子どものころ夏休みに連れて行ってもらった「楽しい思い出」が記憶に残ってくれれば、やがて代が替わったときに、楽しかったあのホテルに自分の子どもを連れて行ってやりたい、と思ってもらえれば…、そんな長いお付き合いを望む思いもありました。
レストランのセールスミックスの面でも、壮年層や社用のお客さまも多く、落ち着いた雰囲気を大事にしたい和食レストランと、最上階のロケーションで友人同士からカップル、社用まで、幅広い客層に支持される中華レストランとの住み分けもできました。

結果的にこの年の夏、洋食レストランは子どもたちの喜ぶ顔であふれ、上々の売り上げを上げることができ、以来ここでは秋のハロウィン、冬のクリスマス、バレンタイン、春のイースターと、子どもが楽しむことをメインとした企画を続け、ほかにない客層の開拓に力を入れています。
競合との“恒例の夏のビール企画”をどうするか、という固定的な考え方、長年の慣例などにとらわれることなく、独自の広い視点で新たな考えを生むことも必要です。

ずっとやってきたことを変える勇気、誰もやっていないことを始める勇気を大切にしていただきたい、と思います。

競合先のホテルが採った施策で、思わず「天晴れ!」と思ったことについても、ご紹介しておきましょう。
そのホテルは、市役所やお城のあるエリアに在って、駅から歩くと25分以上かかるため、口コミサイトの「立地」の評価では、常にほかの後塵を拝していました。ところがある日定点観測(定期的に行なう自社・競合先の評価のチェック)で気づくと、このホテルの「立地」の評価が、3点代から4点台に急上昇していたのです。

もちろんホテルが引越しをした訳ではありません。この突然の飛躍の理由が知りたくて、コメントを精査していく内に、その答えにたどり着きました。ホテルの宿泊プランに、「タクシーチケット付きプラン」を加えたのです。

個人のお客様と違って、出張でホテルを利用されるお客さまは、一定の金額の範囲内であれば宿泊料金は会社が払ってくれます。ホテルからすればタクシー会社に払う料金を宿泊プランとして料金に上乗せてしているだけで、自らの収支には影響せず、逆に同じ鉄道系グループのタクシー会社を通してグループ収益にも貢献することになります。

一方お客さまにとっても、このプランを使って駅からタクシーに乗って来れば、距離はまったく気になりません。まさに「三方良し」の発想です。おそらくこのホテルの中で、口コミの総合評価の足を引っ張っている、ホテルの“弱み”である「立地」を、何とか改善する方法がないか、考え抜いたことと思います。「立地」という、通常であれば「所与」の条件として受け入れざるを得ないことを、あきらめずに考えて、「タクシーチケット付き宿泊プラン」という解決策を見つけ出したわけで、まさに「天晴れ!」としか言いようがありません。

ホテルに携わっていると、「立地」の問題のほかにも、「施設」の問題など、個人の力ではどうしようもない、と思われる問題に直面することがあります。私はそんなときには必ず、競合先によるこの「天晴れ!」な解決方法を思い出し、あきらめずに考えることを肝に銘じています。

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