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価値を創るホテリエ 第4回 連載 価値を創るホテリエ

サービス業(宿泊業)における生産性向上とは

2018年07月23日(月)
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前回の連載で述べた「生産年齢人口の減少にともなって国力が低下する」という議論が行なわれる際には、必ずと言っていい程、「特にサービス産業における生産性の向上が必要」というコメントが付き、サービス産業の生産性向上こそが日本の課題、という論調になっています。
(参照:図2)

サービス業の生産性
サービス業の生産性

サービス産業の労働生産性を国際的に比較すると、日本は先進諸国の中でほぼ中位程度にいるのですが、中でもアメリカとの差が拡大していることが問題とされており、さらにこれを国内の他産業と比較したときに、サービス産業の中でも特に宿泊・飲食サービス業の生産性の低さが際立っているのは事実です。(参照:グラフ6および7)

サービス業の労働生産性の国際比較
サービス業の労働生産性の国際比較

産業別 名目労働生産性
産業別 名目労働生産性

ではどうしたら、この数値は改善されるのでしょうか?
日本の宿泊サービス業において、現場を預かる支配人クラスの管理職の方は、「労働生産性の改善」という言葉を聞くと、条件反射的に「人件費を削らなければいけない」と考える人が多いようです。

そもそも「労働生産性」とは、「就業者一人当たりが働いて生み出す付加価値」を意味しますが、ホテルなどの現場においては、売上を人数で割った「一人当たりの売上高」で量るのが普通ですから、分母となる人の数を減らせば生産性が改善される、という考え方は間違いではありません。
 
ただし忘れてはいけないのが、生産性を上げるもう一つの方法、すなわち分子となる売り上げを増やすことです。麻婆豆腐の例で見た通り、顧客に付加価値を理解してもらうことができれば(=顧客が認めてくれる付加価値を付けることができれば)、より高い価格であっても受け入れてもらうことができます。前述のように、常連のお客さまがホテルのフロントマンやレストランのサービススタッフを覚えて名前で呼んでくれたり、話しかけてくださることがあります。それはお客さまがそのスタッフの接客を評価し、「あの人のいるホテル・レストラン」というブランド価値として認められた、ということです。

付加価値のついた商品・サービスを提供することができれば、より高い価格が受け入れられ、売上総額を上げることができ、それによって労働生産性も改善される、という良い循環を生みます。「労働生産性の改善」という同じ結果であっても、この二つの改善には大きな違いがあります。
前者の場合には分子の売り上げが増える訳ではなく、「人が減る」分、サービスなどの付加価値が減ることが予想され、サービス水準の低下→お客様が「適正」と感じる価格(=バリュー)の低下→顧客離れ、もしくは更なる労働生産性改善を迫られる、という“縮小均衡の悪いスパイラル”に陥るリスクがあります。

一方後者の場合には、売り上げの増加が伴うため、労働分配率を一定に保てば賃金の上昇が見込まれ、そこで働く人たちの処遇の改善につながれば、従業員の“やる気”(=モティベーション)を向上させ、さらなるサービスクオリティの向上という好循環が期待されます。

宿泊サービス業で働く一人一人が、その商品やサービスに付加価値を付けることのできる「バリューのある存在」となれば、宿泊サービス業全体の生産性は改善され、働く人たちの処遇・給与水準の向上を図ることができる、これこそが、いまこの業界全体で取り組むべき課題であると、私は考えます。
 
ただし生産性を考えるときにもう一つ忘れてはならないのが、この生産性の数値には“クオリティ(=質)”という概念が入っていない、ということです。

 宅配事業を例にとれば、届け先が不在の場合、日本では不在票を置いて荷物はいったん持ち帰り、希望の日・時間帯に再配達するのが“普通のサービス”となっており、仮に一人のドライバーが1時間に20個の荷物を配達に行って、半数が不在だった場合に、時間当たりの生産性(個数)は10ということになります。一方でアメリカの場合、不在の際には荷物を玄関先に置いて帰るのが“普通”で、1時間に20個の荷物を配達した(置いてきた)ドライバーの生産性は20ということになります。かくして日本の宅配事業の生産性はアメリカの1/2という式が成り立つのですが、果たしてこの結果に納得感はあるでしょうか…。

正確にはこの生産性は配達した個数ではなく、配達料金の売上高で算出されるのですが、荷物1個の配達料金がアメリカの方が格段に高いので、この差はさらに拡がることになります。

私が海外で生活していたころ、久しぶりに日本に帰って来た際に改めて驚いたことが、日本の“サービス”、およびそれを行なう“人”の「質の高さ」と、それが日本では「当たり前」のように受け取られていることでした。海外で買い物や食事をした経験をお持ちの方であれば、多かれ少なかれ経験したことがあるかと思いますが、海外では『サービスは高い』のです。安価な買い物、手軽な食事をする場所で、感じの良い、心温まるサービスを期待することはまずできませんし、腹が立つほどの対応であっても、「安いんだからしょうがない」とあきらめるのが普通です。

逆に一流のブランドショップやデパート、レストランでの買い物や食事であれば、快適で行き届いたサービスを受けることができますが、その分対価である価格やチップなどのサービス料も、相応に高いものを要求されます。それでも高名なガイドブックに掲載されるような星付きのレストランのウェーターであっても、担当するテーブル以外のお客さまに声をかけられても対応することはなく、「チップ(=自分のサービスに対する対価)を払ってくれるお客さま以外に、タダでサービスを提供することはしません」という姿勢ははっきりしています。

トイレを利用する際の清掃人やタクシーの運転手など、特段のことをしてもらった訳ではなくとも、そのサービスに対してチップを要求されますし、感じの良いドアマンや荷物を運んでもらうポーターには、「チップをはずまないと…」と思ってしまう程、海外では『サービスを受けるには相応の対価が必要』なのです。

これに対して日本には、高い水準の良質なサービスがあふれ、皆がそれを当たり前と思っているためか、日本人は「サービスに対してお金を払わない」、世界的には特異な民族と言えるかもしれません。

一昔前に大手の外食産業チェーンが、「スマイル0円」というキャンペーンを行ない、テレビでも盛んに宣伝していましたので、ご記憶の方も多いかと思います。日本では特に驚きもなく「マアそうだろうな」程度に受け止められていたようですが、このキャンペーンが実施されたのは、世界的なチェーン店の中でも日本だけで、本家のアメリカはもちろん、ほかのどこの国でも行なわれてはいません。

海外では「スマイルは0円では買えない」からです。

この「サービスの価値」に対する“内外価格差”(→海外ではサービスの値段が高い半面、日本ではサービスの質が極めて高いにもかかわらず、その値段が“不当”と言っていい程“安い”=評価されていないこと)こそが、日本のサービス産業の生産性が諸外国対比で低く位置づけられている原因であると、私は考えています。

また、日本国内でみても「サービスの値段」は工業製品などの「モノの値段」と比べて、質的には勝るとも劣らないレベルにあるにもかかわらず、割安に放置されているために、産業別生産性を比較した際には、サービス産業がほかに比べて見劣りすると考えれば、この現象にも説明がつきます。

だとすれば、この生産性の問題をサービス産業で働く人たちの責任に帰すのは誤りであると思いますし、最近の人手不足という逼迫
(ひっぱく)した状況が契機ではあっても、日本において「サービスの値段」の改定が受け入れられ、改善に向かい始めたことは、好ましいことと言えます。この傾向を一層確かなものとしていくためには、サービス産業に身を置く一人一人が高い付加価値を身に付けて、サービスの消費者であるお客さまが、喜んでより高い対価を払ってくださるような“質の高いサービス”を提供し、その対価をグローバルスタンダードに近づけていくことが必要であると考えます。
 

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