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価値を創るホテリエ 第5回 連載 価値を創るホテリエ

ホテリエの「戦略的思考」

2018年08月13日(月)
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Ⅱ. 『戦略的思考』を身に付ける
 
前章において、宿泊・サービス業界で働く人たちは「素直」だと述べましたが、その半面「あれこれ策をろうすることはしない」、別の言い方をすれば「戦略的思考に乏しい」とも感じています。

ビジネスも市場をめぐる他社との戦いですから、それを行なう以上、勝たなければなりません。そして勝つためには、ただ闇雲に「頑張る」「一生懸命やる」のではなく、事前に自社の強みは何で、相手の弱点はどこか、しっかりと調べたうえで、「勝つためにはどうしたら良いか」、その戦略を立て、道筋を決めてから実行に移すことが大切です。

金融業界の中でも私のいた資産運用部門は、“ゼロサム”(=合計は常にゼロになる、つまり誰かがプラスを得るためには、誰かがその分のマイナスを被る)で成り立つ“マーケット”を相手に「金を稼ぐ」ことを求められる世界ですから、できるだけ多くの情報を分析して考え、戦略を駆使して勝たなければ生き残れないため、素直で純朴な人たちは淘汰されてしまうのか、ほとんどお目にかかることはなく、そこに大きな違和感を覚えました。

そのように高い戦略性が求められるドロドロとした業界ですから、そこで働く社員にはMBAプログラムをはじめ、さまざまな戦略論を学ぶ機会を与える企業が多いようで、自然と戦略的視点でモノを考える癖がついていきますが、I章の1で述べた通り、宿泊・サービス業界ではそのような「実務から乖離した教育」の機会をあまり与えない傾向にあるためか、戦略的にモノを考える人が少ないように思えます。

ここに自らの「価値を創る」チャンスがあります。

戦略的思考をとる人が少ないのですから、それを身に付ければ「勝つ確率」は上がります。
ここではどうやってモノを考え、勝つための戦略を作るか、具体例に則して考えていきたいと思います。

それぞれのホテル・旅館には、地域・マーケットを同じくする「競合」があるはずです。こうした競合他社よりも多くのお客様に自社を利用してもらう為には、競合に勝つための戦略が必要です。

そして勝つための戦略を作るには、まず自社と競合他社のことをよく知ることから始めなければなりません。

幸いなことにネット社会の今日では、机上でパソコンを操作するだけで多彩な情報が集まります。
私の場合、まず主要な口コミサイトにアクセスして、自社と競合他社の口コミのコメントを、3年前まで遡ってすべてチェックしました。その際読む順番は、5段階評価の「5と1」が付いているコメント、「4と2」のコメントの順で、「3」は自社分以外は「時間があれば…」、という程度です。対象は宿泊については主要2社に加えて、高級施設を対象としたサイトや外国人の利用の多いサイト、レストランについても主要2社のサイトで行ないました。
「5と1」→「4と2」の順でコメントを読むのは、その目的が各々の「強み(5と4)」と「弱み(1と2)」を把握することにあるからです。

口コミは言うまでもなく、実際にその施設を利用した人の率直な感想ですから、大変参考になるのはもちろん、多くのコメントを読むことによって、そこに共通した項目・意見を見つけることができます。その共通項目をおのおのの「強み」「弱み」として整理していく、SWOT分析と呼ばれる手法です。
これを行なうことによって、実際に各施設を利用したお客さまが、おのおのの施設のどんなところを気に入って、どんなところを不快に思ったか、ということがよく分かります。また各施設の「強み」と「弱み」については、コメントの精査に加えて「サービス」「施設」「立地」などの各項目評価点によっても裏付けられます。
こうして整理した自社・競合先おのおのの施設の「強み」と「弱み」を分析し、勝負のポイントとなり得る「競争優位」を見つけ出します。

(資料編:チャート1:沖縄の自社ホテルの例)
(資料編:チャート1:沖縄の自社ホテルの例)

「競争優位」とは、このポイントであれば競合先に勝てる(=優位にある)、というポイントをみつけ、そこを全面に押し出して勝負する、という、マイケル・ポーターという人が提唱した戦略です。

例えば、競合先と比べて「立地」が一番良い、ということであれば、「○○駅に一番近いホテル」「○○城を一望できる客室」など、勝負のポイントを明確にして、それをあらゆる情報発信機会を通じて繰り返し宣伝し、『立地で選べばココ』という位置づけを確立して、競合との差別化を図ることです。

(資料編:チャート2:沖縄の自社ホテルの分析例)
(資料編:チャート2:沖縄の自社ホテルの分析例)

私が初めに携わったホテルの場合には、それは「おいしくて居心地の良いホテル」でした。

口コミのコメントで「朝食がおいしい」「夕食が素晴らしかった」という、自社に対するお褒めの言葉が多かったことに加え、向かいにあって最も競合の大きかった、ブランド力のあるホテルの「食事」の評価が、点数ではほぼ同水準であったものの、「高くてうまいのは当たり前」「これっぽっちでこの値段は高過ぎ」等、コストパフォーマンスに対する不満のコメントが少なからずあったことから、「おいしい食事」に競合優位があると判断したからです。(ほかの競合先は必ずしも食事の評価が高くありませんでした)

またこの競合先は「サービス」においても「さすが一流」という評価のコメントがある一方で、「チェックインの列ができているのに、ロビーにいるほかの人たちは担当が違うのか知らん顔」。「料理の説明もこちらが聞けばちゃんと答えられるのに、聞かれなければだんまり」「ブランドを意識し過ぎるのか、お高くとまっているようでお願いし辛い」など、「一流=敷居の高さ」を指摘するものが散見されました。

お客さまとの距離感については、格式もさることながら、土地柄によっても受け取り方に差が出る為、大変難しい問題ですが、宴会やレストランサービスの担当者からは、「お客さまから親しく話しかけられることが多い」と聞いていましたので、もう少しウェットに接する、温かみのあるサービスが受け入れられる土地柄と判断し、それを「居心地の良さ」に込め、コストパフォーマンスも含めた「敷居の高いホテル」との差別化を図る戦略としました。

加えて調理部門がかかわる「おいしい」だけではなく、そこで働く全員がかかわって作り上げるホテルの「居心地」を目標として、皆でこれを共有したい、との思いもありました。

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