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第一回 連載 価値を創るホテリエ

宿泊・サービス業界の課題

2018年04月02日(月)
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Ⅰ.  宿泊・サービス業界の課題(その1)
 
この業界に入って最初に疑問を感じ、改善していかなければならない、と考えたのが、ここで働いている人たちの「給与水準」です。
金融業も宿泊・サービス業も「モノを作らない」「付加価値を売る」産業であることは同じです。にもかかわらず、その平均年収には2倍以上の格差が生じています。(参考:グラフ1)

 


 ところが実際にその両方に携わって、勤務実態をみてみると、明らかに宿泊・サービス業の方が「労働している」、と感じます。

 金融業界ではほとんどの企業が完全週休2日制で、有給休暇はほぼ希望通り取得できますし、年次休暇の他に連続休暇などの制度も充実しています。

 それに対して宿泊・サービス業界では、休日数そのものの少なさもさることながら、シフト勤務の為に勤務時間も不規則、他人(ひと)が休んでいる週末や、お盆・年末年始にも働かなければならず、昨今の人手不足の影響を受けて、有給休暇の取得にも苦労する状況であることは、皆さんご存知の通りです。

 休日や勤務シフトの関係で、家族サービスはもちろん、家庭でのコミュニケーションの時間もままならない状況で、一生懸命働いている人たちの処遇・給与が、(絶対的にも相対的にも)この水準で良い訳がない、と強く感じましたし、これを改善し、働きに見合った水準にすることこそが自分の使命であると肝に銘じ、この8年を過ごしてきました。

 では、宿泊・サービス業で働く人たちの給与水準を上げるにはどうしたら良いのでしょうか。先ほど私は、宿泊・サービス業の方が「労働している」と述べました。

 「働いている」という、より一般的な言葉を敢えて用いなかったのは、「モノを作らない」「付加価値を売る」業界に於いて「働く」ということは、仕事の中で付加価値を創っていくことだと考えるからです。

 ところが実際には、この業界に於いて「仕事の中で付加価値を創っていく」ことのできる人は少数で、大多数は定められた時間、定められた業務を、決められた手順で、粛々と「労働している」に過ぎない、ここにこそ、この業界の給与水準が低位に甘んじている理由があるのではないか、と私は考えています。無論“サービス”という仕事(=本業の範疇)をつきつめて、「縦方向(深く)の付加価値」を付けている方は少なくないと思います。「Ⅰ」に於いては、この「縦方向の付加価値」について考え、仕事の幅・厚みを増す横への付加価値の拡がりについては、「Ⅱ」以降で考えたいと思います。
 
 私がホテルの現場で責任者を務めていた際に感じたのは、宿泊・サービス業で働く人の多くが大変「素直」で、上司から言われた事をそのまま受け入れて、まじめに働く人たちだ、ということです。

 こうした従業員の特質は、私が勤めた2つのホテルだけのものではなく、どうもこの業界全体の特質であるようで、当初「なんて良い人たちなのだ」と思われたこの特質にこそ、問題の本質があるのではないか、と思うようになりました。

 かつて労働力がふんだんにあった時代、労働集約型の産業であるホテル業に於いては、「如何に安価な労働力を効率的に使うか」が、経営的観点からの課題であったと考えられます。

 その為には、人材の採用・確保が容易だったネームバリューのある大手を中心に、高校を卒業したばかりの若年社員を大量に採用し、業務を行う上で必要最低限の実務知識だけの研修を行い、それ以外の人材育成の為の教育は、極限られた幹部候補生のみを対象とした為、一般社員については、“知恵”を付けないままに従順に働かせ、一定年齢に達したら若手への循環を促すような人事政策が採られてきたことに回帰するのではないか、という結論にたどりついてしまうのは、私の誤解でしょうか…。

 実際に私が担当したホテルでも、基本動作・業務はきちんとできるものの、それ以上の付加価値が無い為に役職に就くことのできない、こうした大手ホテルチェーンOBの40代~50代の社員の方が、相当数働いています。自分の仕事や、定められた職務、手順に疑問を持つことを許されずに育った従順な社員は、「どうしたらもっと効率的にできるのか?」「どうしたらもっとお客様にとって使いやすくなるのか?」といった、『疑問からはじまる改善』=『付加価値を産む術』を知らされていないのです。「付加価値を売る」産業に於いて、『付加価値を産む術を知らない人』の給料が高くなることはありません。

 職場にあるマニュアルに定められた手順を守ることは、大抵の場合最も効率的であって、正しいやり方であり、職務規律の観点からも必要なことではあります。ただ、制定時には完璧であったマニュアルも、時間の経過とともに、時代・自然・経営等の諸環境の変化や顧客嗜好の変化、施設の劣化などによって、齟齬が生じることもある筈です。何も考えることなく、何の疑問を抱くこともなく、闇雲にマニュアルを受け入れるのではなく、常に「より良い結果」を探求する視点を持つことは大事なことです。ひとりひとりが感じる疑問を組織で検討し、改善策を講じていくことで、ホテル全体の価値があがります。

 職場のマニュアルや慣行を「所与」のものとしない、疑問を持つことは「悪」ではない、このマインドセットの変化を、先ず受け入れてみることから始めてみては如何でしょうか。

 もうひとつ宿泊・サービス業界で気になる事が、あまりに「お客様に弱い」体質です。

 おもてなしの心、ホスピタリティが基本になければならない業界ですから、「お客様本位」に考えることは充分に理解できますし、そうあるべきだと、私も思います。

 ただ、常識的に考えて「余りに過度な要求」や「無茶なリクエスト」に対してさえも、お断りすることができない“体質”に、「そこまでしなくても…」と思ったことが何度もあります。

 私がかつてそこで働く人たちに最初に問いかけたのは、「お客様は神様」か、ということでした。
この問いに対して、宿泊・サービス業界に長くいる方の意見は、あるいは分かれるのかもしれませんが、私は断固「No」だと考えています。

 お客様とホテルマンの関係に於いて、人間的な上・下がある訳ではもちろんありませんし、ましてやお客様は「神様」ではありません。禁煙ルームやレストランで煙草を吸ってはいけないし、アメニティ以外の客室の備品を持ち帰ってはいけない。お客様といえども、決められたルールは守って頂かなければならないことは自明です。

 それでも、ホテルマンは「すこしでもお客様の良いように」とお客様の為を思って行動しなければなりません。何故でしょうか…。

 それはお客様が「お金を払ってくれる」からだ、と私は思っています。お金を払ってサービスを買ってくれるお客様に、気持ちよくお金を払ってもらいたい、次の機会にもまた自分たちのホテルにお金を払ってほしいし、できればもっとたくさん払ってほしい。

 だから「お客様本位」に考えるのであって、これは何も宿泊・サービス業界に限ることではありません。

 つまり、「お客様を第一に」、「お客様本位に」というのは、そうすることによってそのホテル・施設の売上をあげる為の「手段」であって、そのこと自体が「目的」ではない、ということを理解すべきですし、この「目的」と「手段」を取り違えては、“本質”を見誤ります。

 宿泊・サービス業界は、「ホスピタリティ業界」という位置づけ故か、はたまたホテルマンのプロフェッショナリティやプライドの故なのか、「売り上げをあげることが目的」で、「お客様本位はその手段」だということを認めたがらない人が、意外に多いように思います。

 しかし、売り上げ・利益をあげることが、すべてのビジネスの目的であることは否定のしようがなく、それ無しにはそこで働く人たちの給与・処遇の改善は実現しません。

 そして宿泊・サービス業界で働く人たちが、自分たちの処遇や働く環境に満足(=ES,  Employee Satisfaction )して、心からの笑顔でいることができなければ、お客様に対して真に満足(= CS, Customer Satisfaction)していただけるサービスはなしえない、ということを、理解しておくべきだと考えます。
 
 

平 剛俊
ホテルマネージメントインターナショナル㈱
常務取締役 経営企画部長
平 剛俊 プロフィール
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