名声とともに品種と産地とワイン名が混在し始めた
プロセッコの親しみやすさや高いコストパフォーマンスの根底は、主たるブドウ品種であるグレーラとそのキャラクターに影響力を持つテロワール、そしてグレーラの魅力に適した製法にある。
その歴史は紀元前2世紀のローマ時代にさかのぼり、現在のフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州の州都トリエステの近く、プロセッコと呼ばれる街から生まれたと言われている。1868年に設立されたソシエタ エノロジカ トレヴィジャーナ社がプロセッコにスパークリングワインとしての地位を見出し、その価値はさらに高まった。
元来は街の名前であったこのワインとともに、ブドウ品種もプロセッコ種と呼ばれ、その名は広まっていく。このブドウの栽培にコネリアーノからヴァルドッビアデネに続く丘陵地が適していることが分かり、さらに栽培地域は南イタリア、国外にも拡大した。「プロセッコDOC」が認定されたのは2009年。ブドウ品種とワイン名、産地名が混在していたプロセッコは、ヴェネト州とフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州を生産地域として明示するものとなり、ブドウ品種は“ 旧名”であるグレーラ種に統一され、この地域を除く「プロセッコ」を称するワインが消滅したわけだ。
グレーラのフレッシュさを生かす“最良”の二次発酵
ブドウ品種としての「プロセッコ」は2009 年からグレーラ種に改称。これによって品種と産地、ワイン名の混同は避けられた。写真はLe Contesse の畑で、ここではオーガニック・プロセッコのブドウを育てている
プロセッコ醸造タンク。プレスしたジュースを零度で保存して必要に応じて製造する。フレッシュさを第一にした効率的な製造方法だが、これを実現するには相応のコストがかかっている
スパークリングワインにはメトード クラシコ(瓶内二次発酵=シャンパーニュ方式)だけを是とする概念は、プロセッコとグレーラをもって改めるべきだろう。イタリアで大樽による二次発酵をフェデリコ・マルティノッティ氏が発明したのは1895年。タンク内二次発酵の呼称「メトー ド シャルマ」(シャルマ式)は、1910年にフランス人のユージン・シャルマ氏によって洗練されたものと解釈され、イタリアでは「メトー ド マルティノッティ」(マルティノッティ方式)と呼ぶ生産者も少なくない。
今日のスパークリングワインの多くに用いられるこの方式は、スパークリングワインの製造期間を短縮するだけでなく、ブドウ本来の香りをさらに高めるものだと考えると、よりフレッシュなスパークリングワインを楽しむことを可能にしている。二次発酵や熟成に必要な時間を短縮するマルティノッティ方式は、ブドウが持つフレッシュさを損なうことのないワイン造りである。エレガントでアロマティックな品種であるグレーラから生まれるプロセッコは、優雅で洗練された白い花を思わせる芳香とリンゴや梨、柑橘やトロピカルフルーツといったフルーティーさが際立つ。豊かな風味と新鮮さ、生き生きとした感覚が糖度と酸度のバランスがよく伝わるワインだ。この特性を高めるために、大型のオートクレーブ(アウトクラーヴェ)と呼ぶ加圧タンクで最短でも30日間かけてベースワインを再発酵させる。二次発酵に費やす期間は生産者によって異なり、3カ月から半年間を費やすメーカーも存在する。
プロセッコはこうして、そのアロマや心地よさをもって最大の個性であるフレッシュを表現し、イタリア国内はもとより世界の消費者に愛されるワインとして成長している。
さらに、生産コストを減らすことでより身近に楽しめるワインとして評価されているプロセッコだが、そこには「PROSECCO DOC」をブランドとして展開する取り組みと、生産者の技術革新があることにも注目したい。
(次号に続く)
産地を訪ねる ① Le Contesse(レ・コンテッセ)
レ・コンテッセの基幹商品のひとつ「プロセッコ DOCトレヴィーゾ エクストラドライ」
水口晃ソムリエ(左)と語るレ・コンテッセのフランチェスカ・チェオットさん
1970年代の初め、スパークリングワインとヴェネツィア地方のDOC ワインを生産する醸造所として誕生したワイナリー。トレヴィーゾの北、ピアーヴェ川から約5㎞に位置しており、標高は20~50m。平地の土壌は砂混じりの粘土質、小丘は粘土質土壌でブドウ栽培に適したミネラルが豊かな土壌を持つ。オーガニック・プロセッコの生産にも積極的であり、グレーラのデリケートさを保つために手摘みによる収穫を行なっている。ブドウは2時間かけてソフトプレスし、タンクに映したジュースは0℃で保管し、需要に合わせて醸造する。
ファミリーワイナリーで現在が3代目。醸造はブドウに負荷をかけないためにタンクを移し替えず、一次発酵のみでスパークリングワインを造り上げる「シングルファーメンテーション」を採用している。すべてのプロセッコにこの製法を採用しているワインメーカーは数えるほどしかない。レ・コンテッセのプロセッコからは「フレッシュネス」という彼らの信条が感じられる。
2017年プロモーション優良店たちは後日、イタリア最大級のワイン展示会「VINITALY」でもレ・コンテッセのブースを訪ねた
左から、戸羽剛志氏(NIDO)、大西淳一氏(KNOCK)、フランチェスカさん(レ・コンテッセ)、俵大洋氏(KNOCK)、茂木孝弘氏(NIDO)、水口氏、ターニャ・バラッティンさん(プロセッコDOCワイン保護協会)
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