宿泊産業の競争が激化し、ゲストのニーズが多様化しているいま、ホテルのマーケティングに求められている戦略は、とんがりをつくることである。とんがりで差別化し、そのとんがりに関心のあるゲストが集まる。本連載では、そんなコンセプトが際立ったホテルや宿泊施設を厳選して紹介し、それを支える秘訣を紐解いていく。担当するのは、立教大学観光学部で宿泊ビジネスを学ぶ学生たち。学生のピュアな心に、日本のホテルはどう映り、どう表現されるのか。
『自然を介して自分自身と対話する禅的空間』
鹿児島県奄美大島北部にある、一棟貸し切りタイプのヴィラ『伝泊 The Beachfront MIJORA(以下MIJORA)』は、その名の通り海辺に位置する。建築家である山下保博氏が手掛けた、シンプルかつこだわり抜かれた全13室のお部屋からは常に波の音が聞こえ、誰からも邪魔されることなく癒しの空間を堪能できる。奄美大島の自然、集落、人、時間に馴染むように造られており、同島では他に古民家、ホテル、広場等を運営しているが、グループ全体で持続可能な観光を中心としたまちづくりに取り組んでいる。総合プロデューサーである山下保博氏に話を伺った。
----自然と向き合うことをコンセプトとしている宿は他にもあると思いますが、どういった点でMIJORAは異なりますか?
まず、「ここに、建築家としてどのような建築をするとこの地域が良くなるのか」、「その建築が持つ社会的意義や環境的な意味合い」を考えるのが僕の建築家としての仕事であると考えています。建築家として中国のまちづくりを依頼された際、生命の根源が集まっている、人間が人間たり得る禅的状態をどうやって作っていくのかということを、このまちづくりを通して考えていきました。
MIJORAの設計をする際、建築家として建築を作るのであれば、中国でやろうとした禅的なもの(人間が人間たり得る禅的状態)を建築で表現したいと考えました。海を見て自然と対話するというよりもむしろ、自然を介して結局は自分自身と対話する空間を作る。これが本質です。
自然と対話する・向き合うといったコンセプトの宿は最近すごく多くなってきているけれど、MIJORAのように禅的要素を含み、自然を介して最終的に自分自身と向き合うというコンセプトのものはほとんどないはずです。