どうしてひきこもってしまうのか、40 ~ 50 代の前半までの人たちは、まさにバブルの崩壊にともなう就職氷河期時代を体験し、その後も日本経済の低迷から厳しい時代に向き合ってきた世代です。おそらく本当は望んでいた企業や職種もあったのでしょうが、若き力を断ち切るがごとく狭き門の中、希望する企業や職種はさておき、ともかく就職することがゴールのごとく、馬車馬的に数10 社の門をたたいてきたのだと思います。
ところが、就職してから20 年が経過する中で、課長や部長などポジションは上がっていくものの、本来望んでいなかった企業や職種で毎日毎日、責務に追われていくうちにストレスがたまり、“自分は何なのか?”“自分の人生は本当にこれでいいのか?”と、胸の思いを誰にも打ち明けることもできずに自問自答を繰り返していくうちに、出勤の足が遠のき、社会から離れていく自分に不安を感じながらも、家にひきこもるという状況になったのではないかと察します。もちろん、中には親の介護など致し方ない状況の中、夫の親とは本来は赤の他人である妻の支援も得られず、会社を辞めて父や母との介護生活をしている人もいるでしょう。
親といっても親も年を重ね、40 代であれば親は70 歳前後。娘や息子が生き生きと働いていることが望ましいことですが、その子ども、世間では大人が家にいることはきっと辛いことだと思います。本来は老後の生活をアクティブシニアとしてお友だちと旅行へ行ったり、趣味を楽しんだりなど、天に召されるまでの間、十分に人生を楽しみたいと思っているはずです。ところが、子どものときのように大の大人に毎日、毎日、食事を作らなくてはなりません。ときには精神疾患に陥っていれば奇異な行動を起こすこともあるでしょう。もしかしたら、実の子にいつ殺されてしまうかもしれないという思いで、毎日、恐怖と闘いながら過ごしている親もいるかもしれません。
今の社会情勢や生活環境を考えると、“若年ひきこもり”の数を食い止めていかなければなりません。年齢を重ねていく中で中高年の対象に食い込んでくるからです。そのためにホテル業界はどのような手を差し伸べていけばよいのでしょうか。人と交わること、人を楽しませること、人がいて成り立っている業界です。天照大御神が岩戸から顔を出したときのように満面な笑顔あふれたホテル業界の人たちが集まり、ガヤガヤと会話を楽しんでいる姿や歓喜あふれた人間の声が聞こえてきたらどうでしょう。きっと、閉ざされた門戸からひょっこり顔をだすかもしれません。まさに今こそ、ホテル業界の出番なのです。
第70回
“風の人”山下裕乃の「THE SHARE」
第70回 40 ~ 64 歳“ 中高年ひきこもり” 全国約60 万人に達す ~今こそ、満面な笑顔あふれたホテル業界の出番~
【月刊HOTERES 2019年04月号】
2019年04月19日(金)