大分県・湯平温泉にあるわずか6室の「山城屋」。温泉地として今や世界的にも有名になった由布院から電車でわずか12分と至近ながらも無人駅となってしまっている湯平駅からさらに車で約10分。まさに山奥の小さな旅館が、なんと連日外国人客を中心に満室となり、そして、山城屋の魅力に取りつかれたゲストがリピーターとして海外から何度も訪れているという。
華美な施設でもない、小さな旅館が選ばれる秘密はどこにあるのか。山城屋代表の二宮謙児氏に聞いた。
「山奥の小さな旅館」がトリップアドバイザーで全国2位。
その他数々の口コミサイトで上位を獲得
大分県・湯平温泉にあるわずか6室の「山城屋」。福岡からは電車で2時間20分、大分駅からは電車で1時間にある無人駅「湯平駅」からさらに送迎の車で10分と、まさに「山奥の小さな旅館」が、トリップアドバイザーで全国旅館部門で第2位(2024年)、2017年にも第3位を獲得し、その人気で日本からだけでなく海外からも数多くのゲストが訪れ連日満室と多くのゲストでにぎわっている。
トリップアドバイザーの口コミを見ると301件中283件の口コミで「とても良い」の評価を受け(ほかは「良い」15件、「普通」3件)、数多くの人気旅館が居並ぶ由布市の温泉旅館112軒中1位を獲得。そのほかGoogleでも評価4.7、楽天トラベルにおいても4.86と軒並み高い評価が並んでいる。
日本人だけでなく海外からものリピーターも多く、少なくとも2カ月先までは予約で埋まっているという。中には、一年分の予約をして毎月来るなんてゲストもいるという。
なぜ、施設はお世辞にも決して華美とは言えず、アクセスも良いとは言えない。そんな山城屋に多くのゲストが魅了され、繰り返し訪れるのか?
小さな旅館だから何度でも来てほしい。
そのために必要なのは“満足”と“安心”
「一度来て、不満足があれば二度と来ていただけません。私たちのような小さな旅館は何度でもお客様に来ていただきたいと思っています。そのためには満足してもらう必要があります。そして、その満足のためにとても大切なのは“安心してもらうこと”なのです」。
山城屋 代表 二宮謙児氏
山城屋代表の二宮謙児氏はそう話す。
「外国人の方でなく日本人でも初めて訪れるところは分からないことも多く不安は少なからずあるでしょう。海外からいらっしゃるお客さまであればなおさらです。そうした不安を一つひとつ取り除いて差し上げることで安心していただき、結果満足していただけるのだと考えています」(二宮氏、以下同)。
“安心感” ――― これを実現するための取り組みは、ゲストの困りごとに気づける感性と、本当に小さな、ちょっとしたことの積み重ねだ。
「ちょっとしたことなんです。例えば、これは家内が始めたことなのですが、お食事処、レストランですね。そこが畳敷きなのでレストランにお客さまがいらっしゃると皆スリッパを脱いでいかれます。それをそのままにしているとどれが誰のスリッパかわからない状態になってしまうので、そのスリッパを一つひとつ揃えて、お客さまの名前を描いたネームカードを置いています。ネームカードと言っても小さなメモ書きなんですけどね。それを見たお客さまは『ちゃんと見てくれているんだ』、『顔と名前を覚えてくれているんだ』、と感激していただき、中には写真を撮ったり持って帰ってくださったりするんです。それは私たちにとっても嬉しく意外なことでした」。
お客さまが迷う、不安に思うことは多くの施設が分かっている。
それなのになぜ対応しないのか?
山城屋は、ゲストの滞在中だけでなく、ゲストが来る前、そしてチャックアウトした後もゲストのことを気にしている。
「一般的には、多くの旅館はお客さまが来館されてからがお客さまだと考えているのだと思います。ですから、いらっしゃる前やチェックアウトの後の対応をしていない旅館がほとんどです。
でもうちは山奥の不便な場所にある小さな旅館です。お客さまに安心し、満足してまた来ていただきたいと思っているからそういうところも対応します。例えば、山城屋まで電車でいらっしゃるために湯平駅までJRを使われるお客さまのケースです。湯平駅は小さな無人駅ですから、福岡からお客さまがいらっしゃる場合、特急で由布院駅まで来て、由布院駅で乗り換える必要があります。由布院駅で降りて正しい電車に乗り換えられるかというのは、初めていらっしゃるお客さまであれば日本人はもちろん、海外のお客さまはさらに不安に思うことでしょう。さらに、乗り換える電車はたった2両編成で、湯平駅は無人駅なので、駅では電車が前のドアしか開きません(車掌が切符を受け取ってチェックするため)。結果、そこで前から降りることをご存知でなく降りそこねてしまう方もいらっしゃいます。
そうした事があったので、私たちは電車の乗り換え方や湯平駅での降り方を動画の撮り、日本語はもちろん、英語、韓国語、中国語(繁・簡)の字幕をつけてWEBサイトに掲載をしています。長く運営をしていればお客さまがどこで迷い、不安に感じ、間違えやすいかは分かるはずです。分かっているのに、対応しない。それでは、お客さまが迷い、不安に感じることを放置しているのと同じです。お客さまが再度旅行を考えたとき、そこを訪れた旅の思い出の中で不安を感じた記憶があると、二度目は躊躇してしまいます。二度、三度と繰り返しお越しいただくためにはそうした不安を取り除き、安心感をいかに与えるかというのが大切です。
最初の人は迷いやすく不安になりやすいホテル湯平駅までのアクセスと駅での降り方を日本語、英語、韓国語、中国語(繁、簡)の字幕をつけた動画でわかりやすく伝える
“滞在中”の安心感を高めるために、新たにAlisのTabiCall(旅コール)を採用。
さまざまな疑問やリクエストに多言語で対応可能
山城屋では、最近新たなサービスを導入した。来館前、チェックアウト後の間にある、“滞在中”の不安や疑問にすぐに応えられるサービスだ。
「先ほどお話しをさせていただいたように、例えば来館前の対応はWEBのほか、AIチャットボットを使って可能な限りお客さまの事前の不安に対応できるようにしています。今回採用したAlisさんの『TabiCall(旅コール)』はお客さまが滞在中に疑問に思われたことやリクエストにスムーズに対応できる仕組みを持っていたので使わせていただくことにしました。
客室に入るとQRコードがあって、そこで質問やリクエストがあれば事前に用意した多言語のQ&Aやチャットで対応できるようにしています。TabiCall(旅コール)は翻訳機能もついていますので、外国語が苦手なスタッフでもお客さまの問い合わせにすぐに対応できます。
お客さまも、何かあるたびに電話をするよりはQ&Aやチャットで問い合わせることができれば、煩わしさもなくなり快適にお過ごしいただけます。
今回TabiCall(旅コール)を導入した結果、Q&Aページをかなり良く見られていて、お客さまはやはりいろいろなことを質問されたかったのだということが良くわかりました。また、スタッフにとってもTabiCall(旅コール)がお客さまの対応をしてくれるので言語の対応ができずに戸惑ったりすることも減り、また、業務に集中でき省力化にもつながっています。
誘客、集客ばかり考えるのではなく、
二度、三度と何度もリピーターしていただける施設に
二宮氏は現在の一般的な観光活性化策については一つ欠けている視点があるのではないかと指摘する。
「私は観光活性化に向けたツーリズム会議などさまざまなイベントにも参加をさせていただきますが、そこでは『いかに誘客、集客をするか』という話題に集中しがちです。しかし、これまでお話をさせていただいてきましたように、どれだけ誘客、集客を頑張って来ていただいたとしても、不安や不満があれば二度目はありません。来ていただいた後の対応や環境の整備が必要です。その受入環境の整備という点に関しては先に出たAlisさんのTabiCall(旅コール)は大きく役立ってくれると期待しています。
リピーターというのはこれまでお話をしたようにテクニックではなく小さな努力の積み重ねが必要ですが、気に入っていただけると何度も来ていただけるだけでなく、新しいお客さまを連れてきてくださったり、さらにその方もリピーターになっていただけたりと、どんどん広がっていきます。新規のお客さまを掴むことも大切ですが、リピーターのお客さまを掴むことのほうがより重要だと私は考えています。
山城屋ではこれからもお客さまが不安を感じることなく安心してお越しいただき、また帰ってきてくださるような旅館を目指し続けていきます」。
湯平温泉「山城屋」
https://e-yamashiroya.jp/
Alis 「TabiCall(旅コール)」
https://www.hotelsapo.com/