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ワイン業界の“グローカリゼーション” 固有品種に未来を託す アルト・アディジェ

【月刊HOTERES 2019年11月号】
2019年12月01日(日)
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伝統をもとに、多様性は未来を照らす


スキアーヴァ

ワインの多様性とクオリティーを担保しているのが、品種豊かなブドウの存在だ。図が示すとおり、白ワインにおける主要な品種と言えるものでもピノ・グリージョやピノ・ビアンコ、シャルドネに、評価の高いゲヴュルツトラミネールやソーヴィニヨン・ブランがある。黒ブドウは、スキアーヴァとラグレイン(現地発音は“ラグライン”に近い)の固有品種に対する内外での再評価がなされ、ピノ・ネッロ(ピノ・ノワール)も冷涼な気候に適したブドウとして高く評価されている。

多様性はワインに限らない。前号で触れた街並みや建築、言語が歴史的背景によるものならば、現代を生きる人々によって構築されたものもある。ワインサミットの前日、取材チームはボルツァーノの中心街から車で30分ほど北のサレンティーノにあるホテル「バート ショルガウ」(Bad Schörgau)を訪ねた。19世紀の終わりには宿泊施設として存在していたこのホテルは、1986年から本格的に、食でもてなすホテルとしての姿に向かっていく。瞬く間に南チロル料理を供するレストランとして評判になり、2000年代に入ると改修や複数のスパをそろえてトータルでのトリートメントを行なう現在のウェルネス施設へと成長を遂げた。
屋内外、複数の温浴施設とトリートメントプログラムが存在する上に、食でも健康になってもらうというのがレストランづくりにおける考えだという。体の内と外から老廃物を洗い流し、自然に寄り添う健康的な料理とワインで体に良いものを摂取するという考えだ。アルト・アディジェはワイン以外に、ウェルネス先進地域という一面があることに気づく。
ここには伝統的な南チロル料理を守り、現代的な要素も加味する「Restaurant Alpes」と、未来の食文化を構築するラボラトリーキッチンを前に食事をとれる「La Fuga」があり、後者はシェフズテーブルの形態をとるレストランだ。自然に寄り添うことを大原則とした食の未来を追求する姿がある。歴史や伝統に固執しすぎることなく、多様性を自ら編み出していくことも、この地域の食文化の一端として垣間見えた。
 

「バート ショルガウ」で行なわれた料理ワークショップ。作ったのは2種類のクヌーデルだ
標高2400m地点での試飲会の後に食したのもクヌーデル。アルト・アディジェのソウルフードとも言える

ワイナリーが映し出す、アルト・アディジェのビジョン

ワインサミット初日は2カ所のワイナリーを訪ねた。「ローカー」(Loacker Wine Estates)は、北イタリアの製菓メーカーの親族が経営するワイナリー。1979年に創業し、アルト・アディジェでは標高500mの地域で年間6~7万本のワインを生産しており、トスカーナでもワイン造りが行なわれている。全体では48haの畑から25万本を産する。創業時からオーガニック、バイオダイナミック農法を推進しているのも特徴で、白ブドウはソーヴィニヨン・ブランを筆頭にゲヴュルツトラミネール、シャルドネを。黒ブドウはスキアーヴァやラグレインにカベルネ・ソーヴィニヨン、メルローも栽培しており、それぞれ単一品種でのボトリングがなされている。特にソーヴィニヨン・ブランやゲヴュルツトラミネールには自然酵母の香りが感じられる。
「トラミン」(Cantina Tramin)はアルト・アディジェ最大の共同組合であり、ワイナリーの所在地であるトラミンを代表した世界最高峰のゲヴュルツトラミネール生産を自負する。1898年に、この地の神父による考案で発足したのが始まりだ。1971年には、それまでのテルメーノと隣接するエーニャの組合が合併して現在は300の生産者が加盟する260haの共同組合が形成されており、年間で180万本を生産する。日本でもなじみのある5本線のラベルデザインは、ワインの真髄を把握するための五感を意味している。エントリーラインである「クラシック」(Classico)、ミドルラインの「スペリオーレ」(Superiore)、高級ラインの「セレクション」(Selezione)におよぶ30種以上のアイテムをリリースし、使用するブドウ品種も多岐にわたる。ワイナリーも旧館の両側に増築された新館は斬新なデザイン。アルト・アディジェ ワインの世界観を凝縮したような多様性は、トラミンだけを見ても感じ取ることができる。

 

「ローカー」のテイスティングルームからの眺め。アルト・アディジェは豊かな自然に囲まれ、市街地を除けばほとんど平地がないのが記憶に残る
ワイナリーの背後にドロミーティ山塊がそびえる景色は、アルト・アディジェを特徴的に表している。写真は「トラミン」

スキアーヴァとラグレイン 多様性を武器に、目指す行く先は ただ一つ

マレッチョ城(Castel Mareccio/Maretsch)でのワインメーカーとのディナーやミシュランシェフによるプレゼンテーション、ドロミーティの標高2400m地点での試飲会など、会期中はアルト・アディジェについて多面的に、五感で伝えられるようなアクティビティーが組まれていた。ワイナリー訪問やセミナー、パネルディスカッションなどを通して語られたのは、この地のアイデンティティー。つまり、固有品種のラグレインとスキアーヴァだ。
 

ワインサミットで行なわれたパネルディスカッションの様子
生産者が揃う中で行なわれたグランド・テイスティング

ラグレインは、1970年代に消滅の危機を乗り越え、消費者の根強い人気で急成長を遂げたボルツァーノ発祥の黒ブドウだ。力強い骨格を持ち、口中を満たすボリューム感やなめらかな酸味が特徴だ。多くはオーク製の小樽で熟成され、ラグレイン・クレッツェル(Lagrein Kretzer)という名でロゼワインも生産される。
スキアーヴァはラグレインと対照的な個性を持つ。タンニン量が少なく軽い飲み口で、さわやかな酸でスミレやワイルドベリーのニュアンスを伴う。この南チロル地方を象徴する黒ブドウは16世紀から生産されており、かつてはこの地域の多くでスキアーヴァが栽培され、日常的に消費される安価なワインが造られていたという。近代に入って栽培面積を大きく減らした品種だが、2000年以降にこのブドウの価値を再評価し、良質なワインとしてよみがえらせた生産者も多く存在する。
「カルタン」(Kaltern)は1900年創業の協同組合で、650人のメンバーで450haの畑を持つ。“Our big family”を標榜し、2018年ヴィンテージで、FAIR'N GREENの持続可能なブドウ栽培証明書を授与されたイタリアで最初の協同組合でもある。上級ラインの「QUINTESSENZ」を筆頭に良質なワインを生み出すワイナリーにおいて大切にするのがスキアーヴァだ。栽培する14品種の比率では25.8%と最も多く、そして多くの手がかかっているのもこの品種だ。生育がデリケートでキイロショウジョウバエによる被害も多いこの品種を、バイオダイナミクスやBIOで育てるには相応の苦労があると聞いた。
かつてほとんどの生産者が栽培していた安価なスキアーヴァと、今日のスキアーヴァは別物ととらえる必要がある。良質なワインに不可欠な良質なブドウ栽培に着眼した生産者によって、アルト・アディジェのワインが支えられていると言って良い。
会期中に行なわれたパネル・ディスカッションでは、登壇したワイナリーやブドウ栽培農家、シェフなど有識者が一様に、アルト・アディジェを未来志向で語る姿が印象的だった。ワイナリーごとの取り組みを超えた、県全体でのサステナビリティや、気候変動に対応する畑のゾーニング、社会に対するエデュケーションなど、環境意識が高い地域であるがゆえの高度な課題意識に共感する。
アルト・アディジェ ワイン委員会のニーデルマイヤー・マキシミリアン会長は、土壌、品種、ワイン、人に加え、各エリアにおけるテーマと、会員ワイナリー180社への働きかけが重要だと語った。アルト・アディジェの10年後を描く未来予想図「Wine Agenda Südtirol」も構築されているという。
地域と社会、未来とともにあるワイン。アルト・アディジェは、多面的な個性を持ちながら、一つの方向に向かっている。

 

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