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星を紡ぐブランドとなるか?全国各地に眠る秘蔵の焼酎ブランド「HITOYO」販売開始

2023年05月20日(木)
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2023年4月27日より、Local Local株式会社は全国各地の焼酎蔵に眠る秘蔵酒ブランドとして「HITOYO」の販売を開始した。一つ一つの世界観を表現するブランドでありたいという想いから「一世」の名がつけられ、商品には星言葉が飾られている。販売から間もないが、すでに東京のラグジュアリーホテルや料亭からの引き合いがある商品だ。

焼酎は國酒輸出の中でも、日本酒やウィスキーと比べてまだまだ可能性が大きく残されている酒類であるが、そこには焼酎ならではの課題も残されている。「HITOYO」はその課題を今後克服してくれるかもしれない。その課題を知るためには、普段消費する際にあまり考えることのないものについて目を向ける必要がある。
 
酒類とその環境
日本酒に限らず、近年こうした國酒の輸出を見越した高付加価値化のビジネスが多く見られる。新しく参入する企業によるものや、熟成酒をはじめ既存の企業が団体を立ち上げて土台作りをしている場合もある。購買側にはあまり縁のない話かもしれないが、そこには商品開発含め、様々な規制や習慣の影響などがある。
 
スピリッツ。中でもウィスキーは世界的にも愛好家が多い酒類だが、その歴史を鑑みると、税と法、それをいかにかいくぐるかという応酬が繰り広げられてきたことがわかる。そして、ハイランドのような名称はそうした名残として今でも活用がされている。またスピリッツ以外でも、例えばオステルタッグA360Pのような、法への投げかけが行われた酒類からもわかるように、法や規制による恩恵と自由度の兼ね合いもまた、酒類販売における一つの課題として今日も議論されている。
 
日本でも、日本酒や焼酎、ワインといった酒類がGI(地理的表示)として登録されている。保護としてはもちろんのこと、地域ブランドとしてだけでなく、他の地域産品や地域資源と組み合わせツーリズムとしても活用していけることから、近年GI産品への注目度も高い。GIの恩恵もあるが、自由な表現や他の可能性を求める酒類生産者にとっては枷と感じられる場合もある。
 
色規制
なぜ、こうした前置きをしたかというと、今回発売された「HITOYO」は、焼酎ならではのそうした環境が製品開発にまで及んでいることがよく分かるからだ。焼酎には、「色規制」というものがある。「HITOYO」はこれをどう見るかによって、評価や展望が変わってくるように思える。
 
スピリッツは樽で熟成させることにより、色が変化する。樽材や年数によっても異なるが、樽の成分が抽出され、それが色や香り、タンニンなど味わいとなって現れる。焼酎には、酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達の第50条承認を受ける義務において「木製の容器に貯蔵した焼酎等を移出する場合の承認の取扱い」という項目で着色度に上限が定められている。
 
色規制がなされた背景には、上述した酒税をはじめとした他の酒類との兼ね合いもあるのだろう。目は口程に物を言うではないが、官能評価でも色によって味わいを錯覚することはある。また医薬品業界にMe-too-drugという表現があるが、売れ筋に似せた商品というのは今の時代でも多く生産されている。そうした状況を整理したり保護したりするのに規制は有効な手段だ。昔、酒類販売の免許に「距離」が定められていたのも、歴史を辿れば似たような事情が見えてくる。
 
今回関係があるのは歴史的なことではなく製品開発に関することだ。着色度に上限があるということは、その上限を超える場合に「焼酎として売りたいのであれば補正の必要が生じる」ということでもある。例えば、これがリンカーンカウンティ・プロセスのように製品に特長的な性質を与えるものであれば別だが、補正には色を除くか薄めるといった手段を取らなくてはならなくなる。また、都度、測定を行うのも手間である。長期樽熟成を経たものや、色に影響が出る樽材でフィニッシュをかけるような手法は選択したとしても、その後で何かしらの補正を行う必要が出てくる。
 
Sea Change?
「樽で寝かせる期間が長い=より美味しい」という話ではなく、また、薄めない方が良いという話でもない。この話は、鰻のたれに似ている気がした。色規制があるからこそ生まれる味わいもあり、色規制があるからこそ本来とは異なる味わいにもなる。アンビバレンツの中、何をどう捉えるかは造り手と飲み手双方に委ねられている。
 
國酒の中でも熟成酒に価値を求める傾向がある中、色規制による自由度の制限は焼酎にとって何を意味するのか。元々規制をしていた理由を現代の文脈で解釈した際、どのような方法があるのか。また、規制だけでなく税制の問題もある。スピリッツは度数によっても税率が異なるなど複雑なシステムの下で販売が行われている。一つと直したら良いという問題ではなく、全体としてどうして行くべきなのかという考えが必要となる。
 
ただ色規制が悪だというのは誤解で、色規制があるからこその表現というものもあるのではないかと感じる。例えば、シングルモルトとブレンデッドを考えて欲しい。やはり蒸留所の個性がでているものがより良いと思われる方もいるかもしれない。しかし、ブレンドによってウィスキーの消費が「伸び」、ブレンドの技術が磨かれ、それがスタイルとなって多くの世界的なブランドが今での残っていることを思い出して欲しい。「HITOYO δ Centauri」はまさにそのことを思い出させてくれるような焼酎だ。
 
HITOYO δ Centauri (デルタ ケンタウリ) 35度
7年オーク樽熟成 麦焼酎/幸蔵酒造(宮崎県)
星言葉「心穏やかな安定性」


 
この焼酎の良さは、ブレンドにより「若さ」と「熟成感」という相反する個性が共存しているところにある。それは香りからも感じられ、麦焼酎のほんのりと甘くフレッシュ感を感じさせてくれるような果実の香りに、奥行きを感じさせる樽由来の香りがある。印象としては若いスピリッツの印象だが、チャーミングさとコクが上手く合わさっている。味わいにもそれが感じられ、若いアルコール感がありながらも穏やかさと口当たりの良い熟成ならではのニュアンスと樽熟成によるコクがある。
 
甕壷熟成ならではの空気に触れたであろうまろやかさに、7年樽熟成のコクがブレンドされている。色規制がなければ、もっとコク深いブレンドになっていたかも知れないが、色規制があることで樽熟感が表に出過ぎず、若さと熟成感のどちらも楽しめるようになっている。
 
HITOYO Al Kaphrah  (アル・カフラー) 35度
32年オーク樽熟成 麦焼酎/幸蔵酒造(宮崎県)
星言葉「理想追求、可能性を秘めた才能」



こちらは、HITOYOの語源となる「一つ一つの世界」と、商品名に冠された星の名前が意味する「光が届くまでの時間と歴史」を感じられる。2樽限定1,000本、かつ再販なしというまさに一期一会の焼酎だ。オーク樽で10年間熟成の後、タンクにて22年間熟成。フィニッシュに再度オーク樽にて熟成をして味を調整している。
 
こちらはδ Centauriとは対照的に、もっと樽熟原酒の個性を出せたらいいのにと思うお酒だ。最終的に10年間の甕壷熟成とブレンドをしているようだが、ひょこっと顔を見せる若いスピリッツのニュアンスがある。その若いニュアンスを除いた熟成だけの味わいを楽しんでみたいと思わせてくれる。
 
色味と味わいから熟成期間が長いであろうことが伺え、より口当たりもよくなり、まろやかさとコクによる円熟さ複雑さが感じられる。長期熟成の焼酎は飲む機会が少ないが、市場性を感じさせてくれる。特にウィスキーの熟成酒が高騰し、その代替としてラムも注目されている中、近年、ボトラーズが挙って様々な蒸留所のラムを販売している。熟成焼酎も、同じような販売の可能性があるのではないかと期待させてくれる。そして、再販なし。二度と飲めない希少な原酒であれば、尚の事スピリッツ好きは飲んでみたいと思うだろう。
 
色規制を踏まえてδ CentauriとAl Kaphrahを味わうと、その良さと課題の双方が見えてくる。特に輸出を考え、海外市場で高付加価値化を伴いながら販売を考えていく際には、どうしても避けて通れないことだと感じた。特に、Al Kaphrahは今後の熟成焼酎市場の可能性を大きく感じさせてくれる焼酎だ。
 
 
 
HITOYOには、麦焼酎以外に、楯の川酒造と協業して造った酒粕焼酎もある。是非、星と星を繋ぎ星座を描くように、様々な蔵と手を取り合い、日本の蒸留酒が持つ多様性を表現することに挑戦し、業界への問いかけも行って欲しい。宮沢賢治の生徒諸君に寄せるを思い出しながら、HITOYOが切り拓く未来に期待をしたい。

担当:小川 大輔 DipWSET, EWA Diploma in Single Malt Whisky
ogawa@ohtapub.co.jp

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