長年にわたり、ホテル業界のアメニティ事業を展開してきた大河実業株式会社が2025年6月より、ウイスキー、ブランデーと並び世界三大蒸留酒の一つとして知られる「白酒」の最高級ブランド「茅台酒」の正規輸入販売代理権を獲得し、日本市場に向けて展開することとなった。中国・貴州省茅台鎮で500年以上にわたり造られてきた、中国の文化的価値を象徴する「茅台酒」のブランド戦略や今後の展望について、大河実業株式会社 代表取締役 何氏に語っていただいた。
ホテル業界に特化した輸入事業から、中国市場での挑戦と成功へ
――まず、貴社の主要事業についてお聞かせください。
弊社は創業以来、ホテル業界に特化した輸入ビジネスを展開してまいりました。スリッパやタオル、シーツ、カーペットといった消耗品を扱い、特にスリッパは年間1,400万足を供給しています。この分野では業界でトップシェアを誇り、ホテル業界の皆さまに長年ご愛顧いただいています。また、近年はMITによる最先端ナノ技術の実用化・商業化にも力を入れており、放射冷却素材を使用した「Radi-Cool(ラディ・クール)」や歯科美容「LaBriller(ラブリエ)」などの中国生産基地を確立し、その技術を日本市場へ積極的に展開しています。
――輸出入ビジネスにも注力されてきましたね。
私たちは2018年に、国内大手菓子メーカー・カルビー「フルグラ」の代理店として中国への進出を手がけました。それまでさまざまな国内メーカーが中国進出を目指してきましたが、新規参入のハードルは高く、なかなか参入できていませんでした。そこで私たちは3年かけてメーカーと一緒に市場開拓していくことで、結果的に3年間で6万店舗を展開でき、大きな成功を収めました。その後も、龍角散の総代理店、ロッテの総代理店、石屋製菓「白い恋人」の代理店を務めるなど、高級消費チャネルの展開に成功しています。私たちは商品を仕入れて輸出する商社機能だけではなく、日中の市場環境とビジネス文化を深く理解し、ブランディング強化や市場浸透への施策に向けたトータルなサポートを実施しています。
「茅台酒」の正規輸入販売代理店として日本へ展開
――そうした中、なぜ今、「茅台酒」の正規輸入販売代理店になられたのでしょうか。
「茅台酒」はこれまで30年間、日本では1社しか代理店が存在しませんでした。昨年、新たに複数社の中から選定が行われ、弊社が正式に選ばれることとなりました。弊社が選定された最大の理由は、長年にわたり日中両国の市場に根を張って事業活動を展開し、各業界との強固なネットワークと幅広いコミュニティを築き上げてきたことだと考えます。中国文化も日本文化も熟知している私たちだからこそ、「茅台酒」の良さをより多くの日本人に知っていただき、広げていけると考えています。
「茅台酒」工場所在地:茅台鎮のパノラマを一望できる
日本市場での普及戦略とは
――具体的にどのように日本市場へ浸透させていきたいとお考えでしょうか。
「茅台酒」の白酒メーカーである「貴州茅台酒」は、世界でも突出した企業規模を誇り、時価総額は日本の大手自動車メーカーと肩を並べるほど大きいものです。にもかかわらず、日本国内での認知度はまだ高くありません。認知度を高めるためには広告プロモーションをするだけではなく、実際に「飲んで体験していただく」ことが重要だと考えています。例えば、ソムリエやホテルの料理長、バーテンダーの方々を招いた試飲会を積極的に開催し、飲み方の提案も行っています。
「茅台酒」は53度前後の高アルコールで、常温ストレートで飲むのが伝統的な飲み方です。近年、日本では若年層を中心に低アルコール飲料やソーダ割が人気で、さらにスイーツなどとのペアリングを楽しむ方が増えていますね。そうしたお互いの文化の違いを意識しながら、日本ならではの「茅台酒」の新しい飲み方を提案し、文化的な広がりを生み出したいと考えています。
また、インバウンド需要にも注目しています。中国からの旅行客にとって「茅台酒」は特別なお酒であり、日本のホテルやレストランに「茅台酒」があることは大きな魅力になります。これにより、日中の架け橋としての役割も果たせると考えています。
非正規品の対策と正規流通の意義
――中国市場では非正規品の流通も多いと聞きます。
残念ながらその通りです。中国では需要に対して供給が追いつかず、多くの非正規品が流通しています。一方、日本では正規ルートで本物を安心して楽しんでいただけることが大きな価値になります。弊社は正規輸入販売代理店として、信頼性の高い供給体制を整備しており、全ての「茅台酒」は識別できるようになっています。日本の消費者や事業者に安心して「茅台酒」を届けたいと考えています。
「茅台酒」専用のショットグラスと大河実業オリジナルのライト付き什器をセットで提供。レストランやバーで高級感を演出する
「茅台酒」でつなぐ日中の文化
――最後に、今後の展望についてお聞かせください。
当社は、「輸入ビジネス」「輸出ビジネス」「ナノ事業」など、複数の事業を並行して展開しています。その中で「茅台酒」の取り扱いは、単なるビジネスに留まらず、日本と中国の文化をつなぐ活動でもあります。「茅台酒」の価値を日本社会に正しく伝え、レストランやホテルを中心に多くの方々に体験していただくことで、新しい飲酒文化を築いていきたいと考えています。
「茅台酒」の製造工程の一部をご紹介
茅台酒の製造工程の一部である、①冷却・攪拌工程、②発酵工程、③ブレンド工程、④梱包の過程をピックアップして紹介する。





大河実業株式会社 代表取締役
何 軍氏
〈Profile〉1988年来日、37年の⽇中ビジネス経験と広い⼈脈を持つ。大河実業の代表取締役、 ラディクールジャパン株式会社、ナノイズムジャパン株式会社の代表取締役社長を兼任。日中間におけるブランド代理・流通支援に特化し、多くの日本有名ブランドを中国市場で育成・拡大させてきた実績を持つ。マーケティング、販売チャネルにおいても高い専門性を備えており、近年では中国発の優れたブランドを日本に紹介・ローカライズする活動にも注力。
大河実業株式会社
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聞き手:オータパブリケイションズ 義田真平 文:渋谷大紀