コンサルタントの視点
顧客の声がすべての活動の源
お客さまの声をしっかり聞いて、それにスタッフたちが気持ちよく対応している、オペレーションに優れた施設でした。若女将のニュートラルな態度、ホスピタリティーが、顧客と従業員双方にいい影響を与えています。また、若女将のご主人であり、接客部門の責任者である若旦那の温厚さが、現代のビジネスの理想形を表しています。男性は裏方、女性は顧客対応というようなイメージが伝統的に旅館にはありますが、「鴨川館」は反対で、その反対であることが大きな一つの成功要因であると感じました。
まず【ES】に関して感じたことは、年配と若手のスタッフが、ミックスされて、とても良い雰囲気ができています。最も感心させられたことは、情報共有や研修をしっかりしていること。ペット専門学校から採用した「ご・遊庭」の新人2 人も本館の「鴨川館」で、一緒になって接客研修を受けていることや、ミーティングに参加していることです。情報共有力こそが、旅館経営や人材マネジメントにおいては重要だからです。
【CS】については、「とにかくお客さまの声によく耳を傾けている」ということが分かります。旅館のアンケート用紙は、部屋のテーブルに置かれ、チェックアウトの際にフロントに出していただくケースが多いのですが、「鴨川館」では、社長宛として、ポストに投函する形式をとっていました。そして、経営者がすべて目を通しているそうです。この「顧客の声がすべての活動の源」という文化こそが競争力の源泉だと思います。【MS】に関して感じたことは、価格をもっと高めに設定してもいいのではないかということです。客室単価ももう1 万円上げることも可能だと思います。
その辺を若女将に聞くと、「顧客の声を聞きながら、価値に合わせて価格を決める」というお考えのようです。新規顧客を精力的に獲得していくというスタンスよりも、リピーターを大事にする顧客優先のマーケティングなのです。リピーター重視、価値重視のマーケティング。これこそ本来旅館が取るべき手法です。
最後の【OS】に関して。若いスタッフたちが活躍している姿を見ると、指導体制が出来上がっていることが分かります。科学的な顧客満足度アップの手法が随所に取り入れられています。また、厨房などもきっちりと整理され、衛生管理にも充分に留意されているところを見ると、オペレーション設計にも力を入れている会社だと実感しました。「深夜にラーメンを食べたい」という需要にもしっかりと応えていらっしゃるようですが、それに応じるオペレーション設計は、通常では実現できないものです。
※ ES =社員満足、CS =顧客満足、MS =マーケティング&セールス、OS =オペレーションシステムの略
第二回
経営者インタビュー オンリーワンの宿づくり
「南房総 鴨川温泉 Dog サバトリーのある宿 ご・遊庭」
【月刊HOTERES 2015年11月号】
2015年11月20日(金)