藤井荘の夕景の外観
倒産や廃業で軒数が減り続ける旅館業界の中にも、きらりと輝く個性を持ち、まっとうな経営を行なっている宿がある。本連載は、旅館総合研究所の重松所長が、自身の目で優れた宿を厳選し、取材し、写真と文章で紹介する連載企画。今回は、北信濃の山田温泉にある「藤井荘」。前・若女将である藤沢晃子さんが女将に就任し、みるみる業績を向上させている。取り組んだ変革は二つ。「内部のイノベーション」と「狭めるマーケティング戦略」だった。
長野駅から長野電鉄で須坂まで行き、そこから車で20 分。秘境と言っても過言ではない深い渓谷沿いに、知る人ぞ知る名旅館がある。「藤井荘」である。清楚で上質な空気感を放つ畳敷きのエントランスの奥のロビーラウンジからは、対岸の山が見渡せ、時の移ろいを何時間でも楽しめる。
こんな名旅館でも、少し前までは時代の変化とともに客足が減っていったという。このままではいけないということで、それまで若女将だった藤沢晃子氏が昨年から女将に就任。さまざまな変革を試みたところ、業績はみるみる回復した。
行なったことは、「内部のイノベーション」と「狭めるマーケティング戦略」。
内部のイノベーションは、「マネジメントのポリシーを決めた」ことと、「顧客視点での新たなサービス設計と、不要なサービスの廃止」の二つ。
まず、新たなポリシーは、①全員参加、②スタッフの話に耳を傾ける、③失敗大歓迎という三つ。これをしたことによって、現場が一気に活性化したという。それまでは、経営者がトップダウンで指揮・指導して「高級旅館とはこうあるべき」という固定観念を目指していたが、新体制になって、現場のことは現場で考え、意見を引き出し、自発的に実行してもらう組織になった。
もう一つの顧客視点での変革は、足し算と引き算で進めていったという。足し算というのは新たなサービスのこと。「フリードリンクコーナー」や「和空間でのジャズ演奏」といった魅力を館内にちりばめるようにしていった。一方、これまで行なってきたサービスを見直し、「もしかしたらお客さまのためになっていないかもしれないサービス」を廃止していった。
もう一つ、「狭めるマーケティング戦略」とは、「長野県内のお客さまを大切にした」ことと、「チャンネルを『一休』に集約した」こと。これが実に奏功している。
藤井荘の変革は、「的確な訴求と、オペレーションの改善による魅力度アップを顧客視点重視で行なえば、おのずと旅館は好業績に転換する」という好例と言えよう。
藤井荘のスタッフたち。全員参加、スタッフの話に耳を傾ける、失敗大歓迎という、三つの新たなポリシーを実行した結果、スタッフたちは自発的に、楽し気に行動するようになったという
そのほか、本誌では女将の藤沢晃子さんのインタビューと旅館総合研究所所長の重松正弥氏の分析が掲載されています。詳細は本誌をお買い上げいただくか、電子版にご登録ください。
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