倒産や廃業で軒数が減り続ける旅館業界。そんな厳しい環境にあっても、きらりと輝く個性を持ち、まっとうな経営を行なっている宿がある。独自性を磨き、お客さまを魅了する珠玉の宿。われわれは、そんな宿を伝えたい。本連載は、旅館総合研究所の重松所長が、自身の目で優れた宿を厳選し、取材し、写真と文章で紹介する連載企画。第二回は、南房総随一の老舗旅館「鴨川館」が新たに新設した「ご・遊庭」。ワンちゃんと一緒に旅したいという富裕層をターゲットにしたスモールラグジュアリーホテル。その仕掛け人である若女将の武田和香子さんをインタビューした。
取材・文 旅館総合研究所 所長 重松正弥
企画・構成 本誌 丸山和彦
❏まずは、「ご・遊庭」をつくろうと考えた経緯からお聞かせください。
実は、「ご・遊庭」をつくった場所には、以前、地元のお客さま向けの日帰り温浴施設がありました。そこが老朽化し、リノベーションをするかどうかを迷った際に、業態転換を考えたのです。その際、私どものホームページの問い合わせページに「ペットと泊まれますか?」という質問がとても目立っていたんです。需要はありそうだと考え、検討を始めたのがきっかけです。
当館は、「鴨川館」という本館と、「ラ・松廬」というヴィラタイプのスモールラグジュアリーホテルがあるのですが、その二つの宿ではペット同伴は受けられないので、「だったら、それ専用の宿をつくってしまおう」ということになりました。同じ敷地内ですし、館内ではつながっているのですが、入り口は別につくれるというメリットもありましたので、思い切ってやってみようということになりました。
どんな宿をどのような客層に向けてつくったらいいかを考える段階で、いくつかワンちゃんと泊まれる宿泊施設を見に行きました。その際に「お客さまは本当にこれで満足しているのだろうか」と感じることが何度もありました。なぜなら、その多くは、「ワンちゃんと一緒に泊まれる」というだけで、客室などは、お客さまの日常生活よりもレベルがダウンしているところばかりだったからです。「ワンちゃんが満足であれば人間も満足だろう」ではなく、私たちは、さらに「プラス、人間も居心地がいい」ということを考えました。
❏具体的にどのように始めていったのでしょう。
採算が合うのか、予算をどのくらいかけていくのかを、ある程度計算していきました。敷地面積から考えて、5部屋設けられることが分かり、一室当たりの室料をどのぐらいの価格に設定するのかを考えました。房総には、「しぶごえ」グループが既にワンちゃんとも泊まれる宿泊施設を数軒展開していましたので、そこと競合しないように、富裕層にターゲットを設定しました。もともと「鴨川館」と「ラ・松廬」でも、比較的高い料金設定で運営をしてきましたし、スタッフにもそのような教育をしているので、当社の得意な客層だったことも、富裕層狙いと定めた理由の一つです。