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古くて新しい「ローランドの女王」:ブラッドノック蒸留所

2023年12月09日(土)
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マッケンジー・ケイシー氏
マッケンジー・ケイシー氏

株式会社都光(東京都台東区)は、スコットランド最南に位置する歴史ある蒸溜所「ブラッドノック」5商品を正規代理店として取扱いを開始。販売に先駆け、2023年12月1日(金)にアジア・パシフィック事業担当のマッケンジー・ケイシー氏が来日しセミナーが開催された。本記事はそのレポートである。
 

【ローランド最南端の蒸留所】
ブラッドノック蒸溜所は1817年創業のローランドにある蒸溜所だ。ローランドの女王とも称される蒸溜所の成り立ちを調べていると次の一文が目に入った。
 
“おそらく小型蒸留器法が1816年に制定されたのを契機に、1817年に設立されたウィッグタウン州の素晴らしい立地にあるローランド・モルトのブラドノッホ(原文ママ)蒸留所”

(ヒューム&モス『スコッチウイスキーの歴史』102pより)
 
この文の意味を知るには、少し前の1784年に制定されたWash Actから振り返る必要がある。知っての通り、この法律によってハイランドとローランドの地理的区分がなされるようになったのだが、その目的は税と規定の簡略化を行い、地理的区分を分けて密造・密輸を防ぐ目的があった。ハイランドはハイランド原料を用いて生産し、ハイランドで消費することで減税となり、ローランドは大型化してイングランドへの輸出が増えることとなった。
 
1786年にイングランドが輸入されるスピリッツに大きく課税をすることを決めた為、ローランドは大きな打撃を受けることとなる。フランス革命などの影響もあり増税の影響が大きくなる中、ハイランドでも食糧難や蒸溜の禁止が行わるようになり、密造が増えローランドに密輸されるまでになった。1814年に物品税法の施行により、スチルの最低容量が500ガロンに設定されたことにより、より密造が増えることとなった。
 
その対策として1816年Small Still Actが制定され、ハイランドの境界を撤廃し、減税、最低容量が40ガロンまで引き下げられたことにより、ハイランドで正式に蒸溜を始める蒸溜所が設立されるようになってくる。
 
その後、このSmall Still Actの有効性が分かり、領主も正規蒸溜を促すように働きかけ、1822年のIllict Distillation Act、翌1823年のExcise Actの減税を期に、密造が大きく減っていくこととなる。
 
少し長い説明になったが、スコットランドにおいて、ようやく密造が無くなり正規蒸溜所が増えるようになる時代に設立されたのがブラッドノック蒸溜所だ。McClelland一族によって経営されていたが、20世紀に入り1905年に生産がストップする。1937年にはグラスゴーのRoss & Coulterによって買収され、蒸溜所の備品は解体されスウェーデンに送られた。

1956年にBladnoch Distillery Limitedが再開をし、1966年には蒸溜器を2基から4基に増設。その後、Arthur Bell & Sons(後にギネス/ユナイテッド・ディスティラーズの傘下に入る)の所有を経て、1993年からはRaymond and Colin Armstrongの個人所有となっていた。2015年に現オーナーであるオーストラリアの企業家David Prior氏が蒸留所を購入し、大規模な改装を実施。2017年より正式に生産を再開して今に至る、個人所有の蒸溜所としては一番古い歴史を持つ蒸溜所だ。
 
 
【ローランドの女王】
軽やかさに加えてフローラルさとグラッシーなニュアンスを持つブラッドノックは、時に「ローランドの女王」とも称されるウイスキーだ。更なる味わいを追及するために2019年にマッカランのマスター・ディスティラーを務めたNick Savage氏を招聘している。
 
Savage氏の革新的な取り組みはウイスキーにも反映されている。例えばブレンドの年数だが、10年では熟成が浅く11年の販売を行っていたり、15年だと熟成が進み過ぎていると判断をして14年での販売を行うなどをしている。
 
Savage氏は蒸溜所に赴任してから8ヵ月を掛けて、保有している全ての樽を試飲して回ったそうだ。中にはモスカテルカスクのような掘り出し物もあったりしたようだ。現在蒸溜所が所有している原酒を樽ごとに見てみると、40%がシェリー樽、40%がバーボン樽、残り20%が他の樽で、ポートやマンサニージャといった樽で熟成を行っている。
 
セミナーでは、サンスクリット語で感謝を意味する「VINAYA(ヴィナヤ)」、ヘブライ語で光を意味する「LIORA(リオラ)」、オーストラリア南東部の先住民族の言葉で炎を意味する「ALINTA(アリンタ)」、そして「14年」と「19年」の試飲が行われた。
 


「VINAYA(ヴィナヤ)」には、前オーナー時代の8年シェリー樽熟成のものと、2017年以降に蒸溜した5年バーボン樽熟成のものがブレンドされている。ヴィナヤにはローランドらしい特徴が出ており、柔らかなニュアンスに、コットンキャンディやアップルパイ、シリアルのようなニュアンスを感じる。
 
「LIORA(リオラ)」は52.2%のアルコール度数があり、ブラッドノックではこの度数をDistiller’s Strengthと呼んでいる。度数も高い分香りのインテンシティーも高く、ほのかにバターやミルクのニュアンスを伴い、ハッキリとした塩キャラメルの香りが特徴的に香る。味わいはドライでありながら、ドライフラワーを想わせるフローラルさやフルーティーさ、スパイス感がある。
 
「ALINTA(アリンタ)」はピートが利いたウイスキーで、ローランドらしい軽やかさを持ちながらピート由来のスモーキーさを合わせ持つ。前オーナー時代の原酒にピートを用いたものがあり、それをヒントにして生み出された。1年の蒸溜スケジュールの内、最後の4週間でピーテッドの原酒が造られていく。
 
 
「14年」はオロロソシェリー樽の影響が出ており、ラム酒に似た甘い香りやクリスマスケーキを想わせる香りがある。「19年」はより深みが増し、PXシェリー樽から来るシロップ感やリコリスのような甘味が香りからも感じられる。どちらも口に含むと滑らかさと上品さを感じさせてくれる味わいだ。
 
 
その後質疑応答に移ったが、参加者の中から「昔の印象とは違う印象を受けたのだが、蒸溜器は変わったのでしょうか?」という質問が挙がった。蒸溜器は水や熟成環境と同じく、蒸溜所の個性を引き出すものとして欠かせないものだ。実際、ブラッドノックでは2015年からの改修で新しい蒸溜器に変わったそうだ。
 
2023年12月12日(火)より国内で販売展開が開始されている。昔の味わいを知る方も、初めての方も、一度「ローランドの女王」と称されるその味わいを試してみては如何だろうか。前オーナー時代の樽にも限りがあるだろう。長い歴史を持ちながら、新しさと少し前の遺産を引き継いでいる味わいは今しか飲めないものかもしれない。
 
 
【参考文献】
Moss, M. S. & Hume, J. R, The making of Scotch Whisky: A History of Scotch Whisky Distilling Industry, 2000, Canongate Books(坂本恭輝 訳(2004)『スコッチウイスキーの歴史』国書刊行会)
Edinburgh Whisky Academy, The History of Whisky and Distillation, 2019
Malt Whisky Yearbook 2023, MagDig Media
 
担当:小川

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