今回取り上げるのは長崎県の県庁所在地である長崎市。江戸時代には出島が設置され、古くから国際貿易港として栄えた歴史があり、異国情緒のある港町である。「坂の町」としても有名であり、多くのドラマや映画のロケ地になっている。地理的には韓国などのアジア圏に近く、インバウンドも多い。以下に長崎市のマーケットポテンシャルと長崎県の観光マーケットを見ていこう。

1.マーケットポテンシャル
長崎市は長崎県の南部位置し、西側、南側、東側は海に面して、五島灘、橘湾、大村湾に囲まれている。市の中心部は山に囲まれているため平地が少なく、長崎港を中心としたすり鉢状の地形を形成。長崎港内の平地に商業・業務機能が集積し、山の斜面に住宅地が開発されている。そのため長崎市は坂が多く、独特な景観を形成している。

中心駅である長崎駅には JR長崎本線、大村線、長崎電気軌道が乗り入れ、道路は長崎自動車道が南北に走っている。長崎電気軌道は市内を走る路面電車で市民の足として機能。坂の多い地形のため交通機関も限定され、路線バスや乗り合いタクシーが発達している。
 
長崎市の自市内就業率は 86.6％で、自市内でほぼ完結している状況である。長崎市の都市勢圏をみると諫早市や大村市などを内包する 4市 2町（長崎市含む）から形成されている。長崎市への就業・通学流入率をみると長与町から48.1％、時津町から41.1％と高い値になっており、これらの都市は長崎市のベッドタウンになっている。
  
長崎市の商業ポテンシャルをみると商業拠点性指数（※ 1）は 0.92で消費の流出と吸引が拮抗している状況にある。市内には「浜町アーケード」や「観光通アーケード」といったアーケード商店街が発達しており、大型商業施設は「みらい長崎ココウォーク（店舗面積 2万7446m2）」や「ゆめタウン夢彩都（2万 6000m2）」、「アミュプラザ長崎（2万3300m2）」などの他、地元百貨店の「長崎浜屋」が位置している。長崎市だけでなく、長崎県内には 3万m2を超えるような大型ショッピングセンターは見られない。
   
長崎市の人口は 41万 7990人（2019年）。長崎県内の人口シェアの 30.8％を占め、県内で最も多い人口を有している。その他の県内主要都市をみると、佐世保市が 25万 4772人と県内第 2の都市となっており、それに次いで諫早市が 13万 63812人となっている。長崎市を含むこの 3市が県内の人口 10万人以上の都市であり、県内総人口の 6割近くを占めている。それらに次いで大村市が 9万5972人と10万人に近い規模となっている。それ以外の都市は 2万.4万人規模である（図表1）。
    
増加率（19年／ 14年）をみると、長崎市は▲ 4.2％であり、減少傾向になっている。県内主要都市では交通アクセスが良く長崎市や佐世保市のベッドタウンとして発展している大村市が 2.4％で増加している以外、全て減少傾向にある。▲ 8％程度減少している都市も多い。

長崎市の年齢構造を見ると若年人口比率は 16.6％、適齢期人口比率は20.1％となり、若年人口比率、適齢期人口比率ともに全国値（17.4％、22.3％）を下回った。その他の県内主要都市をみると若年人口比率は大村市が 21.9％、適齢期人口比率が 21.9％と県内で最も高いレベルになっている。その他、若年人口比率は佐世保市が 18.3％、諫早市が 18.9％、壱岐市が 17.7％であり、いずれも全国レベルを上回っている。高齢者人口比率（65歳以上人口）を見ると、長崎市は 29.1％であり全国レベルの26.6％を上回っている。30％を超える都市が多く見られ、県全体として高齢化が進展していることがわかる（図表 2）。
      
将来推計人口をみると、長崎市はすでに減少フェーズに突入しており、2040年頃には 2010年ベースから約 25％程度減少するとみられている。その他の県内主要都市をみると、大村市が唯一 2025年ごろまで 2010年ベースを維持できると推計されており、県内では最も成長性のある都市である。佐世保市と諫早市は長崎市と類似した減少ペースにある。その他の都市は概ね 2040年頃には 2010年ベースから約 40％.50％程度減少するとみられており、マーケットの縮小が深刻な状況と言える。将来的にも長崎県内の人口 10万人以上の都市のランキングには変化はないが、諫早市と大村市の人口規模は近似してくる（図表 3）。

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