身の程を越えた望みを抱えて
多くの若者は、徒手空拳で社会人となる。経済力もなければ、人脈もない。手の中にあるのは、形のない思いだけである。
片野真治の場合も、ひと握りの夢だけが頼りだった。学生時代に、自分の思うことで人に喜ばれたいという真摯な感情が芽生え、興味を持ち始めたホテル業界に身を投じた。最初の仕事はベルボーイ。文字通り、ホテルの入口からの振り出しである。
試練が続いた。改善すべき点を上司に進言すると、「うるさい! 文句を言いたかったら、役職に就いてからにしろ!」と怒鳴られた。
ひと握りの小さな夢は、普通ならば、こういう厳しい言葉で吹き飛んでしまうものだろう。だが、片野はホテル業界にしがみついて、離れなかった。意志を貫くうちに、夢はかえって大きく膨れ上がり、「この業界で偉くなりたい」という野望となっていったのである。
野望とは、辞書によると、「身の程を越えた大きな望み」とある。この意味を冷静に解釈したら、片野もひるんだかもしれない。だが、挫折を挫折とも思わぬ片野は、一歩も退かなかった。
とにかく自分の思うサービスを提供したいんだ、私に任せてくれないか、任せてくれないなら、私が会社を興してやるまでだ――片野の行動力、決断力、そして企画力や分析力はいつの間にか、人一倍強く、優れたものになっていた。そして、片野は本当に会社を設立し、野望を実現させてしまったのだった。