1990 年、ローマにおいて幸運にもブルガリグループの創始者であるパオロ・ブルガリ氏にインタビューをする機会を得た。ブルガリ家の家業自体は1884 年に創業であったので、その当時ですでに100 年を超えていて、私が「100年以上続いていることは素晴らしいですね」と言うと、笑顔で「イタリアには何百年と続くブランドや企業が数多くあり、その中で100 年なんていうのはまだ赤ん坊みたいなものだよ」と語っていたのが印象的だった。
あれから26 年が経ち、この度小誌『週刊ホテルレストラン』が創刊50 周年を迎えることとなった。前述の100 年の話や、日本のホテルや旅館、レストランにも50 年どころか100年を超えて続くところもある中で大したものではないが、いずれにしても50 周年という私たちにとって大きな節目を迎えることができたのは、読者の皆さま、そして小誌をサポートしてくださった皆さまのおかげであり、深く感謝を申し上げたい。
ここに小誌を創刊した弊社創業者 太田土之助の情熱と想いを紹介させていただきたい。小誌が誕生した1966 年、当時のホテルやレストランビジネスに対する世間の認識は「水商売」と言われ、あまり良い印象を持たれるものではなかった。しかし、そこには多くの情熱と誇りを持ち、また、プロフェッショナルと呼ぶにふさわしい仕事をする人々がいるのを、太田土之助は自らがこの業界で働いていたからこそ知っていた。「この業界で働く人々を情報とアイデアでサポートし、いつか社会から『ホテルやレストランのビジネスは素晴らしい』と言われるようになり、プライドを持って働ける世界になれるよう貢献をしたい」という強い想いから『ホテルレストラン』は生まれた。
その創業の想いは今でも変わらず受け継がれており、オータパブリケイションズのメンバー一同は、「業界の(観客席から応援しているのではなく)ピッチに立つサポーター」という姿勢で、「業界の皆さまのお役に立ちたい!」という気持ちを強く持ち、情報はもちろん、形にならないさまざまなニーズにも応えようと日々精進をしている。
振り返れば、この50 年で変わったことは数多くある。
あるバンコクの有名なホテルでは1 部屋に対して14 名ものスタッフがいたり、エレベーターホールにも常に人がいて、さまざまなリクエストに迅速に応えてくれたりしたものだが、今ではそういったぜいたくなスタッフ配置は難しくなっている。
高級レストランではメートル・ド・テルやヘッドウェイター、バスボーイ、ソムリエなど、一つのテーブルに対して数多くのスタッフがかかわっていたが、今ではそういったサービスがどんどん簡素化される時代となっている。
今後の5 年、10 年、15 年は、過去の50年間のペースをはるかに超えるスピードでどんどん進化をしていくであろう。まさに「未知の世界に向かう」の通り、価値観の変化、市場の変化は著しく、例えばAI を搭載したサービスロボットが登場するなど機械化は想像よりも早く進んでいくかもしれない。
変わるものが数多くある一方で、ホテルやレストランにどっぷりと浸かり、結果を出し成功する人たちの持つスピリットや情熱は変わらないであろう。どれだけテクノロジーが進化しても、必ず人にしかできないことというものは存在し、そこで差がついていくことも間違いない。
私たちも同様に、時代が変わり、テクノロジーが進化しようとも、創業から脈々と受け継いだ、業界の皆さまのお役に立とうという“想い”は変わらないことをここに誓いたい。
改めて、この50 周年という節目を迎えられたことを、皆さまに感謝したい。「ありがとうございます!」