「陳家私菜」オーナー、陳龐湧(チン・バンユウ)氏。1988年、25歳で来日し、「グランドプリンスホテル高輪」や「ヒルトン東京」にて7年間料理人として活躍。95年、赤坂に第1号店「中国家庭菜 湧の台所」をオープンし、現在では、中国料理『陳家私菜』を都内に7店舗運営している
中国人シェフによる元祖‟ガチ中華“、‟ガチ四川“として人気の高い「陳家私菜」が今年、創業30周年を迎えた。
「グランドプリンスホテル高輪」や「ヒルトン東京」といった一流ホテルで料理人として活躍していたオーナーの陳氏は独立に際し、当時まだ日本ではなじみの薄かった“本場四川の味”で勝負に出た。しかし、創業当初は「料理が辛すぎる」とお客さまから叱られることもあり、決して順風満帆とは言えなかったそうだ。その道のりでは資金面で苦しい場面も何度かあったという。それでも、‟本場の味“を日本人に届けたいという信念のもと試行錯誤を重ね、“本場四川の味”にこだわり、料理を提供し続けてきた。その結果、日本人の舌がより本物を求めるようになったことも相まって、今では「‟ガチ四川”を食べるなら『陳家私菜』」と広く知られるようになった。現在では在邦中国大使館の指定レストランにもなっており、大使をはじめとする外交官たちの会食の場として使われている。さらに2018年には、四川観光省政府から日本で唯一‟美味四川名店“の称号も送られた。
ちなみに陳氏の強い思いは、数々のオファーがあるにも関わらず、同店をチェーン展開しない姿勢にも見て取れる。その理由は、多店舗展開という商業的な成功よりも、四川を中心に中国が生み出してきた食文化を、自らが納得した食材、香辛料そして調味料を用い、ハイクオリティで美味しく、さらには安くお客さまに届けたいという信念から、料理の質を低下させず、流れ作業やセントラルキッチン化とならない中で店舗運営をすべきという考えがあるからだそうだ
ところで陳氏の凄さは、根気強く日本人に本場四川の味を提供しつづけたことに留まらない。香辛料を含む調味料や紹興酒においては、‟本場の味をリーズナブルに提供したい“との思いから、中国国内でも最高のものを仕入れるために上海に貿易会社を起ち上げたという。ちなみに同社で輸入する商品は自社使用に限定されており、他社に販売などはしていないというから驚きだ。発酵食材等については店舗で仕込んだものを使うというこだわりも持っている。さらに、麺点師を含む料理人は、中国における国家資格を有しているだけでなく、陳氏の厳しい目に適った人材が登用されている。新たにオープンした銀座店では、中華料理店では珍しく、ガラス越しに調理の様子を見られるオープンキッチンスタイルを採用し、自慢の料理人たちが調理する様子をライブでお客さまに伝わる仕様にした。
陳氏自らが目利きをし、2か月に一度、四川で仕入れる一級品の香辛料やさまざまな自家製発酵調味料。とうがらし一つとっても、色をつけるもの、香りを立たせるもの、辛味を加えるものなど用途に応じて異なる種類を揃えており、毎回仕入れる香辛料の数は数十種類にも及ぶという
そんな30年の軌跡を記念し、本年2月には豪華食材をふんだんに用いた記念コースを発表した。同コースは同店らしいリーズナブルな価格と共に提供したことで話題となり、古くからのファンはもとより、「陳家私菜」に新たなファンを誕生させている。


陳氏が日本での展開になぜ、そこまでの思いを持っているのかについて伺ってみたところ、
「1988年に来日してから37年、私は修行中も店を持ってからも、たくさんの日本人の方に助けてもらってきました。今では日本を第二の故郷とも思っていますし、その恩を返したいという思いを常に持っています。ですから、創業当時より良い素材を使い、美味しい料理をリーズナブルな価格で提供するというスタイルで店を経営してきていますし、今後も、日本の素晴らしい食材と中国本場の香辛料や食文化を融合させた本物の中華料理で、より多くのお客さまに中国の食文化の魅力をお伝えしていきたいと思っています」
と返ってきた。さらに陳氏の感謝を胸に刻む生きざまはお客さまのみならず、従業員にも向けられており、従業員が里帰りする際には渡航費などについてもサポートしているそうだ。
そんな、人にも料理にも真摯な姿勢で向き合う陳氏率いる「陳家私菜」の魅力にぜひ、多くの読者にも触れてみてもらいたい。
「陳家私菜」
https://chin-z.com/








担当:毛利愼 ✉mohri@ohtapub.co.jp