世界的な大企業がもたらす競争の波
ロッド・カスバート氏: 「迅速に行動して物事を打破するという非常にシリコンバレー的な考え方を持つ世界大手のOTA(オンライン旅行代理店)と競争するのは難しい」
日本でWiTを開催して12年が経ったが、カンファレンスの冒頭で、Travel.jpおよびTravel101のCEOである柴田啓氏は、「私たちは、新たな技術革命の瀬戸際にいることに気づきました。それは、人工知能(AI)です。これは単なるひとつのトレンドの波ではなく、パラダイムシフトであり、私たちの業界を再構築する大きな津波のようなものだと考えています」
日本最大のツアー&アクティビティ・プラットフォームであるVELTRA(ベルトラ)の社外取締役を務めるカスバート氏は、外部からの視点を持ちながらも、日本の市場や業界の内部事情について深く理解しているユニークな立場にある。彼は、日本の旅行会社は、現在、グローバル展開の取り組みにおいて文化的な課題に直面しており、その課題とは、日本企業における綿密に計画を立ててリスク回避するという従来のビジネスマインドセットが、オンライン旅行システムの構築で成功を収めたシリコンバレーの「迅速に行動し、物事を打破する」というビジネスマインドセットと衝突しているという見解を示した。
「日本の旅行関連企業やブランドにとっては難しい挑戦です。シリコンバレー的な発想の大手OTAと競争していくのはかなり大変なことです」とカスバート氏は言う。
しかし、日本企業の強みは、「特にユニークな視点と独特の希望・要望を持つ国内旅行者に対応する場合、強い競争力を発揮できる深い文化的理解を持っていることです。日本の旅行会社は、日本文化と日本人の考え方を深く理解しており、それは欧米人旅行者の考え方とは根本的に異なります」と彼は言う。
ポイントは、日本の旅行会社やブランドが、いかにして深いローカライゼーションと幅広いグローバリゼーションのバランスをとるかであるだろう。
一方、日本を 「感覚の帝国 」と呼ぶコール氏は、AIとテクノロジーが前例のない可能性を提供する一方で、企業は顧客が特別な配慮、愛情、気遣い、ユニークな体験を切望する人間であることを決して忘れてはならず、顧客はロボットではないと熱弁する。
「顧客はアバターではなく、ひとりの人間です。そしてその人間は、特別な配慮、特別な愛情、特別な気遣いを求め、日本にいれば絶対的に提供される特別なサービスを受け、素晴らしい体験をしたいと強く望んでいるのです」とコール氏。
私は今回の来日でも、過去に日本を訪れるたびにそうであったのと同様に、特別な「ひとりの人間」としてもてなしを受けるという体験をすることができた。私が宿泊したホテルでは、複雑な迷路のような施設内を案内してくれる人間が他のどのホテルよりも多く、皆とても礼儀正しく、私にはUberを呼ばせず、彼らがタクシーを手配すると言い張るほどだ。ホテルのスタッフは、私のバッグを持ちながら傘をさして私をタクシーまで案内し(滞在中に雨の日があった)、ドアを閉めてくれた。このホテルでロボットに出くわしたことは一度もなかった。
日本に来ればトイレの便座は温かく、都会のネオンは点滅し続け、パチンコ屋は相変わらず賑やかで、コンビニエンスストアには素晴らしい品々で溢れている。その裏で、ホテルの下を走る電車の絶え間ない振動を感じるように、この国では深く根本的な変化が進行していることを肌で感じた。それは、まるで能舞台を鑑賞していて、次はどんなドラマが展開されるのだろうと期待でワクワクする感情と似ているのだ。