日本の不変性、そして変わりつつあるもの
カンファレンスのオープニング・スピーカーを務めたドイツ人経済学者のイェスパー・コール氏(Jesper Koll)は、自らをジャパン・オプティミスト(日本楽観主義者)と称し、日本を過小評価してはならない理由を列挙した。
- 料理外交:世界的に大味と有名なドイツ料理でさえ美味しく感じられる唯一の場所は、日本だけ。
- 政府の効率性と観光産業への注力:日本の首相は国会に提出された法案を100%可決した。
- 新しい中間層の出現:若年層が正規雇用を確保し、雇用の安定、所得の増加、国内旅行への購買力の増加をもたらしている。
- 日本企業の世代交代:ここ1年半の間に就任したCEOの平均年齢は、基本的に約69歳から約52歳まで下がっている。
- 日本の労働流動性とスタートアップ文化:日本のエリート労働者の転職や職場移動の状況が顕著に増加しており、多くの若いプロフェッショナルが安定した政府関係職や公務員を離れ、スタートアップ企業に入社している。これは、リスクを取る事やイノベーションへの文化的なシフトを示している。
- 移民受け入れによる変革:日本は移民大国への道を歩んでおり、就労ビザや永住権を持つ非日本人の数は増加している。そのことにより、よりオープンで多様な社会が形成される。現在、その数は320万人に達している。
雇用と競争におけるテクノロジーによるブレイクスルー
しかし、AIがもたらす破壊的混乱は、雇用の面だけでなく、伝統に縛られず、「素早く物事を打破し、失敗を教訓にスケールアップする」ことを文化としているグローバル大手と日本の旅行業界における新たな競争においても否定することができない。
コール氏は、雇用に起こる破壊について次のように語った。「情報に自由にアクセスできるようになると、キュレーターや門番的な仲介的な役割を担ってきた伝統的な仕事はどんどんなくなり、その役割や価値提案の再評価を迫られることになります。基本的にキュレーターとして機能してきた従来の仕事は、その役目を終えようとしています」
カンファレンスでは、「仕事の置き換え」ではなく、「スキルの置き換え」という言葉が使われたが、大手旅行企業が消費者向けにAIを組み込んだ様々な旅行のプランニングツールを発表している間にも、実際の仕事は明らかに舞台裏で行われている。つまり、企業の裏舞台である内部プロセスにAIが取り入れられ、業務効率を高め、働く人々の生産性を向上させ、株主をより幸せにする。
Viator(ビアター)の創設者であるロッド・カスバート氏(Rod Cuthbert)は、AIがツアー会社やホスピタリティ企業のアクティビティ部門にどのような恩恵をもたらすかという質問に対し、次のように答えた。「コンテンツ作成、翻訳、カスタマーサポートのような作業を自動化することで、この業界の企業での効率化が進むというメリットがあると考えています」
AIツールの恩恵や影響は、アゴダ(Agoda)のような大手企業でも起こっている。アゴダのビジネス・デベロップメント担当VPのティモシー・ヒューズ氏(Timothy Hughes)は、実際に何が起きていて何が問題なのか詳しく知る必要があると語った。
ひとつは開発者の生産性向上だ。
「AIにコードレビュー(ソースコードを開発チーム内でチェックし、その品質を確かめる作業を)を手伝ってもらうだけで、開発者の生産性を10%から15%向上させることができると考えています」とティモシー・ヒューズ氏は述べた。
二つ目は、カスタマーインサイトを引き出すことだ。ヒューズ氏は、「企業はカスタマーインサイトを引き出すために、説明文、レビュー、フィルタリング、広告コンテンツ、ビデオコンテンツといった様々なコンテンツを利用します。これに顧客ケアコンテンツも含めることで顧客体験が潤い、それと同時にサプライヤーや消費者から得られる情報を効果的に活用するクリエイティブな方法を見つけることができるのです」とも語った。