日本のホテルやレストランは世界からサービスや料理の質などクオリティーの高さを評価されてきた一方で、欧米諸国と比較すると単価が低く、働く人材やパートナー企業も含め多くの関係者が低い給与や少ない利益で長い期間苦労をしてきた。ホスピタリティービジネスを取り巻くマーケットが変化をする中でそうした状況がやっと改善されてきている。国内では単価の上昇に批判的な意見も出てきているが、皆さまにはそうした声に怯むことなく、より価格に見合う高い価値を目指し前に進んでいただきたいと思う。
4月17日、公正取引委員会が都内の一部のホテルの客室単価などの情報を交換していたことが独占禁止法違反(不当な取引制限)に当たる恐れがあるとして、公正取引委員会は近く警告を出す方針だと複数のメディアによって報じられた。本原稿を執筆時点で最終的な結果は出ていないが、公正取引委員会は今回対象となったホテル各社が会合を通じて宿泊料金の維持や引き上げをしていたとまでは確認できないものの、各社間の情報共有が宿泊料金に影響を及ぼした可能性があるとみているという。
調査対象のホテル各社が公正取引委員会の調査に対しどのようなコメントをしたのかは不明であるが、オンラインで宿泊施設の販売価格がオープンで見られるこの時代に、ホテル事業者でなくともホテルの宿泊料金が上がっている要因は需要と供給のバランスであることは明白に分かるはずだ。厚生労働省が公表している令和5年度衛生行政報告例の概況によると東京都内のホテル・旅館軒数は4422軒あり、OTAの一休.comで東京23区のホテルで「ビジネスホテル」を除いたホテルで調べても139軒のホテルがある。そのうちのたかが15社が情報交換をしたところで価格を上げられるわけもないし、仮にそうなのであればとうの昔にやっていただろう。
東京をはじめとした需要の強いエリアにおいて需給バランスによって宿泊価格が過去にないほど高騰をし、それに対して日本人を中心に不満が出ていることは事実だ。しかし、それはこれまで日本のホテルが品質に対してあまりにも安かっただけで、やっと欧米諸国に追いついたレベルに過ぎない。また、多くのホテルが人材不足の中で働き手を確保するために人件費を上げ、そのためにも単価を上げることは必要であったし、その上昇する単価にただあぐらをかいているのではなく、価格に見合う価値を提供できなければ顧客満足度は下がってしまうと必死に考えて努力もしてきたはずだ。そうした努力の上に現在があるのに、ホテル間で話し合って安易に値上げを決めている?冗談じゃない。
日本のホスピタリティーは世界でもトップクラスである一方で、未ださまざまな領域において課題もあり、それは伸びしろとも言える。皆さまにおいてはさらなる価値の提供と成長を目指し日々まい進をしていただきたいし、われわれもそれに貢献をしていきたいと考えている。
※本稿は「月刊ホテレス」25年6月号連載「FROM THE PUBLISHER」掲載のものを先行公開