次に、料金帯別にどれほどの市場性が見込めるかを見るために、ビジネス目的および観光目的それぞれで見られるWTP を料金帯別に回答した人数に基づく回答比率で表現し、市場の室料別、確率分布図を見てみます。市場全体である特定の料金帯に対して何%の人が支払ってもよいと考えているかを表現した図となります(上段がビジネス目的WTP 確率分布図、下段が観光目的WTP 確率分布図)。
5 スタークラスに対する回答のみにデータを表示するようにしてみます。そうしますと、ビジネス目的では、3 万円前後との回答で4.1%、3 万5000 円前後で1.0%、5 万円前後で4.1%と、5スタークラスのホテルに対して3 万円以上を支払ってもよいと考えている回答者比率の合計で9.2%という結果でした。また、観光目的では、3 万円前後との回答で5.1%、3万5000 円前後で0.5%、5 万円前後で2.6%、5 万5000 円前後で0.5%であり、3 万円以上との回答者比率を合計しますと8.7%という結果でした。つまり、上記のようなWTP ベースで考えると市場全体の約9.0%前後が5 スタークラスのホテルに対して3 万円以上を支払ってもよいと感じているという結果でした。
このように、ホテルカテゴリーが上がるほど、市場全体がターゲットというのではなく、ホテルライフを楽しむような一部の顧客層がターゲットとなります。そのような限られた顧客層に対して、明確なホテル側のメッセージやコンセプトを伝え、各ホテルのカテゴリー別に個別ターゲット顧客層の心理面に的確に訴求していく必要があるのです。このように、ブランドコンセプトやホテルコンセプトとは、市場が一層限定されるホテルクラスが上がる程に重要な意味があり、単にホテルを差別化する、あるいはホテルのポジションに差別化要素を加えるということ以上に、そのように限られた市場に対して的確なホテル側のサービスコンセプトを提示し、当該市場の消費意欲をかき立てるという意味において重要かつ必要な情報発信と言えるのです。
北村剛史
Takeshi Kitamura
㈱ホテル格付研究所 代表取締役所長
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士、MAI( 米国不動産鑑定士 )
MRICS(英国王室認定チャータードサーベイヤーズ)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員。ホテル・旅館の不動産鑑定評価会社である㈱日本ホテルアプレイザルの取締役。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科では「ホテル・旅館の人格性、パーソナリティー」をテーマに研究活動に従事