前々回に、今後のホテルマーケットにおける賃貸借契約の在り方およびその潮流について触れました。ホテルの賃貸借契約を検討する際、定期建物賃貸借契約か普通賃貸借契約にするのか、また契約期間や一時金の額や賃料条件、原状回復および解約条項等さまざまな論点がありますが、今回は特に、オーナー側の所有資産となるものとテナント側の所有資産になるもの、つまり甲(貸主)乙(借主)区分の在り方について、実際の契約書を参考に整理し、その資産区分の傾向をご紹介したいと思います。
まず、甲区分資産、つまり貸主が所有する資産は原則、民法242 条に規定されている「符合物」と言われるものが大半であり、本体建物と分離できない、あるいは本体建物の構成部分として取り扱われます。本体建物の売買があれば当然に符合物である甲区分資産も本体建物の権利移転に従うことになります。一方で大半の乙(借主)区分資産は、「主物に属しても独立性を失わない」、民法上「従物」と言われる概念に相当するものが多く、「独立して権利の対象」となるものです。ただし、抵当権が設定され競売等により権利が行使された場合に抵当権の担保効力がこの従物にまで及ぶかについては、抵当権設定時に特段の定めをしていない限り、その法的解釈や説明の仕方に差異が見られるものの原則として抵当権の設定前後を問わず従物にもこの担保効力が及ぶことになります。
第194 回
新しい視点 「ホテルの価値」向上理論〜ホテルのシステム思考〜
第194 回『ホテルの賃貸借契約条件(甲乙区分)』
【月刊HOTERES 2015年11月号】
2015年11月06日(金)