星野リゾートグループは2015年7月27日(月)、ANAクラウンプラザ4施設を米国ファンドの子会社より株式取得すると公表した。これまで旅館やリゾートの運営に積極的に関わってきた同グループが地方都市の観光ホテルに携わるその背景にはどのような狙いがあるのか? 星野リゾート代表の星野佳路氏に聞いた。
聞き手・文 岩本 大輝
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星野 佳路 氏(写真は2014年11月取材時撮影)
地方都市の観光は
どんどん良くなっている
―今回の取得の経緯について教えてください。
私たち星野リゾートグループにはさまざまなホテルの運営や売却といった案件が寄せられますが、その中の一つとして寄せられたのがこのANAクラウンプラザホテル金沢、富山、広島、福岡の4施設でした。
私はここ数年、地方都市の観光がどんどん良くなっていると考えています。街に景観条例が定められたり、観光インフラの整備も積極的に行なわれたりしています。そんな中で、今回の案件が寄せられ、4施設とも魅力的な観光都市に所在していることもあり、大きな興味を持ちました。
温泉旅館に宿泊していた
観光客は、どこに行ったのか?
―これまで旅館やリゾート主体であった星野リゾートが、なぜ今回のようなシティホテルに関わろうとお考えになったのでしょうか?
まず、私たちがなぜこの「地方都市のホテル」に関わろうと考えたかについて説明をさせてください。
私たちは継続的に市場調査を行なっているのですが、この10年くらいの期間で国内の観光市場の変化について気づいたことがあります。インバウンドを除く日本国内の旅行市場は、温泉旅館の市場は大きく減少しましたが、国内の旅行市場全体は微減ではあるものの安定していることがわかったのです。決して人口の減少に伴う構造的な減少は見られませんでした。
では、先ほどの大きく減少をした温泉旅館の市場、言い換えれば地方都市の観光旅行客ということになるかと思いますが、彼らはどこに行ってしまったのかというと、その多くはその地方のビジネスホテルに移っているということが見えてきたのです。
その理由は、温泉旅館など提供者側の理由もあるでしょうし、観光旅行客の変化もあるでしょう。いずれにしても、観光旅行客は温泉旅館からビジネスホテルに移っただけで、国内の観光旅行市場自体は大きく変化していなかったのです。
現在の地方都市のホテルは
観光旅行客のニーズを満たしているのか?
また、さらに面白いことが分かりました。温泉旅館からビジネスホテルに移った地方都市の観光旅行客はそれで満足をしているかというと、決して不満足ではないものの、十分に満足しているとは言えない。そして、調べていく中で、彼らのニーズは「効率的にその都市にある魅力を観光したい」と考えているということが分かったのです。
では、そこに対して地方のビジネスホテルが取り組んでいるかというと、ほとんどない。そして、消費者もそれがホテルの仕事であるという認識もないので、不満にもなっていない。一方で、星野リゾートでは、これまでも各施設がさまざまな形でそれに取り組んできました。トマムではトマム自体が観光地になっていますし、「星のや」や「青森屋」などでは“一日を演出する”ということを大切なことと捉え、地元の伝統やイベントを体験できる取り組みを行なっています。
これまでの地方のビジネスホテルは、ビジネス客を主に見てきた中でつくられてきたサービスを提供しています。そこに、観光客の視点でサービスをつくりあげていく。地方都市のホテルが、そういった領域に入っていくことで、地方都市の観光旅行客が持っているニーズを満たし、新しいモデルとして築けるのではないかと考えたのです。
星野リゾートにとって、観光は大切なカテゴリです。観光客のニーズに応えるのが私たちの使命である以上、この地方の観光客のニーズが大きいと分かったのですから、私たちとしてもそこを無視するわけにはいかないという考えもありました。
5年、10年、15年という視野
都市型ホテルの運営を
所有・経営という立場で学んでいく
―しかし、今回取得されたホテルはいずれも、IHG・ANAホテルズグループジャパンとのマネジメント・コントラクト形式(運営を委託する形式)で直接的に経営に関わる部分は限定的なホテルです。リートではなく、星野リゾートグループとして、所有・経営という形で今回の取得に踏み切られた背景について教えてください。
先ほどのような仮説があるとはいえ、私たちは旅館やリゾートの運営は得意でも、都市型ホテルの運営について経験がありません。おっしゃる通り所有・経営サイドですから、運営とは違いできることも制限されています。しかし、これからの5年、10年、15年というスパンで考え、取得しておくべきだと考えました。今回の取得を通じて都市型ホテルの運営について学んでいきたいという狙いがあります。
ですから、今回取得したホテルに関して、一部の追加投資はありますが、それ以外のことは現時点で何も具体的に考えていることはありません。
都市型ホテルの“運営”にも
大きな興味がある
―所有・経営という立場で学んでいきたいということでしたが、先ほどの仮説も踏まえ、今後星野リゾートとしてこれまで未経験領域である都市型ホテルの運営にいつごろから関わっていこうというお考えがあるのでしょうか?
すでに大きな興味があります。これまでもご相談いただける案件に関しては常に積極的に考え、取り組んできました。だからこそ現在バリやタヒチにも関わっているわけです。都市型ホテルは未経験の領域ではありますが、良いお話があればすぐにでも関わっていきたいと考えています。
―「地方都市」という言葉が出てきましたが、どういった都市が対象になるのでしょうか?
日本全国には観光都市として魅力的な都市は数多くあります。今回の金沢や富山、広島、福岡もそうでしたが、熊本や仙台など上げればきりがありません。大阪も大きな都市ではありますが、一方で地方都市としての要素を多分に持っていると考えます。どのようなお話しにも、前向きに考えていきたいと思います。
■星野リゾート
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