10年で 100のホテルを開業
太田 あなたがファーイーストのホテル部門の責任者ですね。
キョン 私は、ハイアットやリッツカールトンなどで長くホテル業に携わり、15年前にファーイーストのホテル事業を立ち上げました。その後、5年間バンヤンツリーで勤めた後、2012年に声がかかって、再びファーイーストに戻りました。ホテル事業を成長させるためです。2012年に再び始めたときのホテル数は 18でしたが、今は100近くあります。これが我々のこれまでの成果です。
急成長する我々の戦略は「狭く深く」です。他の大きなホテルチェーンでは、モルジブ、アブダビなどにもホテルがあり、これからもバリ、マラケシュ、セイシェルなどで新しくホテルを開業するでしょう。どこもみな同じような戦略です。対する我々は、世界の中から有望な市場にフォーカスをして、集中して投資します。例えば、2013年からオーストラリアでは、約 20億豪ドル規模の資産取得やパートナーシップ契約を行いました。そして、2019年に次の目標を日本にしました。投資規模は言えませんが、オーストラリアと同じような成功を得たいと考えています。
日本初進出となるファーイーストビレッジホテル東京有明
太田 それは COVIDの前に決められたのですね。
キョン そうです。
有明のプロジェクトを開始した当初、我々は日本市場での経験がほとんどありませんでした。そのため、清水建設とともに親会社のファーイーストオーガニゼーションがホテルを建設し、運営を任せられる日本のホテルオペレーターと契約をしました。それが我々にとって、日本で最初のホテルです。もし、日本で真剣にビジネスを行うつもりがなければ、ホテルを買うか建設して、すぐに売却して儲けています。それで儲かるのです。パンデミック中ですが、有明のホテルの資産価値は上がり続けています。
太田 清水建設は自分で経営しようとしなかったのですか。
キョン 彼らは建設専門で経営のリスクはとりません。オッケー、それならファーイーストがやります。こうして東京に日本国内第一号となるホテルが生まれました。
太田 それはよかった。日本で交渉するときに役に立ちますね。まずどこにホテルをお持ちですかと聞かれますからね。
日本は自立した市場
キョン そのあと横浜の話がきました。こちらはホテルを買って、マーティン(・フルック)を雇い、新たなチームを集めました。ファーイーストとして、日本で初めての直営ホテルとなります。しかし、親会社であるファーイーストオーガニゼーションとは、横浜のホテルを運営するだけの契約ではありません。
今 3つ目のホテルを探していて、いろいろな銀行や不動産会社と話をしています。日本のホテルの多くはリース契約ですよね。パンデミックの間もそうでした。我々もそのつもりでしたが、実は買い取り希望の物件が多いのです。我々は、常に有望な投資物件を探しています。これまで非常に短い期間に、主要都市である東京に1軒、横浜に1軒開業し、他にも投資しようとしているわけです。
日本はインバウンドの潜在能力があります。そのうえ日本は、非常に自立した市場で、パンデミックの間も「信じられない」くらい成績が良くて目標を達成しました。有明は、2021年 8月まではオリンピックのおかげで大きな利益をもたらしました。横浜も、週末やイベント開催時の稼働は好調で、力強い国内需要を感じます。
ブランドイメージはホスピタリティ
太田 すでにあるホテルに興味があるのですか。それとも自分で開発するのですか。
キョン 両方とも、長期の視点で考えています。そのために、日本市場では、まずはビレッジブランドの浸透を図っています。日本のお客さまが、このブランドに価値や他との違いを感じていただけるようになることを願っています。
太田 シンガポールのホスピタリティですか。
キョン そうです。経験を蓄積して、それを非常にお得な価格で販売すれば、お客さまと我々、双方にメリットがあります。例えば、旅の目的地の街で味わう経験ですね。同じことをシンガポールでも行っており、好評を得ています。低価格帯から中価格帯のホテルと競合することもありますが、経験を蓄積してより上位、中価格帯でもプレミアムな位置を狙っています。日本のホテルでは、良いベッドとシャワーは基本。それと場所も大事ですね。ファーイーストは、そこにプレミアムな価値をつけ加えます。
賃金を上げて客室係を確保
太田 ここ5~6年、たくさんのホテルが、客室係が見つからないとこぼしています。フィリピン、タイ、ミャンマーに行きましたが、日本はアジアのなかでも一番賃金が安いです。この手のビジネスホテルは安すぎます。ぜひ宿泊料を高くしてもらい、賃金を高くしてほしいです。そうしないと労働力が集まりません。日本の労働力市場をどうお考えですか。
キョン 第一に、それは政府が決めなければならないことだと思います。政府は、ホテル産業が日本人の求める仕事を提供するべきか否か、を考えるべきです。
シンガポールも似たような状況です。各種マネージャークラスはシンガポール人で、彼らは最終的に総支配人を目指すわけです。客室係や給仕などの仕事を、ローカルは望みません。仕事量に対する賃金が少なすぎるのです。政府は、産業を保護するために、客室係などの最低賃金を高くする必要があります。今は 1200~1300シンガポールドルですが、単純労働の中身を段階的に複雑化することで、2025年から 27年にかけて、賃金を倍の 2500ドルにします。
一方で、外国人労働者枠の上限を緩和して雇いやすくしました。ホテルとしては、客室係の質を高める必要があるのです。日本では、働いたお金を日本で使うことが一般的だと思いますが、シンガポールの場合は、マレーシアから国境を越えて毎日通勤してくる人たちがいます。為替レートのおかげで、マレーシアに戻るとお金の価値は 3倍になります。
太田 日本は地理的に孤立していますからね。
キョン シンガポールはついに外国人労働者枠を広げました。長い間抵抗がありましたので、この政策を実現するには 1年では足りませんでした。長い年月をかける必要がありました。最低賃金を上げて、外国人を招き入れるのですが、ローカルでもその仕事をやりたくなるような金額にします。頭を使う仕事はみんなやりたがりますが、手を使う仕事はやりたがらないので、その仕事の賃金を上げるのです。