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2021年8月27日号 特集 SDGsから新たなホテルビジネスを生み出せ!PART3:これからのムーブメント編

特別対談 ホテルレストラン業界における食品ロスへの取り組みは意識改革の次のステップへ

【月刊HOTERES 2021年08月号】
2021年09月03日(金)
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太田 中村シェフが統括名誉総料理長を務めるホテルメトロポリタンエドモントでは以前から食品ロスに積極的に取り組んでこられていますね。

中村 現場で食品ロスに取り組んでいる身として、これからが真価が問われる時代だと感じています。日ごろから食とは大切な命の糧であるとともに、人間形成の根幹にあるものだと考えています。地球温暖化、海洋汚染、水資源の枯渇、土壌の劣化などの問題に直面していますが、こうしたことが食に直結していることをしっかり認識する必要があると思います。

 私自身は 2017年に FAOの親善大使に任命され、自分が関わるホテルの食品ロス対策に根本的に取り組まなければならないという思いに至り、2018年にプロジェクトを立ち上げました。そこで一番心したことは、まず若い人たちに食品ロス問題の本質を知ってもらうことを通じ、自ら取り組んでもらえるようにする意識改革でした。そして一ホテルとしての活動だけでなくホテル業界に一石を投じたいという思いが募りました。

 この食品ロスの問題は SDGsの 17の目標の中で、少なくとも 7つに大きく関わっており、今や新聞やテレビなどでも取り上げられるようになり、かなり浸透してきています。フードバンクなどのネットワークも立ち上がり、各方面で皆さんがんばっています。しかし、コロナ禍で足踏み状態になっています。今後、ぜひ行政のお力も頂き、官民が一体となり、数値目標や基準を設けるなどを明確に掲げ、一歩踏み込まないと本当の成果が上がらないのではと考えられます。
 
太田 具体的な数値目標などルールづくりが必要ということですね

中村 目標を掲げてみんなで力を合わせていく、そういう時期に来ていると感じています。

小泉 それは心強いですね。多くの業界の方からは、あまり厳しい目標設定をやめてくれと言われることが多いですが、むしろ一歩踏み込んでほしいというお話ですから。

 

時代とともに変化する新たなラグジュアリーのスタイル

太田 ホテルで行なわれている大規模なパーティーでは大量の料理が用意され、大量に廃棄されています。これを全国規模で見たらものすごい量になっています。これに関してもルールをつくってもらい、会の初めに主催者に「取り分ける料理は自分の食べられる分だけにしましょう」と言っていただくだけで、取りすぎない、余らないということにつながると思います。ちょっとした積み重ねで大きなロスをなくしていくことも大切だと思います。
杉本さんが料理長を担われている帝国ホテル東京ではどのような取り組みをされていますか
 
杉本 ホテルという場所は、ラグジュアリーな空間や料理を提供する非日常の場だと思います。SDGsや食品ロス問題は倫理的、道徳的なことなので、それをホテルという場にどのようにリンクさせていくかを、まさにいま課題として取り組んでいるところでございます。しかし、第一歩を踏み出すにはとてもハードルが高いという現場の声もあるため、国を挙げて推進していただけるというのはわれわれとしても大変心強く思います。背中を押していただき、堂々とやっていけるきっかけになると感じました。

 実は帝国ホテルでも食べきれなかった料理をお持ち帰りいただくという取り組みを、国連が定める 6月 5日の「世界環境デー」に合わせてトライアルしました。その際、食品衛生の問題はどうするのか、何か起こったときの責任問題はどうなるのかなど、いろいろ乗り越えなければならない課題が浮上しました。国の後押しがあれば、そういった課題にも積極的に取り組んでいけると思います。また、バイキングレストランでの提供の仕方を変えました。通常バイキングはお料理がたくさん並んでいて好きなものを好きなだけ食べられるという点が醍醐味で、帝国ホテルが発祥の食のスタイルですが、これをこの機にガラッと変えて、オーダー形式にしました。

小泉 バイキングスタイルをやめたのですか

杉本 一部のメニューを除き、ほとんどの料理はタブレットでオーダーを受けてから調理して、出来立てを提供する形にしました。これにより作りすぎを防ぎ、余った料理を営業終了後に大量に廃棄してしまう食品ロスにメスを入れたのです。

小泉 それは素晴らしい取り組みですね。その話はニュースに報じられていますか?もっと発信したいですね。

杉本 先程のラグジュアリーな空間や料理を提供するということとも結びつくのですが、ホテルでは「売り切れました」とはなかなか言いづらいのが現状です。しかし、この機にそれを言っていこうという動きを社内で起こしました。こうすることで食材を余分に仕入れたり翌日に繰り越したりすることなく、食品ロスを減らしながら毎日鮮度のよいものをお客さまに提供していくことができます。

小泉 素晴らしい。反応はいかがでしたか

杉本 期待されてお越しいただいたお客さまをがっかりさせてしまうということは少なからずあるとは思いますが、そこはわれわれに説明責任が課されていると思います。食材を活かしたメニューをご提供するために、鮮度のよい限られた食材を仕入れているということをしっかりお伝えし、また、ご予約いただいたら取り置きますと申し上げることで次回につなげることもできると考えています。

 

小泉 食品ロス削減のためにやりたいことの二つを、すでに実践されているのはすごいことだと思います。一つは食べ切りを意識して取り放題形式はやめる。もう一つは、品切れを許容する。そこに帝国ホテルが一歩踏み込むというのはインパクトが大きいと思います。実はコンビニエンスストアやデパートに対し、品切れを起こしたら取り引きしてくれなくなるから、業者が多めに卸さなければならない事態の改善が必要です。消費者の意識もあるのですが。帝国ホテルが品切れを許容していることを、環境省を挙げて宣伝したいと思います。

中村 このブッフェスタイルは今や日本の各ホテルや、レストランでしっかりと定着しています。しかし残念ながらコロナ禍で衛生面などを考慮してほとんど中止されていましたが、今や各ホテルで食品ロス対策も鑑み、様々な工夫の中で実施されています。大切なことは、このコロナが収束したら元に戻るのではなく、食の生活スタイル、またその意識を変えていかねばなりません。そのためには現場の私どもにはその責任と自覚が大きく求められています。

小泉 先程、杉本さんが言われたラグジュアリーなホテルに SDGsや環境のことなど倫理的、道徳的なことを持ち込むと夢が覚めてしまうということについて私は逆の考えです。そういうところに意識のいかないラグジュアリーさは成り立たないという時代に入ったと感じています。例えば帝国ホテルが環境の取り組みをします、SDGsをやりますと言っておきながら従来のバイキングを実施し、大量に廃棄していたら、言っていることとやっていることが違うじゃないということになってしまいます。環境に配慮すると言いながらペットボトルのミネラルウォーターが出てきたら、「これプラスチックなんですけど?」というように、整合性が問われてくる時代に入っている。むしろいままでのやり方でラグジュアリーを続けると完全に破綻するでしょう。消費者の感覚もそのようになり始めていると思うのですが、そうした変化は感じませんか?

杉本 「SDGsをベースにしたラグジュアリー」に、世間の意識が少しずつ向いてきていると感じています。例えばエコという言葉ですが、以前まだまだ定着していなかったころに世間では「エコしましょう」としきりに言っていたと思います。でも、いまではエコはあたりまえになってわざわざ言いません。それは時代が追いついてきたということだと思います。SDGsもそのうち当たり前になってラグジュアリーブランドホテルも一緒に歩んでいくものになると思います。

太田 いま海外で意識が高いとされるホテルグループにシックスセンシズがあります。SDGsの最先端を行っているホテルで日本にもこれから出店する予定です。同グループでは例えばリゾートホテルを作るとき、牛や山羊を飼って余った野菜などを与えて食品ロスに対応したり、自分たちで鶏を育てて卵をお客さんに提供したり、徹底的にエコロジーを追求する。そうすると世界中の政府から参考にしたいから、うちの国でホテルをやってくれないかという話がきます。お客さんもこのホテルはエコロジーにきちんと対応しているからと選ぶようになってきています。こうした動きも日本にやってくると思います。なにせ日本は何をやるにも時間がかかる国です。いろいろなハザードがありますから。そこをクリアするには官民一体になって、官が目標数値やルールをつくり、民間ががんばるといった流れになってほしいと思っています。

 

中村 勝宏 
Katsuhiro Nakamura 

1944年鹿児島県生まれ。高校卒業後、料理界に入る。70年渡欧。チューリッヒの「ホテルアスコット」を皮切りに、以後 13年間にわたりフランス各地の名だたるレストランでプロの料理人として活躍する。79年パリのレストラン「ル・ブールドネ」でのグラン・シェフ時代に、日本人としてはじめてミシュランの 1つ星を獲得。84年に帰国。ホテルエドモント(現ホテルメトロポリタンエドモント)の開業とともにレストラン統括料理長となる。94年には常務取締役総料理長に就任。2003年フランス共和国より農事功労章シュヴァリエ叙勲。08年の北海道洞爺湖サミットでは、総料理長としてすべての料理を指揮統括する。10年フランス共和国の農事功労章オフィシエ叙勲。13年日本ホテル(株)取締役統括名誉総料理長に就任。15年クルーズトレイン「TRAIN SUITE(トランスイート)四季島」の料理監修。16年フランス共和国農事功労章の最高位「コマンドゥール」を受章。17年、日本初の国連食糧農業機関 (FAO)親善大使に就任。18年、日本ホテル株式会社特別
顧問統括名誉総料理長に就任
主な在籍会
ゴブラン会 会長
フランス農事功労章協会 終身名誉会長
クラブ・プロスペール・モンタニエ日本支部 副会長
著書

1993年 ポワルの微笑み/講談社
2001年 完全理解 フランス料理技術教本/柴田書店
2015年 中村勝宏の魂の食対談〜本物を求めて〜/オータパブリケイションズその他著書多数

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