地域間競争は平成で終わりを告げ
令和は戦いを略する時代に入っていく
村上 2020 年以降のゴール設定として、どのようにブレークスルーのプログラムを創ればいいのでしょうか。
井門 まずは「地域間競争」という言葉をなくしていかなければなりません。デスティネーションキャンペーンなど、もうパイの奪い合いはやめましょう。
昭和の時代に終わっているはずの地域内競争をいまだに引きずっている人たちがいますが、彼らには退場してもらうしかありません。次の地域間競争についても、平成の時代で終わらせなければなりません。
令和の時代には競争ではなく、戦を略する。つまり戦略を持って、アイデア勝ちで先にやった者が先に潤っていく形になるのだと思います。
旅館の事業承継のゴールは四つあります。1/4 の旅館は消えます。1/4 は今まで通り、親子間で事業承継されます。1/4 は第三者承継。そして1/4 は大きな資本に買われることになるでしょう。
村上 新しい時代に向かうための参考事例は出てきましたか。
井門 2019 年2 月に開催された「第4回旅館甲子園」で新潟県の「酒の宿玉城屋」が下馬評を覆してグランプリを獲得したことで、時代が変わったことを実感しました。
「酒の宿 玉城屋」の社長は30 代で、事業承継をしてから3 年目です。事業承継をしてから何とか2 部屋だけは改装できて、宴会場をレストランに変えただけです。あとは昔のまま。稼働を上げるのは難しいので単価を上げようと、料理と地酒をマリアージュさせて平均単価を5000円上げることができました。
それを原資にして次の改装をするのかと思いきや、「地域のために」ということで廃業した同郷の宿を買ったのです。そこをゲストハウスにして、「毎月定額で、世界中を旅しながら働く」をコンセプトにしたサブスクリプションの仕組み「HafH(ハフ)」に加盟しました。定額で泊まり放題ですから、1泊の観光客という概念を頭から外して、仕事を持ち歩きながら渡り歩くライフスタイルをサポートするサービスに参加したわけです。
村上 完全にイノベーションですね。ストラクチャーから関係性まで、マーケティングや旅館の本質すらも変えてしまった。
桐明 本当の意味でのパラダイムシフトを達成している旅館もある。「シェアリングエコノミーの考え方を旅館に当てはめるとこうなります」という事例ととらえることができます。
大山 旅館を使って、スペースのタイムシェア的な事業を新しく始めたのですね。
井門 減りゆく観光客をターゲットとしたマーケットはあまりにも小さいので、観光という概念ではなく、「人の流れをいかに創造するか」という発想ができるかが問われる時代なのだと思います。
連載20
旅館事業承継 スペシャル座談会
連載20 旅館を継いでいく次世代の経営者は イノベーションを起こさなければならない
【月刊HOTERES 2019年05月号】
2019年05月17日(金)