首長が未来のビジョンを描かなければ
地域一体再生を進めることはできない
村上 地域一体再生の取り組みが進んでいる地域、停滞している地域の特徴はどこにありますか。
桐明 首長がリーダーシップを発揮している地域は発展しています。地域一体再生は、自治体が主体性を持って取り組まなければできない、その動きを生み出すためには、首長のリーダーシップが必要不可欠です。
大山 首長は市民にどんな未来を創ってあげたいのか、具体的なビジョンを描かなければならないと思います。首長が将来のビジョンを見据えて「これをやるぞ」と決めているところでは、普段から地域内のコミュニケーションが図られています。首長1 人でできることではないので、職員の方々もそれぞれのコミュニティーにおける重要人物との意思疎通を続けています。そして「主役はあなたたちです」と市民に伝えることで、しっかりと取り組みを進めてもらう形を構築しているのです。
村上 リノベーションを行なってから次世代に引き継ごうとする傾向もあるようですが、そのポイントはどこにありますか。
桐明 リノベーションと事業承継は確実につながっています。ただし重要なポイントは「必ず次世代の人間がリノベーション計画を作る」ということです。そこを間違えると大変なことになってしまう。両親が「建物が古びているので、新しく作り直せば息子や娘が継いでくれるだろう」という発想は完全に誤りです。
大山 その形は一番駄目なパターンです。なぜなら再生のどん底をいかに切り抜けるかを、次世代を担う人が経験しておくべきだからです。切り抜けるというのは、余分なものを整理して排除すること、新しいものにトライしていくこと、その両方の掛け合わせを進めるということです。
リノベーションでは終わり方と始め方の両方を経験することができます。出口のところがどれほど大変なのかを経験するのと同時に、「これではい上がれた」という実感を得ることは後々とても生きてきます。
桐明 出来上がったものを受け取る形だと、コンセプトのミスマッチを起こしやすい。老舗企業がどうして老舗足り得るかと言えば、次世代が必ずイノベーションを繰り返していくからです。イノベーションをしながらつながっているから、次世代は自分で成果を出さなければならないのです。
事業承継の準備期間は最低でも10年、
本来は30年考えておかなければならない
村上 今回のシリーズ連載を終えて、次の新しいシリーズ連載では事例やテクニカルな話も盛り込む必要があるのではないでしょうか。
桐明 テクニカルという意味では、ファイナンスが事業承継にとってどれほど大切か、しかもそれが常日ごろの経営において実践されていなければ事業承継につながらないということをお伝えしていきたいと思っています。
日々のキャッシュフロー経営を意識していれば、実は事業承継の準備は自然にできるものなのです。そのことを理解せずに、あるときいきなり「事業承継しましょう」と言ってみてもそれは無理です。事業承継には少なくとも10 年かかると私たちは言っています。もっと言えば、本来は30年ほどの準備期間が必要なのです。つまり自分が継いだ時点から、次の世代に継がせるまでの道筋をしっかりと考えておかなければならないのです。
大山 経営とは、それが欲しい人に必要なサービスを提供して、お互いにWin-Win の関係になれるビジネスモデルによって稼がせてもらうことです。そして会計上の利益ではなく、キャッシュフローをいかに短期的にまわしていくのかが課題となります。お金を何に投資するのかだけでなく、お金を作るためのビジネスをまわしてくれるのは人です。事業も会社も人が作っているのですから、どういう人に共感してもらって一緒に取り組んでいくのか、その人たちとどのように成長していくのかを考えなければなりません。
桐明 事業承継はプロジェクトであること、そして理念をつないでいくものであることに対する認識がとても大事です。理念のない経営というのはただの犯罪です。
村上 事業承継のロールモデル、完成形に近いものは、できつつあると見ていいでしょうか。
井門 入り口としてはできつつあると思います。基本的に事業承継で何を承継するのかと言うと、ほとんどが不動産です。そこから先に議論が展開していかないという印象を受けます。
事業承継において父親世代の頭にあるのはほぼ節税のことです。固定資産税、相続税、法人税をいかに節税するか。「こんなにもうかってしまっているのだから、投資をしてから継がないと税金がかかって仕方がない」という発想なのです。
その一方で、下の世代はエクイティーをいかに増やしていくのかを考えています。ローンの時代ではなく、これからは借りることができないのだから、いかに自己資本を蓄えていくかを重視してファイナンスをしている気がします。ですから「自分に任せてほしい」と思っていて、税金がかかってもいいからそのまま自己資本で事業承継してもらいたいと思っているのです。
桐明 旅館業における事業承継の根本的な課題は、ほとんどの事業が債務超過である点にあります。それは過去の設備投資をほぼ100%銀行からの借り入れで行なってきたビジネスモデルだからです。それが返せないくらい借りてしまっている。それがほとんどの旅館の現状です。
大山 観光客の多様なニーズに応えるためには、旅館もサービスと施設を多様化させなければなりません。その役割を満たすためにはどこに突き抜けるべきなのかを考えて、資金や人材など多くのリソースを抱えている団体を創る必要があります。
それは地方創生への道でもあります。
連載20
旅館事業承継 スペシャル座談会
連載20 旅館を継いでいく次世代の経営者は イノベーションを起こさなければならない
【月刊HOTERES 2019年05月号】
2019年05月17日(金)