小売サービス部門優勝の沼田広志氏
料理、デザートと國酒のペアリング
決勝大会は、口述審査とサービスが問われた。酒類接客サービスの会話能力審査では、日本酒の特徴や魅力に関する外国語(第二言語)での説明が課されたが、特に日本人の表現力には総じて課題が感じられた。外国語はもとより、制限時間の2 分を有効に使ったファイナリストはわずかだったと見える。
しかし、近年の海外における日本酒人気の高まりや、訪日外国人の増加を反映したこの取り組みは高く評価できるものであり、今後の体系的な取り組みや唎酒師の語学力向上に期待したい。
接客サービス実技は、小売サービス部門では酒販店を訪ねたゲストの求めに応じた酒を勧め、販売するというもの。同世代の友人を招いた自宅での会食で、トマトと赤みそとバターを使った和風ビーフシチューに合わせた酒を探しているという設定だ。また、きなこと黒蜜をかけた葛餅(くずもち)に合わせるアイデアも求められた。この部門を制した沼田広志氏(東京都、日本酒類販売㈱)は商品提案はもとより、会計時の作法や商品の封入、販売した酒を手に店舗出口まで見送るなど、販売員としてのもてなしの姿勢も高く印象付けた。
料飲サービス部門は、高級和食店で熟年夫婦に対するサービスを想定したものだ。和風ビーフシチューと6 種のソースを添えたブリの刺身に合わせるそれぞれの酒の提案には、温度帯や酒器によって異なる味わいの提案といった唎酒師らしいサービスが目立った。また、日本酒を氷を通して冷やしながら、あるいは温めながらお湯を足してアルコール度数を下げて提供するなどのサービスも見られた。この部門で優勝し、総合優勝を果たしたチャン氏は笑顔の絶えないパーソナリティも印象的だが、ゲストに日本酒の飲酒経験を訪ねるなど、顧客に寄り添う酒選びも感じさせた。和風ビーフシチューには「吉野杉の樽酒」(奈良、長龍酒造)を勧め、杉樽による熟成香と、酸味がトマトに同調すると述べた。またブリには6 種あるソースに対して「龍勢 純米大吟醸」(広島、藤井酒造)をワイングラスで飲むことを勧めた。また、葛餅には黒糖焼酎の「れんと」(鹿児島、奄美大島開運酒造)を提供し、ソムリエらしいスマートな身のこなしは群を抜いていた。
日本酒サービスの国際化が進むか
「日本酒のおかげでこのステージに立つことができました。協力してくださった皆さんに感謝しています。今後もこの素晴らしい飲み物の魅力をお伝えして、世界中の皆さんに日本酒に親しんでもらえたらうれしいです」と喜びを語ったチャン氏は、日本料理 龍吟の台湾支店である祥雲 龍吟でシェフソムリエを務める。
唎酒師は1991 年の資格制度制定以来、およそ3 万5000 人が資格認証を受けてきた“ 日本酒のソムリエ”。焼酎に特化した焼酎唎酒師や、外国人や外国語での日本酒表現を身に付けたい日本人を対象とした国際利酒師も存在する。日本の國酒の提供者である唎酒師世界一のタイトルが海を渡った。それは、これまでモノ先行で進んできた日本酒の国際化の中で、一つのターニングポイントとなる環境変化と見ても良いだろう。
【第5回 世界唎酒師コンクール 決勝大会 結果一覧】
■総合優勝
CHANG HUNG LIANG(台湾 祥雲龍吟)
■料飲サービス部門第1位
CHANG HUNG LIANG
■小売サービス部門第1位
沼田 広志(日本酒類販売)
■特別賞
足立 有美(ANA フーズ)
ブーラフ・ドミトリー(twelv)
宮下 祐輔(ふしきの)
■ファイナリスト
<料飲サービス部門>
富永 誠(arcana izu)
AYA NOMOTO(米国 Breakthru)
山岸 裕一(酒の宿玉城屋・醸す森)
<小売サービス部門>
瀬戸 光一(白鷹)
SONG SUNG SU(韓国 スンシル大学)
並里 直哉(SAKE BASE)
※敬称略、入賞内順番は五十音順
司会は小誌連載でもおなじみの島田律子さんが務めた