養蜂とともに土中生物の多様性を受容しながらブドウ栽培、ワイン造りを進めるバレストゥリ・ヴァルダ。日本への本格的な供給に期待したい。
歴史が織り重なる土壌とスタイル
ソアーヴェの個性はその土壌と歴史が雄弁に物語っている。6000 万年前、地球上に霊長類が現われたころは海底にあったというのが丘陵地を含むソアーヴェであり、ミネラルが豊富な土壌はこのころに由来している。その歴史に育まれた類まれなソアーヴェの土壌は四つないし五つに大別され、同じソアーヴェとは思えないほどのバラエティを見せる。DOC、DOCG のエリアとともに土壌を把握するとソアーヴェは会話が広がる。エリアの北東部の丘陵地、主にスペリオーレとレチョートのDOCG、そして一部のDOC を産するエリアは黒い火山性土壌、玄武岩だ。その西側、アニョ川の対岸は同じく火山性土壌だが赤土で、これは玄武岩質の堆積物が酸化したものと言われている。このエリアは主にソアーヴェ・クラッシコの産地に当たる。そしてさらに西部、二つのDOCGと一部のDOC が造られる箇所では黄土色の石灰岩による層状の土壌が形成され、保水性は低いが土中の活性炭酸カルシウムは最も高い。そしておおむねソアーヴェDOC が造られる平地では保水性が程よく、水はけのよい白い石灰岩の土壌が広がる。そしてアニョ川流域は流水が運んだ石灰岩ではない沖積による土壌が構成されている。DOC、DOCG による規定と造り手の信条、そして土壌や気候により香りも味わいも異なるソアーヴェをかつての日本のワイン市場におけるイメージのまま画一的に見るのはあまりにも惜しいというものだ。
ONE SOAVE
ソアーヴェの歩みは地球の歩みだ
地球史レベルでの歴史的背景による土壌と気候、生産者ごとのワイン造りに込めた思いの掛け算により、ソアーヴェワインの多様化が飲み手に楽しみを提供している。その一方で、イタリア最大のワイン生産量を誇るヴェネト州を代表する産地としてのソアーヴェは方向性を一つに定め、これからの地球とワインのあり方のベンチマークたり得ようとしているのではないか。
ソアーヴェワイン保護協会の主導による循環型社会への対応はその大きなかじ取りの一つとして見ると実に分かりやすい。いわゆる有機栽培をはじめとする環境保全を前提としたブドウ栽培はその一部に過ぎず、生産者によっては生物多様性に言及した企業活動としてのワイン造りがすでに実践されている。産地の各所で土壌および水質の検査が継続的に行なわれ、ソアーヴェ・クラッシコのエリアに拠点を持つバレストゥリ・ヴァルダ(Balestri Valda)は1ha 当たりのブドウの収量を少なくすることを念頭に栽培するだけでなく、化学物質に反対し有機的なブドウ栽培の原則に従ってオリーブの木を育て、生態系との調和を重んじて養蜂を始めている。彼らが造り出す「ソアーヴェ・クラッシコ ヴィニェト・センジャルタ」(Vigneto Sengialta)には、蜂を模したラベルだけでなく香りや濃密で余韻の長い味わいにその思想が表われている。
コッフェレ(Azienda Agricola Coffele)は有機栽培、生物多様性、CO2 削減など多面的に地球環境と向き合ったワイナリーだ。約25ha でブドウを栽培し、ソアーヴェ・クラッシコ地域で最初に欧州のオーガニック認証を受けたワイナリーである。さらに敷地内では牛や馬、ヤギや羊を育てている。彼らは単に雑草を刈り取るだけでなく、農園内の立派な労働力にもなっている。そしてもちろん、コッフェレのワインがこの土地が育んだミネラルと豊かな酸による特筆すべきワインであることも伝える必要がある。
フィリッピ(Cantina Filippi)も彼らの土壌をワインに反映させることに長けたワイナリーだ。前述の玄武岩から石灰岩までそれぞれの畑に多様な土壌を持ち、土地のポテンシャルを見事に抽出したワイン造りがなされている。
キアーラさん(右)は、コッフェレの哲学を父(中央)から受け継ぎ世界に発信する。
フィリッピのワインは土壌による違いをこれでもかというほど分からせてくれる