別府温泉随一の規模を誇る杉乃井ホテルの経営者一族に生まれつつ、数奇な運命にあやつられ、今は旅館を中心とした企業再生プロデューサーをしていらっしゃるのが、今回ご紹介する渡辺氏である。現在は、旅館の全国組織である全旅連の経営改善アドバイザーも務める渡辺氏は、家業でもあった旅館の将来を憂い、日々各地を奔走している。旅館は、成長期を過ぎてからは、坂を転がり落ちるように減少し続けているのが現状である。その原因はさまざまなものが挙げられるが、渡辺氏はその主なものを、耐震補強が必要になったこと、人手不足、過剰債務、生産性向上の必要性、事業承継難であると指摘する。こうした多面的な重荷を背負った旅館の再生は、一般の企業再生とは異なるノウハウが必要とされることはいうまでもない。
大手都市銀行での経験と、自身が旅館を経営してきた経験とを車の両輪に、日本中の旅館を再生させるべく活躍する渡辺氏に、ご自身の半生や、今後の旅館の展望など、さまざまなお話をうかがった。
旅館の将来を憂う
徳江 先日の観光庁「観光産業革新検討会」では色々とお世話になりました。渡辺さんの現場感覚あふれるさまざまなご指摘には、私もうなずくことが多かったです。
渡辺 本当はもっと言いたいことも多かったんですが…さまざまなメンバーが集まったのは良かったのですが、その分、議論が拡散してしまったかなという気がしました。旅館やホテルでは、耐震補強、人手不足、過剰債務、生産性向上の必要性、事業承継難と、問題が山積しています。こうした問題点について、あるいは、収益を上げるためにどうすればいいか、といったことについて、もう少し突っ込んだ議論ができたら、なお良かったと思っています。
徳江 さすがのご指摘ですね。実際に再生案件を手がけていらっしゃる方ならではの生々しさが、言葉の端々からにじんでいます。
渡辺 実はつい最近も、小規模旅館の再生にメドがついたところなんです。どうしようもないくらい借金が貯まってしまった案件で、経営者の方もどうしていいか分からないような状況でした。ご相談いただいたのち、債権者との元本減額交渉から売上増大のためのさまざまな仕掛けまで、ありとあらゆることに関わらせてもらい、やっと道筋が見えた感じですね。
徳江 小規模な旅館は、地域経済活性化支援機構(編集部注:REVIC)の支援なども受けにくいですよね。
渡辺 そうなんですよ。大規模であればREVICさんの出番、となるのでしょうが、小規模な施設だとなかなか難しいんですよね。そういう「ニッチ」な案件こそ、私たちがやらねば!という想いを持っています。