東洋大学 国際観光学部 准教授 徳江 順一郎 氏
温泉家/Spring Labo LLC. CEO 北出 恭子 氏
「温泉家」という肩書きを持つ北出氏は、年間300 湯もの温泉に入り、温泉の魅力を伝えることを使命としている。一般には温泉というと、やはり旅館での入浴がまっさきに思い浮かぶが、北出氏がつかる温泉は旅館のものに留まらない。山奥を分け入って3 ~4 時間も歩いたところに湧く温泉や、川沿いの地面を掘って湧き出す温泉など、ありとあらゆる温泉を自身で経験して、その魅力を発信している。
ところで日本語には、needs(ニーズ)という概念がもともとなかったと考えられる。これは、「欠乏感」を示す単語だが、それが具現化したwants は「欲求」と訳されるのに対し、needs は今でも「ニーズ」とカタカナで表記される。このことから、もともとなかった概念であることがうかがえる。それは、なによりも人間にとって「欠」かせない水が、この国にはとても豊富だったところにあるのではないかと考えられる。われわれは、水だけでなく湯という自然の恵みにも、ありがたみを忘れてしまっているのかもしれない。そのありがたみを日々感じつつ、魅力を紹介し続ける北出氏に、この仕事をするようになった理由などさまざまにうかがった。
温泉の魅力
徳江 年間300もの温泉に入っていらっしゃるなんてすごいですね。でも、その美しいお肌はやはり温泉のたまものでしょうか(笑)。
北出 お褒めいただき、お恥ずかしい限りです。でも、冗談抜きで、温泉のおかげというのは大きいと思います。私が入っているのは、いわゆる「泉質」がとても素晴らしいところばかりなので、自然の恵みをたっぷりといただいています。
徳江 温泉のお湯というのは自然の恵みなんですよね。今の観光業者の中には、こういったことを忘れてしまっていると思わざるをえない存在もあるようですが。
北出 昭和の時代に巨大化した施設には、大勢のお客様に対応するために、どうしてもそうならざるをえない面もあったと思います。需要と供給のバランスが大切
ですね。逆に、温泉資源を保護するために必要な場合もあります。
徳江 ステレオタイプにとらえてはいけませんね。ところで、北出さんはどのような青春時代(笑)を過ごされましたか?