さまざまな料理人がいる中で、一人一人が持つ苦悩と挑戦の数々の物語がある。ホテル・レストランの総料理長が食の業界や若手の料理人に向けて伝えたいことは何か。これまでの長い経験の中で、どのようなことに悩み、どのようなことを考え、どのようにチームを創り上げてきたのか。インタビューを通じて後継者育成に向けた取り組み、マネジメント手法などを探るシリーズ「料理人の教育論」を隔週連載でお届けする。
京都ブライトンホテル
取締役統括総料理長
西稔史(にし・としふみ)
1958 年生。高校卒業後、料理人であった祖父と父親の影響を受け調理の世界へ。80 年 京都ロイヤルホテル入社。88 年 京都ブライトンホテルへ入社し、開業に携わる。13 年9 月 取締役総料理長、そして17 年4 月より取締役統括総料理長となり、現在に至る。2012 年 京都府優秀技能者「現代の名工」受賞、2014 年 厚生労働大臣表彰受賞の他、数々の受賞歴を持ち、(社)日本エスコフィエ協会正会員としても活動中。また17 年3 月より(公社)全日本司厨士協会京滋地方本部会長も務めている。
悩みを同じくするホテル業界
京都ブライトンホテルに見る取り組み
―今回は「料理人の教育論」ということで、文字通り教育に関わるお話をお聞かせください。
立場を同じくする方々と話をする際も、教育に対する悩みは尽きない話題の一つです。
これまで誌面に登場した方々が述べられたように、働き方、価値観、その他さまざまな変化を受け、これまでとは違った指導法が求められている時代だと私自身も感じています。そんな中にあって、自分たちが培ってきたものを大事にしつつ、どのように伝え、知識や技術を継承していくか。またその上で、自分たちのような管理職や導く立場の人間がどのように変わっていかなければならないのか。このような点を意識しながら、個々の生産性をいかに高めていけるかということに日々取り組んでいます。
―具体的にはどのようなことに取り組んでいらっしゃるのでしょうか。
まず管理の面では、以前からの衛生管理に対する取り組みに加え、ミリアルリゾートホテルズの傘下に入ったことで、「最高水準の安全・安心を提供する」という明確な目標が全員に共有されることになりました。その実現に向け、バックヤードの改修や調理の現場における勉強会などの導入を実施することで、「安全・安心」に対する意識がさらに高まったという経緯があります。また実施にあたり、ただ「環境がよくなりました」「学びの機会が増えました」というのではなく、「ESの向上によるCS の創造」という目的があることも、合わせて伝えるようにしています。
―仕組みの面ではいかがですか。
調理部門では、全店舗直営のメリットを活かした取り組みがあります。たとえば宴会調理をメインキッチンとし、所属店舗に関係なく和食や中国料理の盛り込みを行ないます。デザート部門も同様で、各店舗で提供しているものを、製菓の料理長監修のもと作業を行ないます。導入初年度はスムーズにいかなかった部分もありましたが、取り組みが軌道に乗り、勤怠実態の変化や料理提供の円滑化など少しずつ成果が見えるものになっていくと、スタッフの意識も柔軟になっていきました。
このように洋食・和食・中国料理の垣根を越えて、料理を提供できる環境作りには3 年ほど前から取り組んでいます。その成果としてチームワークが深まり、コミュニケーションの活性化によるスタッフ間の意識が向上し、ゲストへの思いが商品作りにも表れています。