さまざまな料理人がいる中で、一人一人が持つ苦悩と挑戦の数々の物語がある。ホテル・レストランの総料理長が食の業界や若手の料理人に向けて伝えたいことは何か。これまでの長い経験の中で、どのようなことに悩み、どのようなことを考え、どのようにチームを創り上げてきたのか。インタビューを通じて後継者育成に向けた取り組み、マネジメント手法などを探るシリーズ「料理人の教育論」を隔週連載でお届けする。
岸本 貴彦(きしもと· たかひこ)
1990 年3 月、辻調理技術研究所を卒業。(2期生) 卒業後、「神戸ポートピアホテル」に入社。製菓、宴会部門を経験し、レストラン「アラン・シャペル」にて長年勤務。宴会部門副料理長を経て、アラン・シャペル副料理長に就任。その後、フランス・ミヨネーにある「アラン・シャペル」で研修。帰国後、神戸「アラン・シャペル」の料理長に就任。再度、フランス「アラン・シャペル」で研修を重ねて、神戸「アラン・シャペル」料理長として活躍する。2009 年8 月、宴会部門ホットセクション料理長に就任。13 年12 月、調理部長総料理長に就任。現在に至る。
熱い想いを持った若手時代
待ち受けるさまざまな現実
―岸本総料理長は入社から今日まで、神戸ポートピアホテル一筋でいらっしゃいますね。
大阪の辻調理師専門学校を卒業後、以前ホテル内にあった名店「アランシャペル」で働きたいという想いを胸に新入社員として入社。以来多くの方に支えられながら、今年で29 年目を迎えました。宴会、レストラン、店舗開業準備など、さまざまな経験をさせていただき、3 年前に総料理長に就任し今日にいたります。
―大きな希望と熱い想いを持って入社されたわけですが、すぐにその夢は叶ったのですか。
残念ながら、新卒のスタッフが入れるような世界ではありませんでした。まずは宴会調理の製菓部門からスタートし、そこから冷菜などを担当するコールセクションへ異動。少しずつ経験を積む中で、当時の総料理長から声をかけていただき、数年かけて願いを叶えることができました。
―入社からすべてが順風満帆というわけではなかったのですね。
夢が叶ったあとでも、ずっと「アランシャペル」にいたわけではありません。震災の影響を受け、一時期レストランを離れたこともありましたし、「アランシャペル」で料理長を務めたあとで、再び宴会調理への異動を経験しています。若く一料理人の立場だったころは、異動に対する不満を感じることもありましたが、今の立場になって、ようやく上司の考えを知ることができたと言うか、自分にとって必要なステップであったのだと強く感じています。またその経験は、人財の育成に取り組むうえでも活かされていると感じています。