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第20回 公益社団法人国際観光施設協会編  観光施設メディアラボ 

第20回 ホテル客室木製扉 最新の「安心・安全」

【月刊HOTERES 2016年12月号】
2016年12月16日(金)
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公益社団法人国際観光施設協会 技術委員会・ホテル都市分科会、旅館観光地分科会委員
株式会社三菱地所設計 建築設計二部 部長
清水 聡

 
 ホテルを訪れて予約した部屋の前に立ち、客室のドアを開けるときにはいつでも「今日の部屋はどんな客室だろう」と期待が膨らみます。キーをかざしてドアを開け、部屋に一歩踏み入れると、もちろん部屋によって感想はさまざまですが、それでも自宅とは違った非日常を感じ、体験することができます。今回は、この部屋の中の話ではなく、廊下と客室とを隔てる「ドア」の紹介をします。
 
 宿泊されたお客さまがそれほど意識せずに使っているドアですが、お客さまが過ごす部屋の入り口ですから、ホテルのコンセプトやイメージに沿ったデザインである必要があります。ただ、それ以上にホテルのドアはゲストを守る「安心」と「安全」が必要になります。特に今回は高級ホテルなどに使われる木製ドアに焦点をあてて一枚のドアに詰まった最新の技術を紹介します。
 

■防火・遮炎
 客室のドアは建築基準法によって必要な防火・遮炎性能を備えています。写真①は遮炎性能評価試験の例です。ドアの片側からISO に規定される加熱を行ないます。加熱時間中に非加熱側に延焼しないことが必要になりますが、写真②の通り、既定時間加熱を行なっても非加熱側には炎が出ていません。試験終了時の写真③④を見ていただくと分かりやすいですが、加熱側は炎で真っ黒に炭化していますが、非加熱側にはほとんど影響がありません。また、写真⑤は試験時の炉内温度と扉の表面温度変化を表しています。木製扉は扉表面温度の上昇が少なく、加熱による扉の変形も少ないため、火災時の避難や救出を妨げません。木製ドア燃えないの? と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、防火設備として認定されたドアは火災時にも一定時間炎を噴出することはありません。
 

■防犯・セキュリティー
 近年のホテルのドアの鍵は磁気カードから非接触式IC カードに移行しつつあります。磁気カード(写真⑥)はカード単価が安く、カード紛失時などのランニングコストを抑えられますが、非接触式IC カード(写真⑦)は接触部を持たないため耐久性に優れており、何よりもカード情報の改ざんや複製が非常に困難なため安全性に優れています。さらに最新の技術では、お客さまのスマートフォンを非接触式のルームキーとして利用することも可能になってきています。
 盗難事例としてはドアの下部から治具を差し込み、内側からレバーハンドルを操作してドアを開けるような事例があります、これに対しては、ボタンを押しながらでないとレバーハンドルが回らないようなハンドルも製品化されています。
 

■遮音
 ゲストに快適に過ごしていただくためにもホテルの客室では一定の静粛さが求められます。外部騒音や隣室からの音、上下階からの音、設備機械からの音など、音源は多岐にわたりますが、廊下からの音を抑えるために客室ドアにも遮音性能が要求されます。ドアの遮音性能は遮音等級によって表示されます。音響透過損失試験の結果をもとにしてその性能はT-1 等級~ T-4 等級に判定・分類され、T-4 等級が最も遮音性能が高いドアということになります。従来ホテルのドアはT-1 等級が一般的でしたが、近年、高性能化の要求が増加しており、高級ホテルではT-2 等級のドアを、計画によってはT-3 等級のドアの採用する例も出てきています。
 
■バリアフリー
 ホテルを計画するにあたりバリアフリー化は重要なキーワードの一つです。一定規模以上のホテルでは、バリアフリー法や各自治体の条例によって車イス利用者用の客室を一定数以上整備することも必要になっています。客室のドアについては車イス利用に支障のないように有効幅が規定されていますが、一方で最新の商品では引き戸の防火設備ドアも開発されています。(写真⑧)引き戸は車イスでも利用しやすいことから弊社が設計に携わった「星のや東京」でも車イス利用者用客室のドアに採用しています。木製の引き戸ながら防火性能や遮音性能を有した高性能なドアです。
 
 今回の紹介は最新事例の一部になりますが、ホテルのドアは日々進化・高性能化しており、宿泊される皆様の「安心」と「安全」を守っています。
 

写真⑧
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