地域やブドウの多様性で見れば、イタリアワインは世界随一といえる存在だ。イタリア各地を巡り、ほとんどの原産地を知るイタリアワインのオーソリティ、内藤和雄氏に話を聞けば、イタリアワインの業態を問わない拡張性が見えてくる。
そのイタリアでティレニア海沿いの地形を生かし、国際的にも高い評価を受けるワインを数多く生産しているのが“ スーパータスカン” の産地、トスカーナ州のボルゲリだ。サンジョヴェーゼが主流のトスカーナで、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フランといったボルドーブレンドのフルボディタイプを特徴とするこの地における“ 3大ボルゲリ” の一角「グラッタマッコ」の魅力を解説してもらった。
イタリアワインの可能性 汎用的にも、コアな料理にも
ワインの多様性というのはイタリアに限った事ではないのですが、ブドウ品種の多さでいえばイタリアワインは特別な存在だと言えるでしょう。数あるワインのすべてが、多様な食文化や料理に適応するかといえば、もちろんそうではありません。ただ一般的に、国際品種の比率が高いワインは汎用性が高いと言えます。和食や中華とイタリアワインのようなセミナーを行なう時には、こうしたアイテムをセレクトします。イタリア系のブドウでも、例えばサンジョヴェーゼ、ガルガーネガやヴェルディッキオ、コルテーゼも汎用性があります。熟成したネッビオーロやサンジョヴェーゼと赤だしとの相性は恍惚とするぐらいです。ワカメやキノコ、サトイモなど、具材との親和性が高いですから。
土着品種の比率が高いワインを用いる場合には、マニアックな、イタリア大好きという人の心をくすぐるようなマリアージュが可能です。しかし、こうした“イタリア占有率” の高いワインに合うような地場の郷土料理の中にある、他国の料理や和食との共通項を探して合わせてみるのもワインの楽しみでしょう。汎用的なものにも、コアなところに特化したものにも呼応できるのがイタリアワインの魅力です。
すべてのボルゲリは グラッタマッコに通ず
ボルゲリという地域は、海に面した一面以外は丘に囲まれた半円形劇場のような隔離された地形です。トスカーナのほかの沿岸地域と違い、灼熱にならないがゆえに酸が形成されて、しかも粘土質の土壌による豊潤さがある、世界にここにしかない優位性を備えています。
グラッタマッコは、ボルゲリのワインでサッシカイアに次ぐ歴史のあるワイナリー。ボルゲリを語る上でサッシカイアに並ぶ重要な生産者であり、標高の高い場所にあるのはサッシカイアとグラッタマッコぐらいです。サッシカイア、オルネッライアの成功の間にグラッタマッコの存在があるのですが、日本では知られていないことには疑問を感じるほどです。
まだ原産地として無名のころ、ボルゲリで私が最初に訪ねたのがグラッタマッコでした。オーナーがメレッティ・カヴァラーリ夫妻のころに成功し、コッレマッサーリ社が所有している今でもワイン造りの哲学は受け継がれている、保全されているワイナリーです。
内藤和雄が語る、グラッタマッコとベストマリアージュ
グラッタマッコは、トスカーナ州ボルゲリを代表するワイン生産者。1977 年に創立され、海に面したカスタニェート・カルドゥッチとボルゲリの間で、海抜100m の丘に位置する。特に赤ワインの生産に向いた土地であり、乾燥した温暖な気候で、夏の終わりには昼夜の寒暖差が大きい。所有地50ha のうち25ha はブドウ畑、5ha はオリーブ畑で、残りの土地は森で1600ha の広大な森林と接している。
ブドウはコルドーネ・スペロナート、グイヨー、アルベレッロ仕立で、収量はヘクタールあたり6 ~ 7トン。収穫時には、畑でブドウは注意深く手作業で選別される。“ ティネッロ”と呼ばれる700L の台形のオークの発酵槽で、手作業でパンチングダウン(ピジャージュ)を繰り返し、長期マセラシオンを行なう。マロラクティック発酵は品種ごとにフレンチオークのバリックで自然に進む。12~18カ月熟成の後にブレンドし、約6 カ月瓶内熟成を行なって、グラッタマッコのワインは造り上げられる。
グラッタマッコは、イタリアのオーガニック認証機関、ICEA の認証を受けている。ただし、あえてラベルには記載はしていない。
“グラッタマッコ・ビアンコ” ボルゲリ・ヴェルメンティーノ 2014
Bottle #1
“グラッタマッコ・ビアンコ” ボルゲリ・ヴェルメンティーノ 2014
ブドウ品種:ヴェルメンティーノ100%
1986 年に植樹したボルゲリエリアで最も古いヴェルメンティーノの畑のブドウから造られる。2/3 をステンレスタンク、1/3 を木樽で醸造。頻繁にバトナージュを繰り返しながら、7 ヶ月熟成。 (参考価格5780円)
ボルゲリを代表する白。熟成の可能性も
ヴェルメンティーノ100%では最高品質のボルゲリの白。14 年は冷涼なヴィンテージで、色の成熟度もいつもより淡い。ボルゲリの特徴的なハチミツの香りは控えめ。青や黄色のリンゴ、グレープフルーツといった柑橘に、食べるには早めの洋ナシ、そして蜜蝋(プロポリス)の香りはヴェルメンティーノを象徴している。アカシアの香りなども伝わってくる。
味わいはやわらかくてみずみずしい。ほかのヴィンテージと比べると酸がやわらかくて豊富。ミネラル感やヴェルメンティーノらしさが伝わる苦みの余韻がある。殻付きのホタテやアワビの浜焼きなど、大きめの魚介類を豪快に食べたい。こぶ締めした魚、つぶ貝やたいら貝の握りなど、寿司との相性も良い。
鶏のささみやももなど、筋肉質な咀嚼して食べるタイプの肉と合わせると、このワインのスケール感を楽しめる。ウサギや鶏、豚のラグーも。
ボルゲリ・ロッソ2014
Bottle #2
ボルゲリ・ロッソ2014
ブドウ品種:カベルネ・ソーヴィニョン60%、カベルネ・フラン20%、メルロー10%、サンジョヴェーゼ10%
ティネッロとステンレスタンクを用いて発酵、バリックで10 ヶ月熟成。(同3910円)
女性グループにも勧めたい、ボルゲリの鑑
完成度の高さ、欠点がないワインというのはこれだというぐらいに優れている。赤には難しかったはずの14 年でも、フレッシュさもあり、ネガティブな要素がまったくない。
黒系の果実の香りが控えめで、すぐりやフランボワーズ、チェリーといった赤い果実の香り。赤い花のフレッシュさや、土のミネラル、そして樽によるバニラを感じる。華々しくないがおだやかで、安心できる香りだ。
口当たりがビロードのようになめらかで、おだやかな酸、キメの細かいタンニンも溶け込んでいる。イタリア料理ならアマトリチャーナのようなパスタ、サラミやレバーペーストに。汎用性、拡張性に優れており、鶏レバーの醤油煮、北京ダックにも良い。オイスターソースの料理にも合う。
女性のグループに提供したい柔らかさと優美さが特徴のワイン。バーやワインバーへのオンリストも勧めたい。
“ラルベレッロ“ボルゲリ・ロッソ・スペリオーレ2013
Bottle #3
“ラルベレッロ“ボルゲリ・ロッソ・スペリオーレ2013
ブドウ品種:カベルネ・ソーヴィニョン70%、カベルネ・フラン25%、プティ・ヴェルド5%
グラッタマッコの中でも特殊な畑で、セットンチェと呼ばれる植樹法によるアルベレッロ仕立て(株仕立て)で栽培。ティネッロで発酵の後、バリックで16 カ月熟成。(同8840円)
世界中でボルゲリにしかない優位性がこの中に
グラッタマッコがアルベレッロによるワイン造りをすることが、ボルゲリの中で一つのトピックスだ。
ファーストインパクトから勢いが感じられ、時間を追うごとに野生酵母の香りが顔を出してくる。野生酵母や下草の香り、13 年を特徴づける黒系の果実の熟れた感じに、樽のクリーミーさが続く。
可能性を秘めた、エッジの力強さもある色調。果実やミネラル感など、口に含んだ瞬間から一体感のある味わいが小宇宙のように口いっぱいにみなぎる。重みを求めるボルドー好きも、酸味もないとおいしくないというユーザーも納得させる。
あぶり焼、炭火焼にした牛肉や猪、煮込みにも合う。ハーブやスパイスが入ったソーセージ、仔牛のレバーを厚く切って炭火焼きにすると、グラッタマッコの果実感が心地よい。焼肉屋でカルビなどを焼いてもいい。
生き生きとした、とてつもなくエナジーを持ったワインだ。
“グラッタマッコ・ロッソ”ボルゲリ・ロッソ・スペリオーレ2013
Bottle #4
“グラッタマッコ・ロッソ”ボルゲリ・ロッソ・スペリオーレ2013
ブドウ品種:カベルネ・ソーヴィニョン65%、メルロー20%、サンジョヴェーゼ15%
ティネッロで自然発酵、やさしくパンチングダウンを繰り返しながら長期間マセラシオン。オーク樽で18 ヶ月熟成。(同10540円)
この1本を通らずして、ボルゲリは語れない
品種は違うがラルベレッロと比べて紫が強い。フレッシュさをしっかり持ち、しなやかで優雅な香りが楽しめる。カシス、ダークチェリーなどの太陽の恩恵を受けた熟れた果実のニュアンスに、粘土質の香り、スミレの香りもある。ボルゲリの暑い地域のイメージに対して、ワインはクール。ほかのボルゲリにはない酸があり、常にみずみずしくてフレッシュネスである。キメの細かなタンニンで余韻も穏やかだ。
汎用性が高く、レストランのクライマックスでこれが出てきたら幸せな気分だろう。牛フィレにフォアグラが載っていても納得できるし、鴨のカシスソースなどと想像が膨らむ。鴨やハトのベリーソース、四足の動物の赤身肉をゴルゴンゾーラソースでも楽しめる。食後にブルーチーズやハチミツを合わせて余韻をくつろぐのも良い。
グラッタマッコを知るには、これは飲んでおくべきワインだ。
お問い合わせ: モンテ物産 株式会社
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