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第12 回 公益社団法人国際観光施設協会編 観光施設メディアラボ 

第12 回  ホテルの安全・安心5:非構造材の耐震改修

【月刊HOTERES 2016年06月号】
2016年06月24日(金)
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清水建設株式会社 設計本部
商業・複合施設設計部 グループ長
見角 基一郎氏

建築物の総合的な耐震性能の確保
 
 建物の耐震性にかかわる法規制や設計基準は、大きな震災被害を経験するたび、より高い安全性を確保するため強化されてきました。その対象は建物の構造体のみならず、外装材や開口部、天井や各種間仕切り壁等の内装(非構造材)や、昇降機、設備機器および配管等(建築設備)にも及んでいます。今回は非構造材である内装の耐震性能の確保について紹介します。
 
内装の耐震性確保の重要性
 
 過去の地震災害では、建物の構造が地震に耐えても、天井の落下、間仕切り壁の倒壊等、内装の被害が多数報告されています。構造体が安全でも建築非構造材の耐震性が確保されていないと、施設利用者の安全安心を脅かすほか、甚大な被害による建物の使用不能、過大な復旧作業による営業再開の遅れにつながります(図1)。
 
 特にロビーや宴会場といった天井が高く、面積が広い部屋の天井・シャンデリア・大型の可動式間仕切り壁、ガラス製防煙垂れ壁等は地震時の揺れが増幅されて大きな力が働き、落下や倒壊の危険性が高いと考えられています。また、多数の人が集まるこれらの部屋では、落下・倒壊物によるけがなどの直接的な被害に加え、避難経路を塞ぐなどの二次的な被害の影響も大きく、耐震性能の確保は急務となっています。

図1:地震被害による天井落下の事例(出典:左・中:日本建築学会 非構造材の安全性評価および落下
事故防止に関する特別調査委員会報告書「天井等の非構造材の落下事故防止ガイドライン」,右:国交省 「建築物における天井脱落対策試案」に関するご意見募集について 参考資料)

天井の耐震改修
 
 天井改修計画の一般的なフロー(図2)を踏まえ、先にあげたロビー、宴会場における耐震改修の手順について紹介します。
 
 国交省では平成26 年4 月に、天井高さが6m 超かつ面積が200㎡を超える規模の天井を「特定天井」とし、同天井の耐震性能にかかわる法基準を定めており、図3 に例示したように、天井を構成する部材の接合部の強度や耐震ブレースの配置などが規定されました。よって、この法改正以前に竣工した建物では、当該の天井が、規定に適合しているかの調査・確認が必要となり、これに基づき耐震性を確保するための具体的な改修案を検討する必要があります。
 
 検討された複数の改修案(図4)を、工期、工事費、既設営業への影響、火気の不使用、騒音の発生、資機材・施工従事者の動線確保等の観点から多角的に評価し、最適な改修案を選定します。
 
 営業しながらの改修工事では、営業への影響を最小化するため、工事段階を複数に分けて計画するなど、施工の手順やロジスティクスを踏まえた高度の設計技術が求められます。
 
建築物の総合的な耐震性能の
確保に向けて
 
 建築物の地震に対する安全性の向上を促進するため、平成25 年に耐震改修促進法が改正されました。
 
「ホテル・旅館」は不特定多数の者が利用する大規模な建築物として耐震診断を実施し、その結果を所管行政庁に報告することが義務付けられ、これに伴い耐震診断や耐震改修に対する補助金交付等の耐震化支援策が整備されるなど構造躯体の耐震改修が強力に推進されています。
 
 こうした流れに加え、天井や間仕切り壁等の非構造材や建築設備を加えた建築物の総合的な耐震性能を診断・評価し、適切な改修を実施することが今後一層求められると考えます。まずは専門技術者にご相談いただき、総合的な耐震性能調査を行ない、適切な耐震改修計画を検討することが重要です。また改修工事による既設営業への影響を極力抑え、機会損失を最小にし、省エネやバリアフリー化などの関連工事をまとめるなど合理的な施工計画に対する検討も重要です。
 
 お客さまと従業員の安全安心を確保し、永く愛される「ホテル・旅館」であり続けるために。


図4:天井改修計画のメニューの例

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