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第九回 オンリーワンの宿づくり  第九回 「月ケ瀬温泉 雲風々(うふふ)」

露天風呂付き客室とリバービュー・ダイニングにこだわった珠玉の宿

【月刊HOTERES 2016年03月号】
2016年03月18日(金)
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テラスにモミジの木がたたずむ「栬楓(せいふう)」の客室(47.16㎡)。和室(7.5 帖)、ベッドルーム、内湯、そしてテラスには源泉かけ流し露天風呂という構成

倒産や廃業で軒数が減り続ける旅館業界の中にも、きらりと輝く個性を持ち、まっとうな経営を行なっている宿がある。本連載は、旅館総合研究所の重松所長が、自身の目で優れた宿を厳選し、取材し、写真と文章で紹介する連載企画。第九回は、伊豆・月ヶ瀬温泉「雲風々」。ここは、「東京ラスク」の代表である大川吉美社長が地元のために創設したスモールラグジュアリー旅館。大川社長がこだわったのは露天風呂付き客室と、狩野川を見下ろすダイニング。抜群のセンスと個性があふれる珠玉の宿である。

自然なほほ笑みを添えて熟達したおもてなしを提供する雲風々のスタッフ。右から2 人目が女将の丹羽ゆかりさん
伊勢海老をさばく高村真料理長


竹林に囲まれた客室「笹音」のベッドルーム。竹や笹をイメージした壁や、笹の葉のオブジェがしつらえてある

 中伊豆、修善寺から狩野川沿いをさらに10㎞南下したところに、ひっそりとたたずむ宿があった。表通りからは、それが高級旅館であることは分からない。けれど小路を抜けて門をくぐると一気に別世界の空気が流れている……、「雲風々」は、そんな隠れ家的スモールラグジュアリー旅館だった。
 
 名前の由来は、芭蕉の「奥の細道」の一節、「予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず……」から命名されたという。雲を眺め、風を感じ、空を見て、ふらりと旅に出て、温泉に浸かり、伊豆の料理を味わい、想いのままに時をめでながら過ごしてほしい。そんな想いが込められている。

「栬楓(せいふう)」の露天風呂。源泉かけ流しのため、毎日必ず一回お湯を抜き、新しいお湯を溜める
チェックイン手続きは客室で行なわれる。供される茶菓子は当然「東京ラスク」製の和ラスク
客室とメイン棟をつなぐ石畳の回廊
狩野川を見下ろす「リバービュー・ダイニング」。吹き抜けの大開口を前に、全長15m、奥行き75㎝のカウンターが圧巻だ

 経営は、「選択と集中」である。どこにこだわるか、そして、こだわったポイントを定めた後は、そこに注力する。雲風々がこだわったのは露天風呂付きの客室とダイニングの二つ。
 

 だから館内は、潔いほどに小ぢんまりとしている。のれんをくぐると石畳の回廊が通っていて、七つある客室と、ラウンジとダイニングのあるメイン棟をつないでいる。施設はそれだけ。よって、お客さまが過ごす場所は客室かダイニングということになる。

グラスも、オリジナルの江戸切子を使用している。カウンターは、板前の目線とお客さまの目線が同じ高さになるように設計されている
客室のサイン

 だからこそ、だろう。雲風々の客室とダイニングはセンスにあふれ、品のある空気が流れ、極上の時間を過ごすことができる空間になっている。
 
 七つの客室には、すべてテーマが決まっている。狩野川の流れを絵画のように楽しめる「流清」、野鳥のさえずりを堪能するのをコンセプトにした「鶯鳴」、竹林に覆われた「笹音」、テラスデッキの中央にモミジの木がたたずむ「栬楓」、月を見上げ、夜の静けさの中に響く音を感じる「月響」、夕焼けの茜色の空と金木犀の香りを楽しむ「茜香」、専用デッキから蛍が舞う小川を見る「蛍火」。ほとんどの客室が42 ~ 60㎡と、決して広々とした印象はないものの、テーマやコンセプトが明確に伝わって来る魅力あふれる空間になっている。

 狩野川を見下ろす「リバービュー・ダイニング」は、吹き抜けの大開口を前に、全長15m、奥行き75㎝のカウンターが横たわり、いすが16 脚並んでいる。お客さまは、林の先に、暮れ行く川面を眺めながら、眼の前で調理する伊豆の幸を堪能するのである。
 
 雲風々を愛するお客さまは、これだけで十分。なぜなら、ふらりと旅に出て、雲を眺め、風を感じ、空を見て、温泉に浸かりながら、料理とお酒に酔いしれて、想いのままに時をめでながら過ごせればそれでいいのだから。

雲風々は、「東京ラスク」の創業社長である大川吉美氏がプロデュースした宿。地元からの「貴重な源泉を守ってほしい」という要望を受け、「地元のためになにか貢献したい」という想いで開業した

 このほか、本誌では「伊豆・月ヶ瀬温泉 雲風々」の開業から尽力している㈱グランバー東京ラスク 取締役社長室の田中早知子室長インタビューと旅館総合研究所所長の重松正弥氏の分析が掲載されています。詳細は本誌をお買い上げいただくか、電子版にご登録ください。
 
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