飛騨グルメを代表する食材である飛騨牛に、旬の食材と郷土料理を組み合わせた彩の美しい料理の数々は、旅の思い出に口福と眼福を加えてくれる。そして、これらの料理が‟動“の要素となり、森林の郷で過ごす‟静”の時間に華やかさを演出してくれる
本連載Vol.128では、木工文化が息づく「界 奥飛騨」の魅力についてお伝えしたが、本稿では地元の豊かな自然と食文化を感じる食事に焦点を当てたい。筆者が地方の旅館に宿泊する際、料理に対して期待することの一つは、その美味しさであるが、もう一つ重要なのは、郷土料理を通じて地元で受け継がれてきた食文化を知ることだ。今回、同施設を紹介するにあたり、施設と食事を分けて紹介したのには理由がある。それは、「界 奥飛騨」の料理が、季節を変えて足を運びたくなるような美味しさを持っており、郷土料理が洗練され、見せ方にセンスを感じるものだったからだ。
ディナーの際、お客さまはまず先付けと共に設えられた‟代情(よせ)山彦人形“に迎えられる。これは昭和の初めに飛騨の文化人・代情山彦氏が山霊の分霊として象り、開運・魔除けのお守りとして作ったものだ。乗鞍岳、槍ヶ岳、笠ヶ岳、焼竹と飛騨山脈の山を表現した人形は現存するものが少なく、食事が始まる前から希少な飛騨文化の一端に触れることができる
弊誌の特性上、郷土料理との触れ合いは取材のみならず、地域や地方創生における相談の場面も少なくない。筆者自身、日本観光における戦略的な視点から、各地域が持つ食文化をいかに魅力的に見せるかという点は、観光コンテンツにおいて重要な要素だと考えている。そのため、外食の際は、その味わいを楽しむだけでなく、商品開発の視点から見ることも多い。そういった意味で日本各地に点在する郷土食の文化は、世界に向けた魅力発信においても大きなポテンシャルを持っている。日本の郷土料理が持つ深い歴史や地域ごとの特色は、食の多様性を強調する上でも注目されつつある。食材の品質の高さや発酵などの調理法の独自性、そして文化的背景が、グローバルな市場での需要に応える可能性も秘めている。その一方で、侘び寂びといった陰の要素を持つ料理が多く、その見た目の地味さが高揚感やシズル感を感じさせることを妨げ、魅力の訴求における障壁となっている面がある。
今回、「界 奥飛騨」で出会った料理には、その課題に対するひとつの答えを見たように思う。そこには、陰の要素や地味さを不自然な華美さでアレンジすることなく、料理人が食文化を深く理解した上で導き出されたであろう‟思い切りのよい“引き算、そしてその上に加えられた和食ならではの華やかさが絶妙なバランスで際立っていた。さらに、従来の郷土料理が持つ素朴さを保ちつつも、洗練されたスタイルやハレの日の食事としてのデザイン性が感じられ、他の季節であればどんな料理を創り出すのだろうか? 他の食文化であればどのように向き合うのだろうか? と、好奇心を刺激するセンスも光っていた。
前稿でも触れた通り、同地は個人的にも四季折々訪れてみたい場所だ。料理がその魅力のひとつであることは言うまでもない。ぜひ、「界 奥飛騨」
「界 奥飛騨」
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiokuhida/
「奥飛騨の木工文化に触れる宿、『界 奥飛騨』の魅力」
https://www.hoteresonline.com/articles/14001










担当:毛利愼 ✉mohri@ohtapub.co.jp