五感を駆使してお客さま情報を入手し第六感で「なんとなく」を掬い上げる
甲斐 リピート率を上げるために、どのようなことが求められますか。
阿部 お客さま情報を入手するために必要なのは、DXや AIではなく、「人」の力だと思っています。「カハラ横浜の武器は人です」という言葉も、開業前からぶれずに言い続けています。
機械にはない、人にしか持ち得ないのは「感じる力」です。お客さまから情報を入手するためにコミュニケーションを取ることは当然として、どんな服や時計を身に着けているか、どんな鞄を持ち、どんな香水を纏っているか、そしてどんな内容の話をしているか、そういった情報を五感を駆使して入手する必要があります。さらに第六感を使って、なんとなく感じる部分も掬い上げることも求められます。
甲斐 先程、情報を入手、管理、活用するとおっしゃいましたが、具体的にはどのように行なっているのでしょう?
阿部 管理ですが、お客さま情報の中にはパソコンに打ち込むのが難しいものもあります。フリーハンドで描いた絵や写真でしか伝えられない情報もたくさんあるのです。打ち込まれたデジタルな情報とともに、アナログな情報もお客さまごとにクリアファイルに入れておくという、病院のカルテのような管理方法が必要なのです。
情報の活用については、スタッフに「小さな Wow(ワオ)を提供してください」と伝えています。お客さまがホテルの館内で過ごす時間の中に、たくさんの小さな Wowを感じていただけるようなサービスを用意するのです。お客さまの第六感に訴えかける小さな Wowを積み重ねることで「なんとなく居心地がいい空間」が生まれ、その記憶がリピートにつながる形です。
甲斐 阿部さんはコンシェルジュ出身の総支配人でいらっしゃいますよね。そのキャリアが人のサービスによってリピート率を上げるカルチャーの背景にあるのでしょうか。
阿部 コンシェルジュという典型的なスペシャリストの道を歩んできた私が、マネジメントのトップである総支配人に就任したときに思ったのは、諸先輩方が創り上げた総支配人像を踏襲する必要も、総支配人の一般的なやり方をイメージする必要も場合によってはないということでした。
私にとっての独自の総支配人像があっていいはずですし、逆に言えばそれを崩してしまえば、私が総支配人を務める意味はなくなります。コンシェルジュとして現場にいた人間だからこそできることに着手すべきだと考えて、自分なりの総支配人のやり方で一歩前に踏み出しました。