訪日外国人旅行者数2000 万人の高みを目指し、堅調にインバウンドを伸ばす中、今こそパラダイムシフトが必要だと話すのは、2015 年6 月に国際観光施設協会の会長に就任した㈱観光企画設計社の代表取締役社長 鈴木裕氏だ。観光立国として世界に打って出るために今、考えるべきことについて忌憚のないご意見をいただいた。
聞き手・本誌 村上実/構成 長谷川耕平/撮影 KOUMEI /文 アクセント
モノからコトへ
コトはIT すなわちIoT
村上 2020 年には訪日外国人旅行者数を2000 万人にするという目標を政府が掲げていますが、2020 年を待たずして達成できそうな勢いです。さらにインバウンドを増やすために今、日本がなすべき施策とは何なのでしょうか。
鈴木 急務を要するのは観光インフラの充実を図ることだと思います。観光インフラの施策も「モノ」から「コト」へシフトするべきですね。これからの「コト」はインターネットを利用して情報発信することになると思います。(IoT Internet of Things= モノではなくコトのインターネット)まずは都市のパブリック空間でのフリーWi-Fi を国がイニシアチブをとって整備するべきでしょう。言葉が通じにくいという課題もフリーWi-Fi を使って通訳ソフトでコミュニケーションが取ることでとても便利になりますから。日本は観光の面ではまだまだ発展途上国だと思います。世界には観光先進国がたくさんありますから、その成功事例を研究して日本風にアレンジしていけば数年で肩を並べられるようになるのではないでしょうか。
村上 日本が観光発展途上国というのは、そのとおりだと思います。2 年前のIMF 総会が日本で開催されたとき、政府は都内指定ホテルのフリーWi-Fi導入に補助金を導入しましたが、普及という面でそれほど加速されていない感がありますね。このほか観光大国の条件をどのようにお考えですか。
鈴木 観光大国になる条件とは「気候」、「自然」、「伝統」、「食事」、「安全性」の良さがあることではないでしょうか。安全については、災害は回避できませんが、その他の上記の条件を日本は満たしています。日本は亜熱帯から亜寒帯に渡る温帯モンスーン気候で四季に恵まれた美しい自然を有しています。そしてその自然に育まれた山海の珍味と料理、2000 年に渡る伝統資源と1 万年以上の遺跡資源もあります。アジア各地の他人種とのハイブリッドである日本人が持つ忍耐、努力、寛容、実直、協調性という気質もアピールできるところです。
安全性を見ると、ヨーロッパや中東は、昨今テロのリスクがあり観光産業に大打撃を与えています。一方、日本の弱点は災害大国であること。世界の地震の約6 割は日本で起こっているとも言われるほどですから。しかし、それを逆手にとってフリーWi-Fi などを活用し、何か起こったときに避難情報を完璧に誘導できるシステムを構築してはどうでしょうか。被災しても安全に避難できるということがセールスポイントにもなるのです。
こうした日本の持つ特性を理解して世界に発信することで観光大国への道が開け、観光立国としての日本が醸成されていくのではないでしょうか。