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【味わいの原風景を探して】三郎丸蒸留所:晩秋(背景編)

2023年12月09日(土)
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上部に描かれているタロットのアルカナが印象的
上部に描かれているタロットのアルカナが印象的

一杯のお酒には、浮かび上がる風景や情景がある。記憶の中にあるもの、はたまたそうではないもの。グラスに浮かぶ憧憬はどこから生まれるのだろうか。シリーズ「味わいの原風景を探して」では、心に浮かぶ味わいが生まれる景色をお伝えしていきます。第二回は、三郎丸蒸留所で、【背景編(本記事)】と【考察編】の二つの構成でお送りします。
 

【砺波に想いを馳せて】
忘れられない旅がある。昔、雪深い季節に城端から井波を通り、閑乗寺公園を抜けて五箇山へと旅をした。
 
「城端は機の声の町なり。寺々は本堂の扉を開き、聽聞の男女傘を連ね、市に立ちて甘藷の苗売る者多し。麻の暖簾京めきたり」(柳田國男, 秋風帖 「木曽より五箇山へ」より)
 
城端駅前に飾られた碑に浮かぶ情景を背に、木彫りの町井波に行くと門前町の雰囲気を残す町並みに宗教の色が感じられた。閑乗寺公園から見渡す砺波平野は教科書にある散居村という言葉以上に人々の暮らしを想わせてくれ、深山幽谷にある五箇山は雪が音を包む得も言われぬ景色に、雪を踏みしめる歩みの音だけが寂しく響いた。後ろ髪を引かれるように旅立ったのは、後にも先にもこの旅しかないだろう。
 
砺波の情景には、人の暮らしが色濃く反映されているように感じる。その一つ一つの景観が、街並みが、人の営みと自然とのあり方を語り掛けてくるように思う。冬が近くなると、どうしてもそのことを思い出す。
 
2023年11月、久方ぶりに砺波を訪れる機会に恵まれた。晩秋の頃、冷え込む気温とは裏腹にはやる気持ちが高くなる。再びこの地を訪れる際にどうしても行ってみたいところがあった。それが三郎丸蒸留所だ。
 
三郎丸蒸留所を訪れたい理由は大きく二つある。一つは地域創生としてのウイスキー蒸留所という点、もう一つは、個社を超えた活動により業界の活性化に取り組んでいる点に可能性を感じるからだ。この10年近くの間に全国各地で勃興している蒸留所は多くあるが、産業としての国産ウイスキーを鑑みる上で、三郎丸蒸留所の活動は今後の業界にとって鍵になると感じている。本背景編では、三郎丸蒸留所の紹介を含め、味わいのヒントを探って行きつつ、続く考察編では、テリトーリオの視点から三郎丸蒸留所の活動を俯瞰してみたい。


【歴史に見られる精神性:挑戦とレジリエンス】

エントランスから見た大正蔵
エントランスから見た大正蔵

三郎丸蒸留所は若鶴酒造が母体となっている。三郎丸蒸留所が取り組む様々な新しい試みには、若鶴酒造の歴史が脈々と受け継がれているように感じられる。同社50周年の際に発行された『風雪50年』(若鶴酒造株式会社, 1963)を基にその歴史を辿ってみたい。

「若鶴」というお酒は、文久二年(1862)に越中三日市(現, 黒部市)の久次郎という人が加賀藩の免許を得て酒造りを始めたのが濫觴に当たる。その後明治二十年(1887)に礪波郡油田村(現, 砺波市三郎丸)の大地主で中越銀行発起人の一人でもある桜井宗一郎氏の一族が継承し(砺波市立砺波郷土資料館 編, 2009)、現在の本社工場の一隅で酒造を行っていた。明治四十三年(1910)、酒販業を営み砺波全域に販売をしていた初代稲垣小太郎氏が権利を譲り受けた。
 
稲垣氏が酒造業を始めた明治から大正にかけては酒類業界においても変革期であった。日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦と日本を取り巻く情勢も刻々と変化する中、新川酒問屋を中心とした流通網も、酒造業者の直営店設立や醤油産業に洋酒缶詰産業といった異業種からの参入が相次ぎ変化がもたらされた時代であった(二宮, 2016)。
 
砺波でも明治前期を代表する工業的産物として酒と麻布があった。酒造家は七軒あったが、明治十年代の前半、松方内閣のデフレ政策の影響に加え、造石税引き上げを受け相次いで廃業の憂目にあった(砺波市史編纂委員会, 1984)。
 
稲垣氏が引き継いだ当初の造石高は三百石であったが、酒造経験が浅く、設備不全も重なり酒造りは苦しい状況に立たされた。
 
「私たち父子が酒造の第一歩をふみだした明治四十三年は、右の業界不振期の中でも最も下降線をたどった年でありました。そういう悪い環境に加えて、私たちは清酒醸造の知識や経験が全然りませんでしたので創業当初の苦労は言語に絶するものがありました。」
(若鶴酒造 編(1968)『風雪五十年』 pp.3より)
 
その後、醸造技術や設備の改善と業界の小康状態が重なり販売が好転していくようになる。長男の彦太郎(二代目稲垣小太郎)氏が灘や伏見へと出向いて現地研修をした成果を反映したこともあり、大正五年には造石高は千二百石あまりにまで伸び、大正七年(1918)には若鶴酒造株式会社の設立に至った。大正十四年に初代稲垣小太郎氏が亡くなった後、兄弟三人が力を合わせ会社の礎を築いていった。
 

日本酒には欠かせない水。庄川の清冽な水を用いている
日本酒には欠かせない水。庄川の清冽な水を用いている

昭和二年(1927)の昭和金融恐慌の際には創業来の苦難に遭遇するも、良酒廉価をモットーに社員一丸となって危機を乗り越えただけでなく、更なる品質向上を目指し、巨額の投資を行って深井戸を掘削した。
 

「それではいったい何が若鶴をこんなに急展させたのか。その原因は一にかかって品質の向上と生産原価の切下に精根を傾注したからに外なりません。私が灘や伏見の先進酒造郷をつぶさに視察した時、結局良酒は良水からうまれることを感得したのであります。大正年代まで砺波の人家は川水を飲料とし、どこの酒造場も川水を濾して酒造用水としていたのですが、これでは良い酒は造れぬと思いまして、当社は昭和二年の不況のさなかに巨費を投じ、東京の日本鑿和泉株式会社に依頼して、地下水を汲み上げるための深井戸をほったのであります。」
(若鶴酒造 編(1968)『風雪五十年』 pp.7~8より)

飽くなき品質向上への投資が功を奏し、清酒品評会においても最優等賞を獲得するなど名声も上がり、昭和十年頃には造石高は五千石を超えるようになった。市場性を機敏に捉え、東京から東海、遠くは樺太までその販路開拓を行い大きく成長をするが、第二次世界大戦の勃発と共にそうした販売網も霧散霧消してしまう。
 
戦争が終結した後、昭和二十二年(1947)には造石高は六百二十五石まで減った。この局面を打開するために二代目稲垣小太郎が目を付けたのは「米以外の原料」を用いた蒸留酒であった。ここに三郎丸蒸留所の源流がある。同年に若鶴醗酵研究所を設立、統制外であった菊芋を城端町郊外の立野ヶ原という丘陵地帯で栽培し、アルコール製造の研究を始めた。
 
昭和二十四年(1949)に焼酎の免許を取得、翌昭和二十五年(1950)には雑酒の製造免許、昭和二十七年(1952)にはウイスキーと甘未果実酒の製造免許を取得し、多角的な経営を開始する準備が整った。同年10月、初のウイスキー発売にあたり地元から名称を募集し、2000通余りの応募の中から「サンシャインウイスキー」の名が選ばれた。「戦争の中ですべてを失った日本で水と空気と太陽光線からできる蒸留酒によってふたたび日をのぼらせよう」という思いが込められての命名であった。
 
蒸留酒の販売へと本格稼働し始めた矢先、またも試練に見舞われる。昭和二十八年(1953)5月11日の夜半、蒸留所から出火。工場、食堂、会館、研究室、寮、原料倉庫、延6棟、約635坪を全焼することとなった。そんな失意の底にある若鶴醸造を支えたのが、地元の人々であった。
 
「然るに好事魔多しとでも申しましょうか、昭和二十八年五月十一日夜半、アルコール製造工場から火を発し、延約一千坪の建物を全焼するという災厄に遭遇したのであります。多年拮据運営し来った諸設備を一朝にして烏有に帰し、従業員一同の悲嘆は測り知れないものがありましたが、私はこれも天の試練であると思いまして、部下を叱咤激励して率先再帰復興に渾身の努力をいたしました。幸いに半歳ならずして再建に成功し、十月末頃から始まる酒造期に間に合わせることができまして、ホッとした次第であります。なお罹災直後、工場所在地の油田村では農繁期にも拘わらず連日数百名の村人が焼跡の整理に労力を奉仕して下さいました義挙に対しましては、末永く社史にとどめて深く感謝申し上げたいとおもうものであります。」
(若鶴酒造 編(1968)『風雪五十年』 pp.15~16より)
 
こうして地元の力を借りて復興を成し遂げる。その後も投資を重ね、昭和三十四年(1954)には昭和蔵を新設し、それまで蔵を任されていた新潟杜氏に加えて、新たに南部杜氏を採用することで二つの地域の杜氏が酒造りで切磋琢磨し、品質向上に磨きをかけて行った。
 
平成二十八年(2016)に五代目となる現代表取締役最高経営責任者である稲垣貴彦氏が戻ったのをきっかけに、「三郎丸蒸留所改修プロジェクト」がスタート。クラウドファンディングに挑戦し、2500万円の目標額をはるかに超える463名から3825万5000円という大きな支援を受けるに至った。翌平成二十九年(2017)に改修され新しい蒸溜所として生まれ変わった。
 
若鶴酒造の歴史を辿ると「転禍為福」や「旱天慈雨」という言葉が見えてくるように思う。苦難に苛まれても挫けずに挑戦して道を拓く姿勢や、人々に支えられ、共に歩んでいく姿が見えてくる。この後紹介する蒸留器制作を含む様々な新しい挑戦も、クラウドファンディングや業界全体を鑑みた活動なども、そうした精神の表れとも捉えられるのではないかと思う。三郎丸蒸留所には、若鶴酒造が育んできた飽くなき挑戦とレジリエンス、そして他者と共に歩むという精神が受け継がれていると感じる。
 

伝統と革新を感じさせてくれる佇まいの大正蔵
伝統と革新を感じさせてくれる佇まいの大正蔵
大正蔵の中はリノベーションされ、多目的スペースが用意されている
大正蔵の中はリノベーションされ、多目的スペースが用意されている


【人の営みが育むお酒】
少し歴史部分が長くなったが、これは三郎丸蒸留所を知る上で欠かせない部分だと考える。上記の精神性を知った上で稲垣貴彦氏が取り組む様々な活動を捉えると、単なる近年出来た蒸留所という位置づけではなく、ウイスキー造りにおけるオーセンティシティ(歴史の源流)があり、かつ業界においてのレジティマシー(事業の正当性)という面でも違いがあることが理解できるからだ。
 
三郎丸蒸留所についての記事は多くのメディアで紹介がなされているが、中でも次の二つに触れたい。①鋳物製銅錫合金単式蒸留器「ZEMON(ゼモン)」、②富山県産ミズナラ樽「三四郎樽」だ。これら二つは、環境がモノを言うウイスキー業界において、人の「営み」が色濃く反映されており、【考察編】で説明するテリトーリオ資源としても注目に値するからだ。
 
まず、①鋳物製銅錫合金単式蒸留器「ZEMON(ゼモン)」についてだが、特筆すべきは、高岡で育まれた銅器をはじめとする鋳物産業の粋が形となっていることだ。高岡銅器は、伝統的工芸品産業の振興に関する法律のもと指定がなされており(経済産業省, 2023)、1611 年に前田利長が7名の鋳物師を高岡に招いたことに端を発し、以降400年以上に渡り日本の銅鋳物製品を支えている。
 
高岡の技術の粋を用いた世界初の鋳造製ポットスチル「ZEMON」には鋳物ならではの特性が付与されている。従来のポットスチルと違い、青銅(銅と錫の合金)により肉厚に造られるため、スチル寿命が飛躍的に伸びただけでなく、エネルギー効率の改善にも成功している。叩いて伸ばす従来のスチルとはことなり、鋳造で形作られるスチルは表面に砂型による凸凹が生じるためスピリッツとの接触面積が増え、スピリッツの酒質にも影響を与える。また、モジュラー型にすることで、規模に応じた容量に対応が可能となっている。
 

鋳物製銅錫合金単式蒸留器「ZEMON(ゼモン)」
鋳物製銅錫合金単式蒸留器「ZEMON(ゼモン)」
鋳型と銅製の比較。奥が鋳型によるもので、手前の銅と比べても重厚感がある
鋳型と銅製の比較。奥が鋳型によるもので、手前の銅と比べても重厚感がある


後述するが、実際に試飲をすると、スチルの形状から想像するよりもとてもフルーティーさを感じるニューポットになっている。勿論これには、蒸溜器の特性だけでなく発酵による影響もある。三宅製作所製の最新式マッシュタンに加えて、特徴的な木桶の発酵層による乳酸発酵も見逃せない。また、用いる酵母にもこだわりを感じ、従来の乾燥酵母ではなく、プレス酵母を用いて発酵を行っている。原料にも一部富山産のものを用いる試みも始めており、三郎丸蒸留所でしか出せない味わいというのがニューポットの時点で感じられる。
 

昔活用していたマッシュタンも展示されている
昔活用していたマッシュタンも展示されている
最新式のマッシュタン。側面にも伝統産業を感じさせてくれる工夫がある
最新式のマッシュタン。側面にも伝統産業を感じさせてくれる工夫がある
縦長で特徴的な木桶発酵槽
縦長で特徴的な木桶発酵槽

 
次に、②富山県産ミズナラ樽「三四郎樽」についてだが、こちらは井波の産業ならではの取り組みといえる。富山県南砺市井波地区は、瑞泉寺再建に端を発する宮大工の彫刻技術が受け継がれる地域だ。先の高岡銅器同様、井波彫刻も伝統的工芸品産業の振興に関する法律で指定されている。「三四郎樽」はこうした木工産業に携わるスペシャリストと共に日本の樽生産産業を活性化する取り組みでもある。
 
井波という伝統産業の地があったことも重要だが、他にも要因がある。1980年代末以降、全国各地で発生している「ナラ枯れ」の問題だ。木材活用の循環が損なわれると、山は荒廃の一途をたどる。こうしたコモンズとしての森林資源の問題は近年議論がなされているが(例えば、金澤・中井, 2014)、三郎丸蒸留所では、地元で林業を営む島田木材と木工職人の山﨑工務店との共同開発によりこの課題に取り組むようになった。井波彫刻の祖である前川三四郎にちなんだ「三四郎樽工房」では、鏡板部分にミズナラを用いた樽の製造販売だけでなく、ホッグスヘッドへの組み立て直しや修理も行っている。
 
実は、井波の技術は樽だけでなく蒸留所を見守る木彫りにも見られる。ビールやウイスキーの蒸留所では、穀物を用いて酒類を生産する。原料となる大麦を狙う鼠などから原料を守る目的も兼ねて猫が飼われてきた歴史がある。三郎丸蒸留所の原料貯蔵庫の柱の上には、ウイスキーキャットの代わりに猫の木彫りが置かれている。地元の産業との関りが感じられる蒸留所の見どころの一つだ。
 

三四郎樽。下のQRコードで樽別に管理を行っている
三四郎樽。下のQRコードで樽別に管理を行っている
原料貯蔵庫を見守る猫の木彫り。地域資源を感じさせてくれる
原料貯蔵庫を見守る猫の木彫り。地域資源を感じさせてくれる


他にも、稲垣氏はモルトヤマの下野孔明氏と一緒にジャパニーズウイスキーボトラーズ事業「T&T TOYAMA」行っている。「T&T TOYAMA」の熟成庫は井波にあり、CLT(直⾏集成材)を活用した設計が行われている。CLTとはCross Laminated Timberの略称で、ラミナ(挽き板)を繊維方向が直交するように重ねて接着した材料を指し、断熱性や調湿性に優れ、中大規模木造建築への活用が期待されている(山口・武田, 2019)。様々な原酒を同じ環境で熟成させたらどうなるのか?という問いに答えられる面白さがある。
 
こうして少し見ても、三郎丸蒸留所の活動には「地域の営み」「人の営み」が多く組み合わされていることが窺える。地域創生の文脈でも、地域資源を主体的に活用していくことが求められており、経済的な効果だけでなく、文化的な側面からも重要な意味を持つ。稲垣氏が「富山でしかつくれないウイスキー」を掲げているが、原料から生産、熟成のいずれにおいてもそのことを感じることができる。
 

富山県産のモルト
富山県産のモルト
飽くなき探求が伺える。飲み手としても蒸留所の進化が楽しめる
飽くなき探求が伺える。飲み手としても蒸留所の進化が楽しめる


【味わい】
そうした富山らしさが反映された三郎丸蒸留所のポートフォリオは、1952年に発売されて地ウイスキーとして愛される「サンシャインウイスキー」をはじめとして、蒸留所を代表するシングルモルト「三郎丸」、ブレンデッドの「玉兎」や「十年明」などがある。
 

今回は蒸留所見学の際に試飲させて頂いた「十年明」「玉兎」「ニューポット2023秋蒸留」「三郎丸Ⅱ THE HIGH PRIESTESS」の四つについてコメントをしたい。

三郎丸蒸留所のウイスキーは「サンシャインウイスキー」と「十年明」を飲んだことがあったが、蒸留所が掲げる「The Ultimate Peat(ピートを極める)」がどのような方向性を指すのかが分からなかった。今回の蒸留所見学で、それが何を指し、どのようなスタイルを目指しているのかがより明確になった。それが如実に表れているのが、「ニューポット2023秋蒸留」と「三郎丸Ⅱ THE HIGH PRIESTESS」だ。味わいを紐解くポイントは、「60年代のアイラ」だ。

まず「十年明」だが、蒸留所の名前にある「三郎丸」同様「十年明」も地名だ。砺波駅から砺波市役所の横を通り油田に向かうと十年明に行きつく。ラベルに書かれた説明によれば、この地はかつて明かりを灯すための油を採る菜の花畑が広がっていたようだ。その灯のように、人々の心を優しく照らしたいという願いを込めて名付けられている。
 

十年明 Noir
十年明 Noir

「十年明 Noir」は、三郎丸蒸留所で蒸留されたモルトとスコットランド産のグレーンウイスキーなど輸入原酒を用いてブレンドがされている。グレーン中心の味わいの中にほんのりとピートのニュアンスが香る。潮のニュアンスや燻したような香りが心地よい。名前の印象もあり、灯のような温かさを感じる。味わいは軽いが、やや高めのアルコール感と共にピート由来の味わいが広がり、後半にかけてシリアル感とフルーティーさを感じる。
 

「玉兎」はピートに限らないモルトで、シェリー樽やワイン樽といった樽の影響が色濃く出ている。色合いは深いゴールド。樽由来の甘い香り、ドライフルーツのようなニュアンス、メイプルシロップや樹液のような印象を受ける。味わいはドライで口当たりが柔らかく、フラワリーでフローラルなトーンが穏やかに香る。モルト感やシリアル感の後、後半に近づくとわずかにフルーティーさが感じられる。
 

ニューポット2023秋蒸留
ニューポット2023秋蒸留

「ニューポット2023秋蒸留」は、季節の表記がなされている点が好印象だ。スチルの形からもう少し重いニュアンスのあるスピリッツを予想していたが、個性が出ており目指す方向性が分かる味わいがある。香りには、少しアグリコールラムを想わせるようなニュアンスと潮のニュアンスを感じる。ピートは思いのほか穏やかさがあり、モルト感とグラッシーさが印象的に香る。

口に含むと、印象的なピートのあと、グラッシーさと大麦のもみ殻のようなクリスプなニュアンスがあり、甘さと共にアルコールのピリッとしたニュアンスがある。中盤に非常にフルーティーな香りが一瞬スパイクする。このフルーティーさには、桃やアプリコットといったストーンフルーツのニュアンスを感じる。アルコールの暖かさと共にモルトやシリアル感が続き、アフターに近づくにつれてフローラル感とピートが心地よく感じられる。
 
「三郎丸Ⅱ THE HIGH PRIESTESS」はタロットシリーズと呼ばれるシリーズの一つだ。2017年から造られており、人間の精神の発展を表すタロットのアルカナが冠されている。2020年発売「三郎丸0 THE FOOL」、2021年発売「三郎丸ⅠTHE MAGICIAN」に続く第三弾のウイスキーであり、「ZEMON(ゼモン)」で蒸留した原酒が商品化された初のシングルモルトでもある。
 
ミディアムゴールドの色合い。香り高く、ピートのニュアンス、フルーティーさを感じる。スモーキーな香りの奥に、淡い桃やアプリコットのような香り、僅かにモルト感を感じる。口に含むとフルーティーさとソーピーなニュアンスを感じる。そのバランスがとても良く心地よい。モルト由来のフレーバーインテンシティと樽由来のそれがとてもバランスよく感じられ、そこに寄り添うようなピートが非常に印象的ながら洗練された味わいを感じさせてくれる。
 
三郎丸Ⅱとニューポットには、20年ほど前に飲んで感動した60年代のアイラを彷彿とさせてくれるような桃やアプリコットを想わせるフルーティーさがある。「The Ultimate Peat(ピートを極める)」というフレーズからピートドミナントな味わいかと思いきや、そこには発酵や蒸留、そして熟成による影響が反映された味わいになっており、今後の原酒の成長が楽しみである。
 
【ミクロ・メゾ・マクロなお酒】
三郎丸蒸留所の歴史を振り返りながらウイスキーを手に取ってみると、そこには家族や地域というローカリティ―がありながら、砺波や富山という地域の資源が統合された姿もあり、唯一無二のジャパニーズウイスキーとしてのグローバルプレゼンスも併せ持つことが窺える。
 
この10年の間に日本のウイスキー産業は大きく変わろうとしてきた。様々なプレイヤーが参入し、活性化の様相を呈している一方、産業としての規模や規格といった点に関しては、まだまだ歴々の産地と比べると課題を抱えている点も多い。そうした課題に対しても、稲垣氏は積極的に活動を行っている。
 
また、酒類に限らず商品のストーリーや背景が求められる今日、その源流や精神性という点を見ても、三郎丸蒸留所にはオーセンティシティとオリジナリティーを感じることができる。個人的にも、20年近く前に飲んだピアレスのボウモアを想わせるような、あの桃のようなフルーティーさを日本のモルトで感じられたことはとても感動的であった。
 
三郎丸蒸留所の活動は、地域という視点からみても、地域創生の文脈で非常に重要な役割を果たしている。これについては、続く【考察編】でもう少し深堀をしつつ見ていきたいが、ウイスキー蒸留所の限らず、地域に根差した活動を行う酒類企業は学べることが多くあるように思う。
 

大正蔵を入ってすぐに掲げられており、若鶴酒造の伝統が感じられる
大正蔵を入ってすぐに掲げられており、若鶴酒造の伝統が感じられる

​三郎丸蒸留所を訪れて感じたのは、「若鶴酒造が育んできた飽くなき挑戦とレジリエンス、そして他者と共に歩むという精神が受け継がれている」ということだ。どんな事業でも思いがけない成功や失敗、苦難というものがある。また、ウイスキーとは自然との対話で生まれるという面が強調される中、三郎丸蒸留所ではそれだけでなく、人の営みが育む面というのを如実に感じさせてくれる。

地域が育み、地域から世界に羽ばたくウイスキーとして、三郎丸蒸留所の未来に期待をしつつ【背景編】の括りとしたい。
 
この後は、別記事にて三郎丸蒸留所が取り組む活動をテリトーリオの視点で考察する【考察編】をお送りしたい。

【考察編】はこちら

 
【参考文献】
柳田國男(1989)『柳田國男全集2』ちくま文庫
若鶴酒造 編(1968)『風雪五十年』
砺波市立砺波郷土資料館 編(2009)『旧中越銀行本館の百年展』
二宮麻里(2016)『酒類流通システムのダイナミズム』有斐閣
砺波市史編纂委員会(1984)『砺波市史』国書刊行会
経済産業省(2023)『国が指定した伝統的工芸品241品目(2023年10月26日時点)』
金澤悠介・中井豊(2014)「特集 コモンズ問題の現代的展開」『理論と方法』29巻2号, pp. 237-239.
山口 温, 武田 仁(2019)『直交集成板(CLT)を用いた木造公共建築の温熱環境と地域別適用可能性』日本建築学会環境系論文集, 84巻, 762号, p. 739-748

担当:小川

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