COFFEE STYLE UCC株式会社は、暮らしの中で自分を大切にするひととき、人生を彩る一杯をコンセプトとした「Life Designing Coffee(ライフデザイニングコーヒー)」を提案している。
2023年10月27日(金)より同社が展開するブランド「CAFE@HOME」の中でもフードペアリングに焦点を当てた「Food with Coffee」が刷新された。小売市場が新しい経験価値を提案していく中、ホテル業界はどのようにそれを活かすべきなのかという視点でレポートしたい。
【ニューノーマルを超えて】
COFFEE STYLE UCCはUCCの子会社として20~30代女性をターゲットにブランドを展開している。メインブランドである「CAFE@HOME(カフェアットホーム)」では3つの展開がなされており、フードペアリングに焦点を当てた「Food with Coffee」、暮らしの中のさまざまなシーンに合わせる「Life with」、心が動く瞬間に寄り添う「Heart with」がある。
COFFEE STYLE UCC社長の棚橋 信仁氏
小売市場でも大きな存在感のある大手メーカーだからこそ、次の市場の中核を担う顧客への取り組みは大きな意味を持つ。コロナ禍では消費者行動にも様々な変化が見られた。健康面に限らず、自身のライフスタイルやライフステージへの内省や変容が見られており、企業はそうした状況を鑑みた戦略を立てなおす必要に迫られている。
「CAFE@HOME」では、洋服やコスメを選ぶように、コーヒーもその日の気分や一緒に食べるものに合わせて楽しんで欲しいというコンセプトで商品が展開されている。その時々にピッタリの1杯を楽しむために、独自の「フレッシュキューブ」製法で1杯分が真空パックされている。
今回の刷新では市場調査の結果を踏まえ、より具体的なシーンに沿った味覚の設計が行われている。補完や同調と言った、ソムリエの方々が普段行うようなペアリングのポイントをより分かりやすく表現し、自分へのご褒美を更に上質に変える工夫がなされている。
特に味わいに関しては、UCCが持つ特許技術である「UCCフードマッチングシステム」と、コーヒーのプロフェッショナルであるUCCコーヒーアカデミー講師の技術と知識を駆使している。科学的な分析診断だけでなく、ブランドターゲットである女性が好みやすい味わいへとプロによるアジャストがなされている。
揃えてみたくなるパッケージが印象的
また視覚的にも合わせる食材のイメージカラーとコーヒーの色を掛け合わせることでフードペアリングを連想できる工夫がなされている。日常の生活シーンに溶け込むようなシンプルで飽きの来ないデザインがなされている。また、ギフトとしても活用できるようなアソートメントが出来るのも見逃せないポイントだ。
【試飲してみて】
今回刷新され、より具体的なペアリングが楽しめる6種類を少しずつ紹介していきたい。「Food with Coffee」は甘いものとのペアリングを想定したSweetsと、パンと言った食事と合わせるのを想定したGourmetの2タイプが存在する。
CAFE@HOME with Chocolate Sweets
チョコレートを使用したスイーツとの相性が考えられたコーヒー。程よい苦味とコクがあり、やや穏やかな酸味がチョコレートの重厚感と相まって全体をリッチに感じさてくれる。驚いたのは、ガトーショコラに隠されたフルーツのアクセントがとても映えたことだ。コーヒーと合わせることで濃厚なチョコ感に覆われていた部分がより感じやすくなっており、コーヒーのアフターとスイーツのアフターがとてもマッチしていた。
CAFE@HOME with Cheese Sweets
チーズケーキなどチーズを用いたスイーツとの相性が考えられたコーヒー。苦味、酸味、甘さのバランスがとてもよくなる組み合わせで、チーズケーキ単体で食べるよりも全体のバランスが良くなっていた。合わせることで、アフターにチーズケーキの香りと甘さが広がり、一口が長く楽しめると感じた。
CAFE@HOME with Fruit Sweets
フルーツタルトやフルーツパウンドケーキといったフルーツを活用するスイーツとの相性が考えられたコーヒー。フルーツのジューシーな印象を引き立たせるペアリングで、コクよりも酸を基調としたみずみずしさとクリアな味わいが楽しめる。クリスマスと言ったこれからの時期にも重宝する印象だ。
CAFE@HOME with Wagashi
羊羹やきんつばと言った和菓子との相性が考えられたコーヒー。一緒に合わせている時には感じなかったのだが、後で比較試飲をした際に思ったのがほうじ茶のようなコーヒーだということだ。香ばしさがとても印象的で、濃すぎないコクと穏やかな酸味がある。和菓子の濃厚な甘さを包みながら引き締めてくれる。
CAFE@HOME with Milk
牛乳と一緒に楽しむコーヒーで、牛乳を加えることで味わいに立体感が出ている。酸味は穏やかながら、ほろ苦さと程よいコクがあり牛乳の中でとてもよくコーヒーが映えている印象を受ける。
CAFE@HOME with Bread
パンと楽しむことを考えられたコーヒーで、良い意味で中庸さがあり、バランスが良くパンの素材を引き立ててくれる味わい。シンプルなパンだけでなく、チョコクロワッサンと言ったものの味わいもはっきりと感じることができる。
上記は説明を受けて、味を取りながらのコメントではあるが、シンプルに素材が楽しめるペアリングの設計がなされていることがよく感じられた。一口にコーヒーと言っても、こうした楽しみ方が出来るとなると、普段のペアリングも楽しみになってくるであろうと感じた。バウンダリースパナ―ではないが、より多くのソムリエがこうした商品開発やペアリングを意識したブレンド開発など積極的に取り組んでみて欲しいという思いも強くなった。
【小売りの体験が刷新されるとき】
普段の生活で用いるものや食べるものが刷新される際、ホテルやレストランのようなサービスを提供する側もその変化には気を配る必要があるのではないだろうか。今回「Food with Coffee」の刷新で感じたのは、ホテルやレストランを利用する消費者側の経験が多様化しているということである。完全なパーソナライズではないが、ある程度の自由度の中で、自分に合わせて選んで楽しめる工夫がなされている。日常で自分のスタイルに合わせた消費を行っていくと、画一的な飲み物を味気なく感じてくる可能性もあるのではないだろうか。
そうしたことが当たり前になってくると、消費者側がホテルやレストランを利用した際に、今までのような体験であったり価値を感じることが難しくなってくる可能性もある。最近でこそ食後のコーヒーでデカフェが用意されるようになったが、コーヒーを食後の気分で細かく変えて対応するまでには至っていない。もちろん選択肢が多ければよいというものでもない。
自宅で体験できるものが上質さを帯び、選択肢が多様になってくると、外での食事に求めるものも変わってくるだろう。より自宅ではできないものへと変化して来た際、多様な経験を持つ顧客に対してどのような提案を行っていくべきなのか。そうした顧客とのインタラクションこそサービスの醍醐味であり、ある程度の逸脱が許容されていなくては顧客の期待を超える感動をつくり出していくことが難しくなる。小売での体験刷新に触れるからこそ、サービスとしての新しい可能性が生まれてくることもあるのではないだろうか。
実際にCOFFEE STYLE UCCの店舗を視察した際にも、フランス語を話す女性二人が手に取り可愛いパッケージとそれがコーヒーであることに驚いていた。日本の小売市場には、こうした様々な刺激があり、常に多様な刺激の中で行動や指向の変容が生まれている。訪日観光客の目からすれば、様々なものが新鮮に目に映るだろう。そうした仕掛けから学ぶことも必要だと感じる。
社会的な変動という大きな再帰性の問題ではないが、サービスを提供する側だけでなく、サービスを受ける側も日々進化している。一度COFFEE STYLE UCCの「CAFE@HOME」を手に取ってみて欲しい。コミュニケーションや提供したい体験といった学びが多くあると思う。それを糧に、新しいサービスの形が生まれ、小売用と業務用の好循環が生まれることを期待したい。
【参考文献】
小具 龍史, 熊谷 信司, COVID-19の影響を考慮した新しい消費者セグメンテーションに関する探索的研究, 消費者行動研究
池尾 恭一, 新型コロナ危機による流通チャネル変革と戦略課題, マーケティングジャーナル, 2021-2022, 41 巻, 1 号, p. 6-15
シーナ・アイエンガー, 選択の科学, 文藝春秋, 2010
担当:小川