ログイン
検索
  • TOP  > 
  • 記事一覧  > 
  • 離職を止め、リピーター獲得を実現するゲストエクスペリエンスの活用を
トータル・エンゲージメント・グループ代表 池田 順一氏

離職を止め、リピーター獲得を実現するゲストエクスペリエンスの活用を

2023年01月16日(月)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ホテル業界にとってリピートゲストの獲得、そして深刻化するスタッフ離職に歯止めをかけることは重要だ。
その両方に効果的なソリューションとなるのが「お客さま体験(ゲストエクスペリエンス)」であると語るのは株式会社トータル・エンゲージメント・グループの代表である池田順一氏だ。本稿では池田氏が支援を実施した企業の実例などをもとにお客さま体験の重要性、効果を寄稿していただいた。


私は株式会社トータル・エンゲージメント・グループ代表をしている池田と言います。本題に入る前に少し自己紹介を兼ねて、なぜお客さま体験(ゲストエクスペリエンス)事業を始めたかをお伝えします。この事業を始めたのは2010年になりますが、以前はIT✕マーケティングを行なっており、多くの企業の集客や販促支援をインターネットを用いて行なっておりました。その時に、新規客は増やせるが常連客への対応が全くできていないことや、新規客で現場が疲弊していくさまを見て、エンゲージメントの大事さに気が付きました。お客さまとの関係を良くして、従業員もハッピーになるエンゲージメントをテーマにした事業を始め、現在は、小売・流通・金融などで100社以上1万店舗を超える企業の顧客体験活動を支援させていただいております。今回、宿泊業界様にとって、特に従業員の定着と常連客化のお役に立てると思っております。

宿泊業界の懸念

長かったコロナ禍も落ち着き始め、インバウンド制限解除や全国旅行支援などのお陰で、観光地などにもお客さまが戻ってきています。個人的な話を先に少しさせていただくと、私は現在浅草に住んでおります。仲見世にも人の以前の賑わいが戻り始めており、飲食店も宿泊施設も人の出入りが多くなってきており嬉しい次第です。

しかし、追い風の観光業の影響を受ける宿泊事業が以前のように回復することに、私は2点懸念を感じています。

1つ目の懸念は人の行動様式は以前のようには戻らないということ。コロナ禍以前のビジネスシーンでは、リモートで打合せなどを行うことは非常にまれでした。しかし、コロナ禍でリモートなどが一般化することにより、以前の当たり前のようにフェイス2フェィスで会うことが常識ではなくなりました。リモートという手段もかなり日常的に浸透してきています。以前だと無意識に行くことを選択していたこともリモートでも可能と考えるようになってきました。このことは体験価値の重要性を意識し始めていることになります。

2つ目の懸念は観光業での従事者の離職率の高さに歯止めがかからないことです。

以下の図は観光庁令和4年の離職率の数字です。離職率は全産業に比べて1.2倍以上高い数字になっています。
 

※離職率=(本月中の減少÷前調査機感末)×100で算出
※離職率=(本月中の減少÷前調査機感末)×100で算出


どんなに需要が増えても、働き手の従業員を確保できなければサービス提供が出来ません。そのためこれまでの経営者としての投資の優先順位を設備などから、人材に変えなければ事業継続が出来ません。先日、大学で観光業を教えている方とお話をした際に、卒業後の就職先で宿泊・観光を選ぶ人が減っているとのことです。入ってくる人が減り、離れる人が増えている状況では非常に厳しいことになると言わざるを得ません。

このような2点の懸念から、いかに利用者の体験価値を高めるのかと、働いている方の離職を止めて、魅力的な職場に変えていけるかが今後の事業成長にとっては不可欠ではないでしょうか。この2点は表裏一体の関係です。
このヒントをお話したいと思います。

お客さまの声が聞こえていない

お客さまとの会話はとても大切です。日頃の仕事を振り返ってみると、必ずしもお客さまの本音を聞けていないのではないでしょうか。

これまでよくお越しになっていたお客さまが、急に来られなくなった。なんとなく以前に比べて予約が減っている。データではなく、肌感でも感じられていることも多いのではないでしょうか。以前なら「自分の意に沿わない接客をされた」「電話対応がよくなかった」「料理がホームページの写真などと全然違った」など、こういった不満についてお話してくださるお客さまもいらっしゃいました。今は確実に減少しました。

こういったお客さまの声はどこに行ってしまったのでしょうか? ここには深刻な問題が潜んでいます。サイレントクレーマーといって、不満を持ったお客さまは、相手に伝えることなく二度と来ていただけません。最近ではそれだけではなく、お客さまの心の内にしまわれていた“嫌な体験”は、いまでは予約サイトなどの評価欄に書き込むようになりました。これとは反対に、“とても良かった体験”もSNSなどで拡散されることもあります。お客さま側は期待を下回ることには厳しく、少し上回っただけでは評価してくれなくなりました。

また、このようなお客さまの行動に脅威を感じる方も多いのですが、実はここには大きなチャンスが隠れています。対面では本音を話してくれなくなったお客さまも、きちんとしたパイプを用意すれば多くのお話をしてくれるのです。そのパイプは“スマートフォン”です。スマートフォンと文字入力を使ったコミュニケーションは、誰とでも安全かつ自分の話したいことをきちんと伝えられる手段なのです。

当社でお客さまの声を収集し、分析するシステムを提供しております。スマートフォンでのアンケート回答などでは、紙のアンケートより高い回収率です。スタッフの方がお客さまにどのようなタイミングでなんとお声がけされるかで回収率は大きく変わります。記入いただく内容もフリーアンサーなどでは、かなり詳細のコメントをいただけます。お客さまは、依頼のされ方によっては答えをしっかりと返してくれます。

個人的には年間60日程度は出張などで、各地のお宿さまを利用させていただきます。部屋置きのお客さまアンケートを実施されている会社は多いのではと思います。そこで感じるのは、この聞き方で何を聞きたいのか、何が改善できるのかのわからないようなものがあると違和感を感じました。アンケートがオペレーション改善に生かされなければお客さまの時間を無駄にしてしまうことになります。アンケートはお客さまの声をいただき、それを活かした活動を行うことで価値が出てきます。そのためにもしっかりと自分たちの改善したいポイント、喜んでいただけるか確認したいポイントを盛り込んだ設問設計が大切になります。

そしてお客さまの声を聞くという行為は、お客さまが望んでいることに対して、創意工夫をし、行動することで初めて喜んでもらえることで、全社的に浸透することになります。お客さまの声を聞き、従業員育成や職場環境に投資を行えていた企業は、現場からボトムアップでお客さまの常連客化やファン化を行え、持続成長出来る状態になります。

是非、この機会にお客さまの声を聞き、全社で活かすことを始められてはいかがでしょうか。実際の取り組みをご紹介します。

お客さま体験はものすごい武器になる

今回、「旅色」などのメディアで宿泊施設のご支援をされているブランジスタさまから、ビジネスホテルとリゾートホテルをご紹介いただき、お客さまの声を用いた実証実験を行いました。

この実証実験は、3回のワークショップと2回のお客さま調査を行なうものでした。

 

簡単にお伝えすると、1回目のワークショップで、お客さま体験の重要性や指標、ツールの見方などをお伝えします。その後早速お客さま調査を行ないます。2回目のワークショップは、調査結果に基づいて強み弱みを抽出し、改善活動への落し込みです。実際に翌日から全員で改善活動に取組み、数週間立ったところで、2回目のお客さま調査を実施しました。そして最後のワークショップで結果を振返ります。今回の両施設ともに結果は良好で、改善活動によりお客さま評価は高まりました。ちなみに私どもはこの一年間で250施設(宿泊・小売・飲食など)を行なっていますが、一施設も下回ったことはありません。

両施設とも、これまでも客室備え付けのアンケートを行なっていたのですが、記入式ということもあり、せっかくいただいたものは改善活用に至っておりませんでした。これまでと大きく違うことはアンケートの依頼自体も、お客さま体験と位置づけてスタッフの方に意識してもらい、設問自体も改善活動を見据えたものに設計しました。アンケート実施中も、回収数や回答結果を現場の方がリアルタイムに見てもらえるツールを使っていただきました。

数値化の際にはNPSを利用いただきました。NPS以外にもいくつかの指標はありますが、NPSは非常に使いやすく一般化しているのでお勧めです。NPSを高めるには推奨者を増やすか、批判者を減らすしかありません。今回は現場のモチベーションを高める狙いもありましたので、推奨者を増やすことに注力をおいた改善活動に集中しました。

NPSとは

NPSは、アンケートを通じてお客さまロイヤルティやお客さまエンゲージメントの強さを端的に表す「お客さまロイヤルティ指標」 「お客さまエンゲージメント指標」を測ります。再購をしたり、口コミで紹介するなどの応援行動をお客さまがする可能性を探ります。お客さまの友人・知人に対する「推奨意向」が、回答結果から数値で算出できるのです。


アンケートでは、0~10の11段階で推奨意向を聞きます。0は低く、数字が大きくなるにつれ高くなり、10がもっとも推奨度合いが高いということになります。0~6を選んだ人は批判者、7~8は中立者、9~10は推奨者となります。
NPSの数値が高い、もしくは上昇するということは、お客さまに対して優れた製品やサービスを提供している、また様々なタッチポイントにおいて好ましいお客さま体験を提供できていることの証となります。

「推奨者」は自らがファンであり、自分が良いと思ったものは人には勧めたいという行動を起こします。その結果として売り上げの向上につながるのです。NPSが業績と相関がある数値であるといわれる所以です。

今回の実証実験では、両施設でNPSは向上し、お客さま体験として改善が見られる結果になりました。短期的な売上改善などは計測できませんでしたが、口コミ・レビューなどへのポジティブなフィードバックを確認出来ました。また、お客さまのコメントから、宿泊体験としては以前よりも良い結果になったのではと考えております。

ビジネスホテル
回収数 84票→99票 ⇗ NPS 11.9→14.2  ⇗

リゾートホテル
回収数 33票→8票(団体客宿泊のため集票できず) NPS −42.4→−25 ⇗
また、実際の細かい分析画面は以下になりますが、横軸は満足度、縦軸はNPSへの影響度になっており、右上が強み、左上が改善ポイントです。実際に一回目のものを見ていただき、改善テーマを決め取組んだ上で、2回目の調査を行った結果になります。

課題であった「スタッフ挨拶」「スタッフ対応」「食事」に関しては、顧客評価は高まりました。
 

今回実施をした二施設の方からも、現場のモチベーションが高まった、現場が元気になったと言葉をいただきました。推奨者のコメントには、スタッフへの感謝が綴られることが多くあります。この言葉は現場スタッフのモチベーションを高めることに直接つながり、仕事へのやりがいにもなります。

そして何よりも、大きな効果は実証実験に携わった施設スタッフ全員から、今回の取り組みに関して非常にポジティブな意見をいただきました。「元気になりました」「もっと喜んでもらえるように工夫します」「仕事が楽しくなりました」など、こちらが聞いていても、嬉しくなるような内容でした。

適切なタイミングで気持ちの良いお声がけをし、答えやすい内容のアンケートをお願いすると、お客さまからものすごく貴重は声をいただけることになります。さらにお客さまの声の中に、現場への賞賛がありますと、現場スタッフにとっては非常に嬉しいご褒美になります。

当社では宿泊施設以外の小売・サービス・飲食業などでの実績から、活動がしっかりと浸透できれば成果は確実にあげられると考えております。

離職率低下が企業存続には必須事項になる

先の事例からも、施設側は中々お客さまの声が聞こえておりません。特に現場は日々の忙しさのため、なかなかお客さまの本当の声に接することが出来ません。これを実証実験のように、お客さまの声を日常的にリアルタイムで聞けるようにすることと、その声を活かして改善活動を行うということは非常に重要です。特にお客さまに喜んでもらうことを意識した活動を行なうことにより、結果現場のスタッフが褒められる機会が増えます。この事により現場から創意工夫されたアイデアが作り出されてきます。このことにより下図にもありますように、お客さまの声を活かす活動は、売上側だけではなく、従業員エンゲージメントを高める効果もあります。特にお客さまの喜びの声の威力は、外部の私達が思う以上に現場へのインパクトは大きくあります。このような活動を定着させるためにも、『調査→仮説→改善→調査』を行うことが非常に重要になります。
 
ある小売事業者では離職率が30%だったところ、翌期には10%以下になりました。また別の事業者では、お客さまNPSの向上(20→40)とともに従業員NPS(−8→14)も高まり、業績にもインパクトがでました。顧客体験の活動を通して、離職率が悪くなってしまったことは、私どものお取り引き先様では一件もありません。

 


これからのサービス業はすべてホスピタリティ事業に

この結果からも、お客さまの声を活かした現場改善は、ボトムアップの経営改善になり現場からの創意工夫が生まれる土壌を作ることが出来ます。

どんなDXなどのシステムを導入したとしても、働いている人が楽しく働けていない環境は持続成長出来ません。特に今後は優秀な人材の取り合いになっていきます。これからはいかに働いている人たちに、ポジティブに現場から創意工夫が生まれてくるような環境を作れるかが非常に重要になってきます。

当社のデータでは年間数千店舗・施設のデータを見ています。そこでは、推奨者の方のコメントには施設や食事以上に、スタッフの方の対応や心遣いなどが書き込まれることが非常に多いです。施設は食事は事前期待に対してある程度満足を計算できますが、人としての対応は非常に体験価値に高い影響を与えます。

これまでの宿泊業界は、泊まるための施設を提供することから、食事の提供、快適な睡眠や寛げる空間などに付加価値をつけることに重きを置かれてきたと思います。勿論、これらのことは大切ですが、これからの体験価値が重視される社会では、人による対応は再認識されるべきでしょう。
そして、これからの本質はお客さま体験価値を高める活動により、従業員の方がお客さまから称賛される機会を増やし、仕事へのやりがいを感じて貰える機会をつくることこそ、経営者・マネジャーの大切な仕事になるのではないでしょうか。

是非、宿泊施設さまごとのホスピタリティで、お客さまにとって素晴らしい体験価値を感じてもらい、持続成長していただければと思います。
 

トータル・エンゲージメント・グループ
https://total-engagement.jp/

 

月刊HOTERES[ホテレス]最新号
2024年11月15日号
2024年11月15日号
本体6,600円(税込)
【特集】本誌独自調査 総売上高から見た日本のベスト100ホテル
【TOP RUNNER】
フォーシーズンズホテル大阪 総支配人 アレスター・マカルパイ…

■業界人必読ニュース

■アクセスランキング

  • 昨日
  • 1週間
  • 1ヶ月
CLOSE