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日本ホテル特別顧問統括名誉総料理長 中村勝宏氏が SDGsと食品ロス削減への取り組みについて講演。個人個人が力になり、とにかくやってみることに意義がある

2022年08月08日(月)
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日本ホテルは7月4日、食品ロス削減に対する同社の取り組みを、社内研修会として、また同時に都内のホテル関係者などに紹介するセミナーをホテルメトロポリタン エドモント(東京都千代田区)で開催した。「SDGsと食品ロス削減への取り組み~国際連合食糧農業機関(FAO)親善大使の役割~」をテーマに、日本ホテル特別顧問統括名誉総料理長であり、FAO親善大使の中村勝宏氏が講演を行なった。以下に、中村氏の講演内容の一部を記載する。




「国連には様々な重要な機関が多くありますが、国連食糧農業機関(FAO)とはそのうちの重要な機関の一つです。FAOは、国連の決議により1945年10月16日に発足しました。毎年10月16日は世界食糧デーとして、多くの国々がそれぞれに食糧シンポジウムを開催しております。この目的は、『人々が健全で活発な生活を送るために十分な量・質の食材の定期的なアクセスを確保し、すべての人々の食糧安全保障を達成する』であり、食糧安全保障とは『すべての人々が常に活動的・健康的な生活を営むために必要となる、必要十分な安全で栄養価に富み、かつ食物の嗜好を満たす食料を得るための物理的・社会的および経済的なアクセスができること』です。残念なことに、現実的にはフードロス・飢餓問題などにおいては、新型コロナウイルスの世界的パンデミックや、今日のウクライナ問題などが発生したことで、極めて厳しい状況に陥っています。FAOの戦略目標は『より良い生産、より良い栄養、より良い環境、そしてより良い生活のために、より効率的、包摂的かつ強靭で持続可能な農業・食料システムへの変革を通じ、誰一人取り残さない社会を目指すこと』であります。

SDGsについてはすでに多くの方に認識されていることですが、ここで少しだけ触れさせていただくと、SDGsは2015年に国連が持続可能な開発目標の中で決議したことで、開発途上国のみならず先進国も取り組むユニバーサルな取り組みです。これは世界中の様々な環境問題・気候変動・差別・貧困・人権問題・感染症・ジェンダーなど、人類が直面する様々な課題に取り組み、2030年度までに世界が連携し、より良い社会の構築を目指すために掲げられた目標であり道標です。これには17のターゲットと169の達成基準、232の指標があります。1~17のターゲットはその一つ一つがとても大切なことですが、食に関するものも多く含まれています。特に12番の『作る責任・使う責任』は私自身が料理人ということもあり日頃から肝に銘じていることです。SDGsの取り組みはそれぞれの企業価値を高めるためにも必然的です。当然ながら今、全ての企業が地球温暖化防止の一環としてCO2削減に関して大きな責任を持って取り組んでいるわけですが、SDGsへの取り組みはこれと同等に大切なものです。
 
世界の食品ロスの現状についてじっくりお話しさせていただきます。興味深いのは、中・高所得諸国ではサプライチェーンの半ば〜後半でロスがよく見られることです。つまり作る過程ではなく購買を中心としたその後の過程でロスが出るということです。会社の商品化の工場でもそうでしょう。反対に低所得諸国では前半の段階でロスが多く、これはひとえに、インフラの不足というのがかなり影響していると思われます。
それから世界では全世界の人類が十分に食べていけるだけの食材や食品が生産されているわけですが、私がFAOの親善大使に任命された2017年頃までのデータでは、生産の約1/3の13億トンは様々な要因で廃棄されていると公表されていました。この食品ロスの数字は見方によって多少の違いがありますが、最近の国連の環境計画の報告書によると、世界の食品ロス9億3100万トンのうち61%は家庭、26%は外食産業、13%は小売という内訳です。井出留美さんのレポートでは、世界自然保護基金と英国の小売企業大手のテスコという会社の共同報告書によると、世界では25億トンもの食品ロスが発生しているとのことです。FAOが発表したものからするとかなりの増加が目立つわけですが、その食糧生産のうちの40%が廃棄されています。内訳は農場で12億トン、小売・消費で9億トン、貯蔵・加工・製造・流通で4億トンとなっています。
ここで申し上げたいのは、日本における農場のロスの数字は、農家の方が生産した後の廃棄の数字であり、出荷前の農家自身のロスに関する数字は出ていません。私はこちらのロスもかなり出ているのではないかと思っています。」



「日本の食品ロスの現状という話題に移ります。食品ロスには3パターンがあります。1つ目は、まだ食べられる食品・食材の部分を過剰に廃棄してしまうものです。2つ目は消費期限・賞味期限を過ぎたものを手付かずのまま直接廃棄してしまうもので、これは買いすぎに起因するものです。最後は食べ残し。これら3つが主な要因となっています。日本の食品ロスの推移について少しお話ししておくと、2017年まではかなり多く、612万トンでした。それが2018年には600、2019年には570とだんだん減っていきました。この6月に発表された2020年度の食品ロスはだいぶ良くなりまして、522万トンです。家庭系と工場系/事業系がありますが、どちらも改善されていて、これはひとえに日本人のフードロスに対する関心が高まったからだと思います。
WFP国連世界食糧計画が2020年にノーベル平和賞を受賞しました。これは砲弾が飛び交うような紛争地またはあらゆる災害、難民問題などにより飢餓で苦しむ人々に食糧を届ける活動が認められたためです。WFPが年間でこれらの地域に送っている食糧は420万トンです。この食糧援助の数字と、今日の日本の522万トンという食糧廃棄の数字を比較すると、私たちはまだまだ食品ロスの改善に日々の努力が求められるわけであります。
 
また、2019年に食品リサイクル法という基本方針が決まりましたが、こういった政府の努力もフードロス抑制に貢献しているのではないかと思います。しかし、フランスには2016年に施工された『食品廃棄禁止法』というさらに厳格な法律があります。この法では大型スーパーなどで賞味期限切れの食糧を廃棄することを禁じています。どのように処理しているかというと、期限が切れる前に適切な方法を取り、あらゆる慈善団体に送って食糧を配布したり、飼料や肥料として利用したりするなどして、食品を直接廃棄しないで済むシステムが確立されています。
ゴミの処理も馬鹿にできません。年間2兆9100億円、国民一人あたり1万6900円をゴミの処理に支払っています。2050年には世界人口が97~100億人になるのではないかと言われていますが、この食品ロスの廃棄問題を放置しておけば食糧不足はますます深刻化していきます。また、最近特に気になるのは食品価格の高騰です。この6~7月で3千品目が上がり、今年中に1万品目、もしかすると1万8千品目以上になってしまうのではないかと思われます。これはウクライナ問題や円安含め様々な要因が考えられますが、だからこそ私たちは食品ロスに対してしっかりと取り組んでいくことが必要なのではないかと考えます。
 
飢餓の主だった発生要因として、地球温暖化がまさにそうですが、世界的な気候変動による自然災害の発生、地震、海洋汚染、水資源の枯渇、土壌の劣化、干ばつ、温室効果ガスの発生など多くが考えられます。先日の日・欧・米・韓の国際研究チームの発表によると、温暖化がこのまま進むと世界各地で前代未聞の大きな干ばつが5年以上続くような事態になると予想しており、温室効果ガスの削減対策を進めればその時期を遅らせ、干ばつが続く期間も短縮できると発表しています。2番目には民族問題や複雑な政治的問題による紛争、及び難民の発生、3番目は世界の経済の停滞、4番目は新型コロナウイルス感染症による世界的なパンデミックによって大変な状況に陥っています。
 
日本の食糧自給率について取り上げると、2020年の食料自給率は37.17%で、先進国としては最低となり、ついに38%を切ってしまいました。端的に言うと、残りの63%は輸入に頼っていることになります。日本の食料自給率の低さには様々な要因がありますが、強いて言うと、食生活の欧米化や日本の主食であった米が食べられなくなってきていることなどが挙げられます。また農家の後継ぎ問題も表面化し、農産物と農耕地が減少したことも考えられます。また、日本の畜産はその飼料のほとんどを大幅に輸入に頼っています。国産飼料だけとなると、牛肉(10%)、豚肉(6%)、鶏肉(8%)と極端に少なくなります。ここであえて申し上げますと、日本は食品ロスも多いうえに、さらに食料自給率も低いという現状です。
しかし、良い面として挙げると、我が国の2021年度の食品輸出総額は1兆2385億円となりました。これはひとえに日本のフルーツや魚介、和牛などが海外でもすごく評価されているということです。政府はこれを3兆、4兆と伸ばしていこうとしています。しかし日本が輸入している金額と比べるとまだまだ少ないのが現実です。
 
『mottECO(モッテコ)』にお話に移りたいと思います。これには『持って帰ることがエコにつながる』という意味が込められており、レストランなどで自分の食べ残しを持ち帰ろうという行為のことです。しかし、日本では食中毒という懸念すべきことが多くありますので、特にホテルなど大人数に対して食の提供をしている場ではなかなか難しいことでもあります。ですが、私ども日本ホテルでは食の安心・安全を全面的に担保したなかで、決して無理せず、できることから始めようと、この4月1日より実施に踏み切りました。
このことは、2018年に日本ホテル全体でフードロスに取り組もうというプロジェクトを立ち上げ、その後、2021年にSDGs推進委員会を発足し、様々な分科会を設けたこと、それらの前段があってこそ、『mottECO』の実施につなげることができたのです。
 
これらの取り組みは我々日本ホテルが単独で行なうにはリスクがあります。こうした取り組みには国の指針も明確に示されています。そこで、環境省や農林水産省、また最寄りの保健所や行政との話し合いを密にしながらともに取り組む姿勢が大切になります。また、日本ホテルでのあり方を、全面的に公開しながら、業界全体で広く推し進めていくことをモットーとしております。
最後になりましたが、私の料理人の立場から一言申し上げますと、我々料理人は厨房で美味しい料理作りに励むのが当然の役割ですが、しかし今日ではある程度経験を積んだ方々は、料理人の立場から一社会人としていかに社会に貢献できるか、そのことを模索し、行動していくことが大切です。こうして個人個人が自分の立ち位置の中でまずできることを積極的に行っていくことが、今、求められていると思います。」


ホテルメトロポリタン エドモント 公式HP
https://edmont.metropolitan.jp/

 

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