「日本で造られる日本酒」の特性を明確に示さなければ存在感が薄まる
島田 土壌の研究は、海外展開も意識した取り組みなのでしょうか。
本田 私はワインも日本酒も、最終目的地は変わらないと思っています。ただ、「伝え方」はワインが世界一進んでいる飲み物だと言えます。ですから日本酒もワインに学ばなければならない部分が多いと思います。これまではどちらかと言うとボルドー型の付加価値の付け方が、日本人に非常に合っていたのだと見ています。「誰々が評価したから素晴らしい酒だ」という基準ですね。日本酒は基準が一つしかないのですが、ワインには別の付加価値の付け方が存在するところにすごみがあって、それがテロワールの考え方を基準に評価するブルゴーニュ型です。私たちはこれを日本酒に持ち込みたいのです。
もともと海外を意識することなく続けてきた取り組みですが、龍力が外国でも流通できているのは結果としてそういった取り組みも含めて海外に評価された結果なのかもしれません。
島田 これからの時代、日本酒マーケットはどうなっていくと予測していますか。
本田 新しい時代には国境がなくなっていくと思います。人々が同じものを、同じように食べて、同じ酒を同じように飲む世界になっていくのではないでしょうか。
地球環境をより真剣に考えることが求められる時代には、世界中の人々がより魚を食べるようになると私は考えています。メイン料理の多くが、肉ではなく魚になっていくと思うのです。魚は1匹から大量の卵を産みますから、時代の要請に応えられる食材としてより多く使われていくのは至極当然の流れと言えるのではないでしょうか。
その流れを背景に、日本酒は世界中で重宝されるようになると私は信じています。世界中で日本酒が造られる時代が到来すると仮定すると、「日本で造られる日本酒」の特性を明確に示していかなければ、競争の中で存在感が薄まってしまうでしょう。私は酒造りを楽しみたいし、お客さまには日本酒を楽しんでほしいと願っています。酒は眉間にしわを寄せて飲むものではありません。楽しく飲んでもらうことを考えて、その結果の一つとして出てきたのが土壌の研究の話だと思ったりもするのです。
造り方ではなく、ストーリーを話せる日本酒業界になれば、日本酒はもっと海外に出て行けるでしょうし、さらに違った世界が広がっていくでしょう。