郷土料理とのマリアージュ、和食とのポテンシャルも
ルエダでベルデホとともに存在感を高め、成功している品種の一つとして菊池ソムリエがスターターにしたのがスペインの老舗ワイナリーであるマルケス・デ・リスカルのソーヴィニヨン・ブランだ。品種の特性を表現するために特定の酵母を使用し、豊富なミネラルを生かした複雑さを備えている。スペイン本店(昨年10月に閉店)の創業シェフ、カルメ・ルスカイェーダ氏のレシピに基づく3 種類のタパスに合わせた。ワインはハーブやローズ、甘い柑橘やアプリコットなどが香り、横に広がるような酸がルエダのソーヴィニヨン・ブランを特徴づけている。
続くマグロのタルタルにはステンレス発酵のベルデホがその特徴を示した。ベルデホはスペイン語の“ 緑” に由来しているという説もある。ホセ・パリエンテのベルデホ2016 はフレッシュなフルーツ感があり、フェンネルやアスパラガスのような野菜、白桃やアニスの香り、さわやかな味わい。アフターのベルデホ特有の苦みが余韻を引き締める。マグロの上部を覆うワサビの葉に白しょうゆで作ったジュレとソラマメのピューレは、ルエダの伝統料理でありサンパウのシグネチャーである一品に東京らしさが加わっている。和食にも合わせやすい品種であることが感じられる。
バカラオ(干し鱈)の低温調理と地中海スープに合わせたのは、エルマノス・リュトン「クエスタ・デ・オロ」だ。発酵後に酵母などの澱引きをせずに静置するシュールリーを12 カ月にわたり行なったワインからは、輪郭のはっきりしたワインが出来上がる。野菜や山のイメージが強いベルデホを魚や貝のスープに合わせ、ワインがタラの香りを抑えてくれるマリアージュが示された。
ベルデホは樽熟成の魅力も併せ持つ。カスティーリャ・イ・レオンの郷土料理に合わせたボデガ・ベロンドラーデはベルデホの樽熟成を確立させた生産者だ。「ベロンドラーデ・イ・リュイトン2014」はフレンチオークでシュールリーをしながら10 カ月熟成させたことにより、ナッツやアーモンドの複雑な香りやふくよかでリッチな味わいが感じられる。料理は仔羊のクラシタ肉に、骨から採っただし汁を煮詰めたソースと白アスパラガスを添えた。
食後にはヤギのチーズに合わせて酸化熟成させたベルデホの酒精強化ワイン「ドラド」が紹介された。ルエダで生産されている、「デ・アルベルト ドラド NV」はフレッシュなベルデホが生まれる以前に、大きな花瓶状の器で酸化させるスタイルのワインとしてポピュラーだったようだ。シェリーの人気も高まる中で、日本ではほとんど知られていなかったこの種のワインの存在にも目を向けておきたい。
「サンパウでは、ディナーは現地のレシピに忠実に、ランチは東京らしさを併せたメニューを提供しています。今日のメニューはカルメのレシピとルエダの郷土料理をもとに、春を意識したコース。ルエダという地域について深く考える良い機会でした」とサンパウ東京店のシェフ、赤木渉氏はメニュー作りの過程を語った。また菊池ソムリエは「ベルデホはサンパウに欠かせない品種。多様な表情を見せるワインで、提供温度やグラスの形状によっても姿を変える魅力があり、シュールリー、樽熟成、酸化熟成と異なるタイプを用意させていただきました」とベルデホの魅力を伝えた。
スペインの郷土料理をベースにした創造性豊かなサンパウとのマリアージュを通して、日本料理との可能性に対する示唆にも富んでいた。
サンパウの赤木渉シェフ(左)と菊池貴行シェフソムリエ
バカラオの低温調理と地中海スープ、アサリ、根三つ葉
移転前、日本橋のサンパウのアートあふれる空間。平河町への移転に向けた期待も高まっていた