「Anteprime di Toscana」とは、その年にリリースされる主なトスカーナワインの公式試飲会。イタリア内外のワインジャーナリスト約150人を招聘して開催されるイベントから、トスカーナを中心にしたイタリアワインの道筋が見えるという。今年のアンテプリメはどう映ったのか。例年この地を訪れている日本人初のプロフェッショナル イタリアワイン ソムリエ、林茂氏がレポートする。
「キアンティ・クラッシコ・コレクション」の会場「スタツィオーネ・レオパルダ」はフィレンツェ最初の鉄道駅だった場所。この旧駅舎に、197社、731アイテムのキアンティ・クラッシコが集まり、3000本におよぶワインが試飲される
2016年のキアンティ・クラッシコ リゼルヴァに備わるポテンシャル
Anteprime di Toscana(以下、アンテプリメ)とは、トスカーナ州における主要なワイン生産地の品質保護協会によって開催される大規模な展示・試飲会。年間で行われる国際的なテイスティングの中でも、その年にリリースされるこの地のワインが最も早くお披露目されるものとして存在感を放っている。
2月9日のプレ・イベントを皮切りに、10日に「キアンティ・ラヴァーズ」、11日には「キアンティ・クラッシコ・コレクション」がフィレンツェで行なわれ、さらにヴェルナッチャ・ディ・サンジミニャーノやヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノに移動して、それぞれの地域のテイスティングが行われる。今年リリースされるワインが出品されるため、それらの年の全体的な傾向がわかるのも特徴だ。
イタリアワイン全体として、かつての色調が濃厚でタンニンが強く、小樽を多く用いたものではなく、エレガントなワイン造りに進んでいるが近年の傾向だ。
「キアンティ・クラッシコ・コレクション」は実に197社、731アイテムが出品された。2017年は決して高い評価のヴィンテージではなかったが、樽の使い方も良くバランスのとれたワインがあり、意外と良い印象を持った。サンジョヴェーゼ100%によるワインが増えているのも近年の顕著な傾向だろう。米国市場で好まれるボルドー品種をブレンドして、ワインの力強さを高めたものが1980年代にスーパータスカンとしてブームとなり、それがキアンティやキアンティ・クラッシコにも取り込まれた。一方、スーパータスカンの中でも土地の魅力を生かしたものとしてサンジョヴェーゼ100%で造っていたものが、今日のグラン・セレツィオーネのポジションに移行している印象を受けている。
果実味が高くはない17年に対して、16年のリゼルヴァは果実味とタンニンのバランスが非常に良い長期熟成型のワインが多く見られた。木樽のニュアンスが強いものではなく、全体としてバランスの良さが目立った。それに対して、暑い気候でボディに厚みのあるワインになる15年のものには、行き過ぎたワインも散見された。全体として力強さとエレガントさの両立に向かう中で、樽の使い方がポイントになっており、その差が大きく表われたと言える。14年のリゼルヴァは、全体的にはおとなしいワインだ。気候の影響もあり、果実味も控えめな中で樽を上手に使って仕上げたワインも見られた。13年のリゼルヴァもやはり軽めのワインが多く、バランスの良さを感じるワインも多くはなかった。長期の熟成は難しいかもしれない。暑い年だった12年のグラン・セレツィオーネは熟成が進んでいるように見え、まろやかで心地よい飲み口のワインが多かった。さらなる力強さを期待した11年のグラン・セレツィオーネには、素晴らしいワインが多かったバローロなどほかの地域の同年ヴィンテージに対して、過度な期待はできない印象が残った。
キアンティ・クラッシコはリゼルヴァとグラン・セレツィオーネで52%が輸出されており、やはりハイクオリティワインへの海外需要は高い。地域全体では77%が輸出されており、米国に34%、カナダに11%、ほかドイツ、日本、スカンジナビアに向けた輸出が伸びているという。全体の方向性として力強さと果実味、エレガントさを持ったワインに仕上げる上で、ブドウのクオリティと醸造技術による差の見極めは今後も必要だろう。
林 茂(Shigeru Hayashi)
ソロイタリア代表
13 年間のイタリア駐在期間中、1995 年に日本人で初めてのイタリアプロフェッショナルソムリエ資格を取得。日伊の食文化交流への功績により「カテリーナ・ディ・メディチ賞」を受賞。パルマ・アリメンターレ協会による優れた記事を書いたジャーナリストに与える国際表彰「マリア・ルイージャ賞」を日本人で唯一受賞している。EATALY JAPAN ㈱代表取締役を経て現職。著書に「イタリアワインの教科書」「最新 基本イタリアワイン」「和食で愉しむイタリアワイン」など多数。