2007年3月、中国北京のホテルで開催されたコンフェレンスに参加し、その最終日に所属する地域統括社長に自分は総支配人になりたい、と直接訴えました。
その場で言われたのは「いくつかの大きなチャレンジ(試練)を与える、その結果を出せたらまずは土俵に乗せる(ここでは具体的に総支配人トラックという総支配人になるためのプログラムへの参加を推薦すると言われました)。あとは自分次第だ」、と。
それ以来、大小合わせてかなりの数の試練を与えられました。人使いが荒いのです(苦笑)。言葉はよくないですが意にそぐわない溝さらい的な仕事もかなりやりました。そして運もあり現在に至っています。
今、思えば仕事ですから好きや嫌いなどという尺度では物事言えないのですがいくつかの仕事は手に余るものでまた、非常に嫌な仕事もあり、その上司を恨みました。
しかし、結果的にはこうした仕事をこなす、さばくことが精神的な強さになり、自身の耐久性の増強にもなりました。以前にも書きましたが苦手な仕事、辛いことは、渦中は大変ですが確実に自分自身の成長を促し、そして強くなります。
同時期の別の機会にアジア・太平洋地区の最高人事統括責任者がミーティングの際のプレゼンテーションでホテルオペレーションを担う皆が何を思い、何を考えているかを知りたいという話をしていたので私は無謀(当時はまだ勤務年数も短く、社内的にも無名な存在で、単なるホテルの一部門長でした)にも「総支配人になりたい」と直接本人にメールを出しました。
これは後で知ったのですがこのメッセージを聞いた後、今後のキャリアについての要望をメールで送ってきたのはアジア・太平洋地区でも私だけだったそうで、そういった意味では印象に残っていたとその後、お会いした際に伺いました。
「自分のやりたいことを言ってしまおう」
「有言実行」
「退路を断つ」
色々な言い方がありますが、まずは自分の気持ちを伝えないと先には進みません。それを笑われるか、馬鹿にされるか、応援してくれるかで相手の器量も間接的には分かります。
目標を設定していなければ口にだして言うこと、人に語ることもできず、プロセスも分かりません。プロセスを追えない以上、目標は達成できません。
社長でも自分の目標を口に出して言えるのは10%程度とある統計では言っています。
口にだすことにより自身のアンテナが立ち、そうした情報が視覚や聴覚でとらえられます。またレセプトという反応は自身が言葉、口にだすことにより自身で反芻し自問自答が始まります。
不言実行は奥ゆかしく日本らしい所作のひとつではあります。しかし、今の時代では機能しなくなる可能性があります。
厳しい言い方をすれば、“不言”は何故かというと自信がない、言い訳の機会を残しているということでもあり、さらにこの不言だけに焦点を合わせるならば“伝わらない”ということです。
今後、我々ホテリエを取り巻く環境はさらに大激変します。人口動態の変化(日本人の減少)に関わらずご承知のようにこれから数年のうちにホテルの開業数は前人未到の世界に踏み出します。このギャップはAI、ロボットの他、日本以外の国の労働者の力を借りなければ到底追いつけるレベルではなくなります。
そうした意味では今後は今まで以上にコミュニケーション力、そして伝える力が成否を分けることになります。
時代の要請は我々ホテリエをますます困惑させ、不安に陥れるようになると考えています。複雑で不透明で混沌とした中での対処はシンプルに考え、柔軟に動くことです。
ご存知かもしれませんが、緊急治療、犯罪シーン、そして有事の自然災害時、すなわち究極的混沌とした中ではシンプルなルールによって対処されています。シンプルなルールには、
・境界線ルール = 何をやって、何をやらない
・優先順位ルール = 順番を決める
・ハウツールール = プロセスに特化しどのように?に主眼を置く
・止めるルール = 不要なことをやめるなどがありますが複雑だからこそシンプルに物事を考えましょう。
また柔軟な動きとはバスケットボールに見られる”ピボット“です。
バスケットボールはドリブルで自由に動けますが、一度、止まるとパスをしない限りはピボットという動作でその後の対処法を模索します。これは軸足(片足)をしっかり固定し、もう一方の片足は360°柔軟にパスを出すまで自由に動けるというものです。どんなに混沌とした世になろうとピボット方式で自分の軸を決め、あとは皆さんの才覚、情熱、そして行動で打開するのです。
27歳で1万日、55歳で2万日、82歳で3万日、人生は余りにも儚く短い。
人に夢と書いて儚いとは良くいったものでこの世に生を受けた以上、やはり熱く生きたいものだと考えています。
要は挑戦と行動。
好きな言葉があります。
There has never been any great work which is accomplished without challenge.
挑戦なくして成し遂げられた偉業は未だかつてひとつもない。
- 福永 健司 プロフィール